ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

昨日到着

2013年01月20日 03時48分27秒 | 探検・冒険
こっちの時間の昨日、町に到着した。

到着したといっても、目的地であるウルカクトックではなく、出発地点であるケンブリッジベイだ。実は年末に出発して五日目に、二台用意したストーブの両方とも調子がおかしくなってしまったのだ。ストーブに不安を抱えたまま、何百キロもの無人荒野に突入することはできない。そこで、ケンブリッジに一度戻って、知り合いにコンロを借りて、すぐに再出発し、ウルカクトックではなく、北米大陸のケント半島を3週間ほどうろうろしていた。

もともと今回は冬の北極を天測で旅できるのか確かめることが目的だったので、ウルカクトックにはさほどの執着はなかった。だからストーブが危なくなった時点で、すぐに計画を変更した。

しかし、結果的にはウルカクトックに行かなかったことで、逆に今回の旅はより奥深いものに変わったような気がする。たぶんウルカクトックを目指していたら、そのまま頑張って到着できていたと思う。しかし、到着で来てよかった、よかったで終わっていただろう。じっくり天測に取り組む時間もなかっただろうし、冬の北極を自分なりに味わう余裕もなかったはずだ。しかしケンブリッジベイ周辺を放浪することに計画を変えたことで、自分に中で冬の北極を旅することの意味がはっきりと見えてきた。どこかを目指すことを放棄することで、新たな旅のスタイルを手に入れたような気がしたのだ。

それにしても冬の北極は予想以上に気象条件が厳しい。天測は10日に一回できるかどうかというぐらい、チャンスが少なかったし、やはり実地でやってみると、今回採用したシステムは実用的でないことも分かった。用意した装備も冬だと厳しいことも分かり、検討課題が次々と明らかになった。寝袋なんかすごい。太陽がなくて永久に乾く機会がないものだから、汗がじわじわ綿の中で凍ってどんどんでかくなっていく。

あとナビゲーション。いやー怖かった。冬にGPSをもたない。それだけで北極を旅することは何倍も難しくなり、実に奥が深くなる。なんとも面白いのだ。そして何より、今後の冬の旅のテーマが明確になったことが、一番の収穫だった。実際に旅をすることで、新たな旅の姿が浮かんでくる、今回の旅はそんな素晴らしい体験になった。早く日本に帰って、すき焼きが食べたい。今はそんな気持ちでいっぱいだ。

ちなみに写真はない。出発直後に霜が内部に侵入し、それがテント内で溶けて、使えなくなってしまった。これもまた、次回の検討課題のひとつである。
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