Daily Bubble

映画や歌舞伎、音楽などのアブクを残すアクアの日記。のんびりモードで更新中。

『チョコレート』

2008-02-09 22:50:22 | cinema
最近、アメリカが気になります。
今まではまったく興味が無く、アメリカに旅行したこともしようと思ったこともないのに。
10年くらい前までのアメリカのイメージは、からっと明るくて正しくて強いものでした。休みの日には芝を刈る子供好きなパパとケーキを焼くのが得意なママ、スポーツが得意な男の子とおしゃれな女の子。隠し事なんてしないオープンな家庭。
しかし、私がイメージしたアメリカはほんの一握りに過ぎなかったんですね。中流以上のアメリカの白人家庭。それがアメリカの全てだと思っていました。マイケル・J・フォックスが高校生役として活躍していた映画の世界をそのままアメリカとして認識していたようです。

日本に住む私の生活において、日本人以外の民族と接する機会はあまりありません。毎日の食物や衣類などは外国に頼っているのに、その作り手である外国人とは関わることなく過ごしています。外国人居住率が2%以下で、98%を越える日本人の中の95%が日本民族(大和民族)であるという単一民族が占める割合の非常に高い日本においては、アメリカという巨大な国の抱える多民族国家としての問題を理解することはなかなか困難で、まだ若く愚かだった私はアメリカ人は金髪碧眼の背の高い人種だ、と決めつけていたんですね。

で、そうした明るく輝く大きなアメリカには何の興味も無かった。じめじめと曇ったイギリスや、生も死も一緒くたにしたインド、今はもう無くなってしまった文明を遺跡としてのこすペルーなどに興味の矛先は向かっていました。
しかし、2000年アメリカ大統領選挙やアメリカ同時多発テロ事件、イラク戦争、ハリケーン・カトリーナに代表される災害などの数々の事件報道を目にして、私の勝手な明るいアメリカのイメージはがらがらと崩れていったのです。
大きく正しく美しいアメリカは、もはや存在しない。巨大なアメリカという国を形作っているのは、もっとずっと奥深い闇や渦を抱えた危ういものなんじゃないか、と。

さて。前書きが長くなりましたが、映画『チョコレート』にはそうしたアメリカの持つ闇が素晴らしい脚本により、まざまざと描かれていました。そして、その闇はすこし前までアメリカの核となるものだったんじゃないかと思うのです。

死刑囚の夫と幼い息子を相次いで亡くしたレティシアは、夫の刑を執行した人種差別主義の看守・ハンクと出会う。お互いのことを知らないまま、2人は徐々に惹かれていく…。

といった、分類すれば恋愛映画というジャンルになるような内容で、ベタでメロドラマ的なシーン(主にビリー・ボブ・ソーントン担当)もあり、それはそれでくすりと笑えます。でも白人のハンスと黒人のレティシア(言うまでもなく、ハル・ベリー)の関係は、人種差別や家族の死などの深く重たいものであり、それでもお互いを求めざるを得ない魂の叫びが、二人のラブシーンからありありと浮かび上がって見えました。割と密度の濃いラブシーンだったと思うのですが、冷静でメッセージ性の強い名シーンなんじゃないでしょうか。

さてさて、せっかく長い前置きを書いたので話を戻しましょう。
アメリカの闇の部分が映画の中に紛れ込んでいると書きました。
人種差別、銃社会、車社会、貧富格差、肥満…。
人種差別問題は今でこそ社会問題として認識されていますが、ハンスの父親の世代(70代?)にとっては人種差別が当然のこととして受け止められていたんでしょう。年老いて、簡単に考えを改めることのできない彼にとっては、未だ白人と黒人が共に暮らすということは受け入れられない。

また彼は、男性主義者というか支配主義者というか、老いてなお「強く正しい父」であり続けています。体力は衰え、もはや強くも正しくもないのに。
息子もまたわが子を力で抑え、「強く正しい父」であろうとします。しかし、「銃」の力により父としての権力も息子を失ってしまう。
そして「強くも正しくもない父」と対峙することのできなくなった息子は、老人施設という名の闇に閉じ込める。

かつてアメリカが「強いアメリカ」だった所以は、父と子という脈々と続く美しい信頼によって成り立っていたんじゃないでしょうか。
父はまた国であり、子は国民であるとも言えるでしょう。
広く大きなアメリカをひとつの国としてまとめていたものは、いくつもの小さな家庭や信頼関係というもっとも小さくて純粋なものだった。それが少しずつ、でも確実に壊れていった。
それがアメリカの諸問題の発端なんじゃないか、そんなことを感じさせてくれる映画でした。

ラストシーンで、レティシアは様々な問題を飲み込んでハンクの隣に座ります。
二人の未来について含みを持たせた終わり方をしていますが、ハル・ベリーは疲弊の中にも慈愛の表情を見せてくれます。
また何年か後にこの映画を見るとき、アメリカはどんな国になっているんでしょう。


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6 コメント

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Unknown (sei)
2008-02-10 13:13:35
なるほど…考えさせられる映画ですね。

この世の中、理想とは程遠く矛盾だらけで誰もその答を出せない。

貧富問題がついて廻る自由主義経済。

物事には誰もが携わりたくない事があるのも確か。そんなことを下層級の人に依存している訳ですな。

アメリカなら黒人&ヒスパニックに、フランスならアフリカ系移民に、イギリスならパキスタン系移民に、ドバイならインド人に…。

アメリカなんぞ、そんな下層級の中にも黒人&ヒスパニックの仕事の取り合いで対立があったりする。

日本もかなりの部分でアジア系&南米系に依存している。

自分の領域を侵されるのは誰もが面白くない。

下層級の人だって権利を主張するし、脱却したい訳で、ただただ言いなりで文句も言わせない的なことだと奴隷と同じ。フランスみたいな対立になってしまう。

よく言う国際化も程度ものだと思いますな。

競争心が強く、金の為なら何でもあり的な部分のある中国やイスラムを理解するのは私には難しい。

まぁ、国際化しないと生き残っていけない経済の仕組みであるのも確かだが…。
こんばんは。 (アクア)
2008-02-11 23:59:16
はい、いろいろと考えさせられるテーマを含んだ映画でした。
狭い日本に暮らしていると、他国への関心は薄れがちですが、アメリカだけじゃなくてseiさんがおっしゃるようにあらゆる国で様々な問題が生じているんでしょうね。
そして、日本に生きる私もまた国際的な自由主義経済の波に乗っているんですよねぇ。グローバルスタンダードなんてもはや死語と言ってもいいような、まさにスタンダードになってますもんねぇ。
と言っても、普段は何も意識していないけど。
『チョコレート』ぜひぜひご覧下さい。ハル・ベリーが可愛くってエッチで素敵ですよ
ハル・ベリーってセクシーですよね。 (Mylo COM-2)
2008-02-24 01:10:13
こんばんは、アクアさん。

これからのアメリカは、今日の日本みたいにゼロ金利なんかしちゃうと金融の貸し渋りなんか起きて、ちっこい企業から老舗企業まで倒産。金融も自らの首を絞めるように倒れてくんでしょうね。

今月東京で開かれたG7でもザブプラ焦げ付きの件で、世界的な金融危機が焦点になってたし…。

市場はそれに振り回されて、アメリカ市民がコツコツ積み重ねてきたsp401Kを70%近く無駄にするんでしょうね。

あ!すいません 続きますね。
ハル・ベリー関係なくなっちゃいました (Mylo COM-2)
2008-02-24 01:28:18
前の続きです。すいません。

それらに政府が資金提供すれば、インフレからリセッションが起きて、オリンピック後の中国や、IT大国 インドの経済成長をピタッと止められ、'90年代の日本みたいに、国が弱体化していくのでしょうね。

日本みたいに、あまりマクロ経済政策に頼っちゃうとヤバいし…。

最小限の損失覚悟でアメリカ動かせる大統領が誰になるか。また、それらの選択ができるかが、カギに%8
あれ? (Mylo COM-2)
2008-02-24 01:44:39
続きます。

なんか ネガティブな話になってしまいましたのでやめときます。

でも、ハル・ベリーは、スタイルいいし、髪型もベリショーからセミロングまで似合うし、演技力は抜群で好きですね!X-MENでもキャット…でも007でも、セクシービーム出まくりでした。

素敵な女性です。
こんばんは。 (アクア)
2008-02-25 00:07:42
コメントありがとうございます、Mylo COM-2さん。
アメリカという巨大な国について私が知ることはあまりに少なすぎて、きちんと書くことができません。
ただ、大きな大きな疑問の一つは、なぜアメリカはブッシュを選んだのかってことです。大統領選で不正があったにしろなかったにしろ。
サブプライムローンで、住む場所を失った多くの低所得者たちは言うに及ばず、アメリカを陰で操っているんであろう資本家やネオコンにとってベストの選択が彼だったんでしょうか?
まったく、アメリカっていう国が分かりません。
今度の大統領選が非常に楽しみですね。

そして、やっぱりハル・ベリーは素敵です。キャットウーマンの彼女も切なくて良いですね♪ラジー賞を受賞してしまったけれど、私はキャットウーマン好きですよ。

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