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個人線量計と空間放射線検知器の違い

2012-05-26 16:07:42 | 科学
 個人線量計と放射線検知器ハ別のもの、というニュースを見て、私自身「あれ!?」と思い調べてみました。

 お恥ずかしいことに私が日々利用している"Dose RAE"は線量計で、検知器ではありませんでした。

 従ってこのブログにのせているデータの信頼性にも ? が可成りつくことになります。

 以下この点についての記事をどうぞご覧ください。

「放射線測定器と個人線量計 ~何が違うの?

「個人線量計」とは「個人用の線量計」という意味ではありません。「周辺線量」に対して「個人線量」という概念・定義がちゃんとあり、これを計測する機器が「個人線量計」です。


■放射線測定器(狭義)と個人線量計の用途の違い

まずは、先日のウクライナのニュースを改めて見てみます。

Ukraine’s government will supply 2,000 personal dosimeters and radiometers

「personal dosimeters」は個人線量計、「radiometers」は放射線測定器(狭義)という意味です。放射線測定器は「radiation detector」ともよく言われます(「放射線測定器」という言葉の定義に関しては、当記事の最後の方もご参照下さい)。

このように、両者は言葉上、明確にわかれています。言葉が違うということは意味も違うということです。では、個人線量計と放射線測定器(狭義)は、いったい何が違うのでしょう。両者の用途・使用目的をまずは具体的に見てます。

まずは放射線測定器(狭義)から。いわゆるガイガーカウンターやシンチレーション式放射線測定器のほとんどがこれにあたります。TERRAシリーズ、RADEXシリーズ、Inspector、PA-1000 Radi、すべて放射線測定器です。みなさんが普段やっているように、空間線量(率)を測定したり、あるいは地表などの表面汚染の測定・検出に使います。

一方、個人線量計は直近の記事で取り上げたECOTEST CARDがそうなのですが、あと有名なのは日立アロカメディカルのPDM-122、富士電機のDosei、ちょっと独特ではありますがDoseRAE 2などがこれにあたります。こうした線量計が使われる現場の典型例が病院です。


病院内では放射線をよく使います。ですから、レントゲンや放射線治療を担当するような医師、看護師は個人線量計を胸ポケットにさしています。そして、一日の勤務が終われば、その日に受けた線量をチェックします(チェック方法は病院によって異なるでしょうが)。個人線量計でも線量率を測定することができるものもありますが、主な目的はあくまでも個人が実際に受けた放射線量の管理です(この場合の線量率というのはちょっと意味が違うのですが、これについては後述)。


■周辺線量と個人線量

以上のように用途・目的が違いますから、両者の測定システムもまったく異なります。結論から言いますと、放射線測定器(狭義)は周辺線量を、個人線量計は個人線量を測定するように設計されています。

周辺線量、個人線量をこれから説明していきますが、まずは小難しく定義から書いてみます。サラっと読んで下さい。

周辺線量当量:ambient dose equivalent
= H*(d)

放射線場のある一点における周辺線量は、まずその点において整列・拡張場を考え、ICRU球を置いた場合(すなわち、方向以外はすべて実際の状態と同じ放射線が、ICRU球全体に一様にかつ一方向から入射した場合)、整列場の方向に対向する半径上の深さdにおいて生ずる線量


個人線量当量:personal dose equivalent
= Hp(d)

個人線量とは、人体のある指定された点における適切な深さdにおける軟組織の線量
※ICRU組織等価物質でできた30 cm× 30 cm× 15 cm スラブファントムを用いて線量換算係数が定められている


ちょっと難しいですね。長くなりますが、わかりやすく説明していきます。

まず、ICRU球について。ICRUとは「国際放射線単位・測定委員会(International Commisson on Radiation Units and Measurements)」です。ICRU球とはこのICRUが定めたモデルで、具体的には密度が1g/cm3、直径30cm、酸素76.2%、炭素11.1%、水素10.1%、窒素2.6%でできた人体軟組織等価球体モデルです。このICRU球を基準にして線量というものを考えましょうとICRUが勧告しました。

で、たとえばTERRAはH(10)という基準でγ線を測定できるのですが、これはつまり、ICRU球の深さ10mm=1cmのところに入射してきた放射線量を測定すると仮定して数値を表示していますよ、という意味です。

図をご覧下さい(図はこのブログにはありません)。3つの図にわかれています。

 一番左が現実の状況。いろいろな方向から放射線はやってきます。

 次に真ん中の図。現実には放射線はいろいろな方向からやってくるのですが、これを整列し、拡張して考えます。

 そして右の図。ICRU球にあてはめ、深さ10mmの地点にあるP'の放射線量を測定する。と仮定して、放射線測定器は作られているんです。

一方、個人線量計はICRU球と同じ材料で作られた直方体のスラブファントムを用意します。そして、この上に個人線量計を置き、入射してきた放射線量を測定した値を元に設計されています。

左の図はPDM-122の説明によく付されている図です。ファントムがあり、方向によって特性が異なるということが表されています。特に注目してもらいたいのが、後方約180°分の領域です。ここに青い線がありません。つまり、ファントムがある背後からの放射線は対象となっていないのです。なぜなら、背後から来る放射線はHp(10)ではないから。

さらに、ファントム=人体が個人線量計の背後にあるということは、正面から飛んできた放射線が、ファントム=人体によって跳ね返ることもあります。いわゆる後方散乱(back-scattering)です。個人線量計は、どれほどの放射線が跳ね返ってくるかもちゃんと加味して数値を表示しようとしています。

なお、こうした後方散乱等のない状態を「free-air」と言います。日本語に訳すと「自由空間」です。これを測定するのが放射線測定器(狭義)です。そして、もしかしたらピンと来ている方もいるかもしれませんが、私たちが現在、一般的に使っている「空間線量」という言葉は、この「自由空間」のことを指し、実質的には「周辺線量」を意味しています。


以上を踏まえると、β線をSvで測定してはいけないということもわかるのではないでしょうか。たとえばTERRAの場合、H(10)つまり人体組織の1cmの深さを測定すると仮定してSv表示させているのですが、β線は深さ1cmまで到達しません。SvはH(10)が前提とされているのに、H(10)とは関係のないβ線を計ろうとすると、当然、誤った測定結果が出てしまうというわけです。もちろん、よく言われている通り、γ線とβ線の検出効率の違いも、この理由のうちのひとつです。


■個人線量計で空間線量を計ってはいけない

難しかったかもしれませんが、とりあえず、個人線量と周辺線量は違うもので、それぞれを計測するための放射線測定器と個人線量計は仕組みが異なり、用途・目的も異なるということが、おわかり頂けたと思います。

さて、個人線量計を空間線量の測定に使ったとします。すると、人体(=ファントム)がすぐ背後にありませんから、おかしな数値をはじき出すかもしれません。想定外の使用により、想定外の数値が出る可能性があるということです。個人線量計で空間線量(率)を測定するのは、基本的にはやめておいた方がいいと思われます。

では、なぜ個人線量計にも線量率表示があるのか。この線量率はあくまでも個人線量に関わる線量率、つまり、個人線量率だからです。空間線量率=周辺線量率とは意味が異なります。

※論理的に考えれば、そして空間線量=周辺線量(Ambient dose)だとしたら、そもそも個人線量計では空間線量を測定できません(測定”してはいけない”ではなく測定”できない”)。なぜなら、個人線量計は個人線量当量(率)を測定するものだからです。もし空間線量を測定できるのなら、それは個人線量計ではありませんw 以上は論理的な話です。


■個人線量計はどういう場合に使えばいい?

個人線量計は個人の被ばく管理をするものです。どれだけの放射線を実際に浴びたかを計測、記録し、管理するために使います。たとえば、東京都あたりで使ったとしてもあまり意味はありません。比較的線量が低いですから、積算してもそれほど大した量の外部被ばくはないだろうと予想されるからです。ただ、まったく心配がないかというとそうでもないでしょうから、放射線測定器(狭義)で空間線量を測定する程度でいいと思います。

一方、福島県内などで特に線量が高い地域でしたら、日々の空間線量の測定はもちろん、個々人がどれだけ被ばくしたかを継続的に計測し記録することも大切かもしれません。特に子供の場合は、原発事故に由来する被ばくはできるだけ少なくしたほうがいいに決まっています。そうした場合は子供に個人線量計を持たせ、被ばく量をチェックすることにも意味があると思われます。

ただし、子供に個人線量計を持たせ、被ばく管理をしなければいけないという状況がそもそも…。どうなのかと…。まあ、何もしないよりかはいいでしょうから、子供に精神的負担がないようであれば、持たせてもいいかもしれませんけどね。


■「放射線測定器」「線量計」という言葉の定義

最後に、「放射線測定器」という言葉の定義ですが、広く解釈すれば、放射線を測定するための機器ですから、個人線量計も含まれます。しかし、一般的に放射線測定器と言った場合は周辺線量を測定するための放射線測定器を指すことが多いようです。個人線量を測定する測定器は個人線量計と呼ぶのが通例です。そして、前者はサーベイメーターとも言います。こう呼んだほうが広義の放射線測定器と区別しやすいですね。

そしてもう一点、非常に重要なことを。「線量計」という言葉です。この言葉がとても厄介です。そして、この言葉のために、多くの人に誤解を与えています。

まず、これまでを整理しますと、私たちが使っている放射線測定器は大別すると2タイプあります。

[放射線測定器]
・サーベイメーター
・個人線量計

そして、「線量計」とは一般的には「個人線量計」のことを指します。

JISZ4312:X線,γ線,β線及び中性子用電子式個人線量(率)計

1.適用範囲 この規格は、X線、γ線、β線及び中性子による外部からの個人被ばく線量当量(率)を測定する電子式個人線量(率)計(以下、線量計という。)について規定する。

JISZ4333:X線及びγ線用線量当量率サーベイメータ

1.適用範囲 この規格は、X線及びγ線の1cm線量当量率を測定する放射線サーベイメータ(以下、サーベイメータという。)について規定する。

JISZ4511:照射線量測定器,空気カーマ測定器,空気吸収線量測定器及び線量当量測定器の校正方法

1.適用範囲 この規格は、光子エネルギー10 keV~3 MeVの照射線量測定器、空気カーマ測定器、空気吸収線量測定器及び線量当量測定器(以下、測定器という。)の校正方法(ただし、特定標準器又は特定二次標準器などによる計量法に基づく校正は除く。)について規定する。

当サイトでは、このことをたびたび繰り返し言っています。なぜなら、放射線測定器を十把一絡げに「線量計」と呼ぶことにより、サーベイメーターと個人線量計の違いが理解されづらくなっているからです。個人用の積算線量計、空間線量計、積算タイプの放射線測定器。こうした造語が氾濫していることも、その証左です。

私たちが使っているのはサーベイメーターか個人線量計かのいずれかです。この二つ以外にはありません。そして、「線量計」とは普通、個人線量計を指します。「線量計」という言葉を安易に使うのは控えたいものです。

※「線量計」という言葉を使うなと言っているわけではありません。ちゃんと理解していればいいのですが、ただ、このように誤解を与えやすい言葉ですから、知識に差がある者同士がコミュニケーションを取るような場では、こうした紛らわしい言葉は使わない方がいいと私は思います。

なお、法令上でもこのことに触れられています。詳細はこちらをご参照下さい。

労働安全衛生規則及び電離放射線障害防止規則の一部を改正する省令の施行等について

(13)放射線測定器(労働安全衛生規則様式第27号、様式第28号、電離則第3条、第8条、第19条、第45条、第47条、第52条の3、第54条、第55条、第60条関係)

旧電離則では、個人の被ばく線量を測定する物を「被ばく線量測定用具」、作業環境中の放射線の量を測定する物を「測定器」として区別されていたが、現状において、機器の技術的進歩等に伴い、機器を測定用具と測定器とに明確に区別し難いことから、これらを包括的に表する用語として「放射線測定器」が用いられている。

ただし、個人の被ばく線量を測定するための放射線測定器と、作業環境中の線量を測定するための放射線測定器とでは、上記(8)等にあるとおり、測定データから1センチメートル線量当量に換算するための換算係数が異なっているので、測定の目的に応じて校正された放射線測定器を用い、又は換算を行う必要がある。

最近の省令、ガイドラインは、言葉の使い方がメチャクチャになってきてるんですけどね。以前はこのようにちゃんと区別してました。



周辺線量や個人線量を解説しているサイトは無数にあるのですが、どれもこれも難しい! そこで、放射線測定器、個人線量計という、私たちに身近な存在であるデバイスから、逆算的に考えてみたのですが、いかがだったでしょか。もし誤りがありましたら、ぜひご指摘下さい。ほんと、難しいですね(^^;)

[関連過去記事]
ぜひぜひこちらもご参照下さい。
JISで見る個人線量計とサーベイメーター(放射線測定器/狭義)
二本松マンションはなぜ3ヶ月もわからなかった?~個人線量計とサーベイメーター
「DoseRAE 2」超初心者&超難解講座~デュアルセンサーって何だ?
中国製放射線測定器の新基準(新というわけでもないけれど

[参考サイト]
ATOMICA「被ばく管理のための種々の線量」
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-04-02-05

みかげのページ「実効線量・等価線量・1cm線量当量などの単位について」
http://www.mikage.to/radiation/info/info0007.html

吉澤道夫「放射線防護に用いる線量概念について」(科学技術振興機構内)
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jhps/44/1/36/_pdf/-char/ja/

藤淵俊王「放射線防護のいろは:従事者の線量管理」(科学技術振興機構内)
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrt/67/1/63/_pdf/-char/ja/

兵頭俊夫のホームページ「放射線に関する量と単位」
http://www.geocities.jp/hyodo89/dose.html

加藤秀起「放射線施設設計学 講義ノート」(藤田保健衛生大学内)
http://www.fujita-hu.ac.jp/~hid-kato/pdf/sekkei-note.pdf

谷弘「放射線を理解してもらうことの難しさ」(財団法人放射線計測協会)
http://www.irm.or.jp/sub/sub6/news7.pdf」


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