読書と映画をめぐるプロムナード

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異端審問の亡霊に翻弄される男と女を描く、「宮廷画家ゴヤは見た」(スペイン、アメリカ/2006年)

2009-05-04 10:07:21 | 映画;洋画
~18世紀末スペイン、ゴヤ(ステラン・スカルスガルド)は国王カルロス4世(ランディ・クエイド)の宮廷画家に任命される一方、権力や社会を批判する絵画も描いていた。ある日、彼のミューズであるイネス(ナタリー・ポートマン)が、ロレンソ神父(ハビエル・バルデム)が指揮する異端審問所にとらわれてしまう。そして彼女を救おうとしたゴヤが見たものとは……。(シネマトゥデイ)~

原題:Goya's Ghosts
監督:ミロス・フォアマン
脚本:ミロス・フォアマン、ジャン=クロード・カリエール
音楽:ヴァルハン・バウアー
撮影:ハビエル・アギーレサロベ
出演:ハビエル・バルデム(ロレンゾ修道士)、ナタリー・ポートマン(イネス・ビルバトゥア/アリシア)、ステラン・スカルスガルド(フランシスコ・デ・ゴヤ)、ランディ・クエイド(国王カルロス4世)、ブランカ・ポルティージョ(王妃マリア・ルイサ)、マイケル・ロンズデール(グレゴリオ神父)、ホセ・ルイス・ゴメス(イネスの父;トマス・ビルバトゥア)、マベル・リベラ(イネスの母マリア・イザベル・ビルバトゥア)、ウナクス・ウガルデ(イネスの兄);ンヘル)、フェルナンド・ティエルブ(イネスの兄;アルバロ)、ジュリアン・ワダム(ジョゼフ・ボナパルト)

本作が描かれる時代背景は、ゴヤが40歳代にさしかかって、ようやくスペイン最高の画家としての地位を得た1792年頃、彼が不治の病に侵され聴力を失う前後であります。「今日ゴヤの代表作として知られる『カルロス4世の家族』、『着衣のマヤ』、『裸のマヤ』、『マドリード、1808年5月3日』、『巨人』などはいずれも、ゴヤが聴力を失って以後の後半生に描かれたものである」という画家としての円熟の時代。

そして、「1807年、ナポレオン率いるフランス軍がスペインを侵略し、翌1808年にはナポレオンの兄ジョゼフがホセ1世としてスペイン王位についた。事実上、ナポレオン軍の支配下に置かれたスペインは、1808年から1814年にかけて半島戦争のさなかにあった」頃、スペインおけるカトリック教会において正統信仰に反する教えを持つ(異端)という疑いを受けた者を裁判するために設けられたシステムである「異端審問」によって翻弄される人間模様とそれを描き続けたゴヤのお話。


<フランシスコ・デ・ゴヤ-Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%BB%E3%82%B4%E3%83%A4

<100年間封印された、ゴヤの「裸のマハ」とその理由>
http://blog.livedoor.jp/asongotoh/archives/2008-04.html?p=2#20080416

<Olga's Gallery>
http://www.abcgallery.com/G/goya/goya.html


そして、当時のスペイン国王、カルロス4世(1748年11月11日 - 1819年1月20日)とその妻マリア・ルイサ・デ・パルマ1751年12月9日 - 1819年1月2日)。この絵は、ゴヤが1789年に描いたカルロス4世です。カルロス4世に扮したランディ・クエイドが良く似ています。


そして、この絵は、ゴヤが1973年スペインの貴婦人Maria Teresaを描いた一枚ですが、映画の中でこの構図と似た絵をマリア・ルイサのために描いて、そのあまりにも写実的な絵に当の本人のご機嫌を損ねるというシーンがありました。ちなみにこのMaria Teresaは、制作年と人物像からカルロス4世とマリア・ルイサの娘マリア・テレサ(1791年 - 1794年)とは違うようです。

<カルロス4世-Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%AD%E3%82%B94%E4%B8%96_(%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%A4%E3%83%B3%E7%8E%8B)


本作の監督はここ数日注目してきたミロス・フォアマン氏です。「カッコーの巣の上で」で人間の精神の正常と異常の狭間を、「アマデウス」で天才と秀才に介する才能の計り知れぬ溝を描き、本作では宗教心という目に見えない信仰による束縛によって翻弄される人間模様を描いているんですね。ミロス・フォアマン監督はまた、ポルノ雑誌「ハスラー」出版者・編集者のラリー・フリントの台頭と法廷闘争を描いた「ラリー・フロント」(1996)では、エロスの狭間に蠢く人間模様を描いていますが、まさにこうした狭間で翻弄される人間を終生のテーマとしてる監督と言えるのではないでしょうか。

<羨望と嫉妬、天才の影でもがき苦しむ男の「アマデウス」(アメリカ/1984年)>
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/3f3599309f5b5860a2128403e35c4f92

<連休中に観ておきたい名作、「カッコーの巣の上で」(アメリカ/1975年)>
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/cecbc9d4e6f5f57587ecee1d696afb07


さて、俳優陣。狡猾なロレンゾ修道士を演じたハビエル・バルデム、ロバート・デ・ニーロの後を継ぐのはこの俳優さんと言えそうです。彼については、下記の記事で取り上げました。

<無頼の殺し屋に言い訳は聞かないぞ、「ノーカントリー」(アメリカ/2007年)>
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/437732870d4e2a1e847006231c1657b5


異端審問によって冤罪をきせられ幽囚の身となるイネスに扮したナタリー・ポートマンの演技は、シャーリーズ・セロンが演じた「モンスター」(パティ・ジェンキンス監督/2003)のアイリーン・ウォーノスばりのインパクトがありました。「レオン」以降の活躍が目覚しい彼女については、下記の記事で取り上げました。

<閉塞する人間関係を描く、「クローサー」(アメリカ/2004年)>
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/c4bce88fef2216778f9ff4f0a9835f19


フランシスコ・デ・ゴヤに扮したステラン・スカルスガルドについては、下記の記事で取り上げました。

<サスペンスもイギリスだとこうなるのか、「パーフェクトゲーム 究極の選択」(英/2007年)>
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/efe5097be73fcfea5c1de65de5a71ba4


国王カルロス4世に扮したランディ・クエイド。「インデペンデンス・デイ」(ローランド・エメリッヒ監督/1996)で、ベトナム戦争で戦闘機乗りだった経歴を持つ呑んだくれのラッセル・ケイスが印象的ですが、どうも「エルム街の悪夢」でフレディを演じたロバート・イングランドと区別がつかずにいました。

ランディ・クエイド(Randy Quaid,1950年10月1日 - )は「アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン出身の俳優。弟は俳優のデニス・クエイド。舞台で経験を積んだ後、ヒューストン大学で演劇を学んだ時に知り合ったピーター・ボグダノヴィッチ監督のデビュー作で1968年に映画デビュー。1973年の『さらば冬のかもめ』ではアカデミー助演男優賞にノミネート。その後、30年にわたり90本以上の作品に出演、ハリウッドでも性格俳優として知られている」。

<ランディ・クエイド-Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%82%A8%E3%82%A4%E3%83%89

王妃マリア・ルイサを演じたのはブランカ・ポルティージョ。1963年6月15日生まれ、スペイン出身。ペネロペ・クルス主演のスペイン映画「ボルベール <帰郷>」(2006)にも出演しているようです。

<Blanca Portillo - Wikipedia>
http://en.wikipedia.org/wiki/Blanca_Portillo


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