小犬がふるえながら飼い主を待っている 外は雨。
街路樹の落ち葉が鼻先を舞って行く。
店の奥から鼻眼鏡の主人がグラスを拭きながら彼を見て
『大丈夫だよ心配するな』口にパイプを銜えたまま話す。
だいぶ日が陰ってきた頃、飼い主が戻って来た・・
『ごめんごめんお待たせ』『あ~寒かったね?おいで』
ずっと見上げつづけた首を一まわり大きく振って
滴を飛ばしながらやっと抱かれた顔をうずめる。
『マスター、もう大丈夫だって』『間に合ってよかった!』
慌てた新米の新聞少年が路に新聞を撒きそうになったのだ
『こんなこと始めてよ』『慌てすぎて何も言えないままだったわ』
そう言うと綺麗な飼い主は白い小犬を胸にくるんで店を出た。
外は静かに風が吹き抜けている。
『すいません。あのうすいません』『ご迷惑をお掛けしました』
主人は手を休めずおもむろに声に目をうつした。
『ああ、いいよ』無愛想だ。少年はマフラーを両手で握りしめて
俯いたまま立ち去らない 『ぼく!あんな犬が欲しくって・・』
『いつもいつも此処を通るとあの可愛い犬がぼくを見てる』
『可愛くて可愛くて、名前も考えてあるんですよ』
そう言うと少年は曇った顔で暗い空を見上げた。
『雨の石畳で車輪がとられました』『でももうすぐもう少しなんです』
店の主人は暖かいミルクを入れる。『連れて来るがいい』
『はい、見てやってくださいきっときっと可愛いですよ』
そう言うと少年は外へ飛び出し街路灯の向こうでマフラーを
大きく振る。『楽しみにしとるよ何と呼ぶのかね ああ?』