カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

浄眼隊長再び

2016-07-29 20:16:49 | 色々小説お題ったー(単語)
「制服」「空」「不意打ち」がテーマ

 被害が頻発していた吸血蝙蝠の駆逐依頼を受け、再び都から青い制服を纏った討伐隊がやって来た。再度父に案内されてダンジョンに潜った隊長は、やはりゴーグルを外した姿で背後から襲ってきた吸血蝙蝠の全てを振り返りもせずに斬り捨てたらしいが、何でも隊長のゴーグルは彼の視覚を人間と同じ物に抑制する為に着用しているとの事だった。ちなみに、ゴーグルを外した彼の瞳は闇の中で青く輝いて見える。
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指輪の呪い

2016-07-28 19:47:40 | 色々小説お題ったー(単語)
「炭酸」「指輪」「サヨナラダケガ」がテーマ

 彼は自分の指に嵌まらない小さな指輪に鎖を通し、常に首から掛けていた。紅色の指輪はとても奇麗だったので手に取って見たかったが、彼は常に、これは呪いの指輪だから駄目だよと笑った。ある日彼は探索先で瀕死の重傷を負い、由来も来歴も何一つ明かさぬまま、ただ私に指輪を押し付けるように渡してから事切れた。

 以来、私は彼の掛けた指輪の呪いに心を囚われたままだ。
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完璧なる別離

2016-07-27 00:27:05 | 色々小説お題ったー(単語)
メモ」「パフェ」「自己防衛」がテーマ

 彼が追いかけて欲しくてメモ書きを残したのは解っていたが、私は敢えて『僕一人でダンジョンの最深部を目指す』という言葉を素直に受け取ることにした。探索者の家に生まれ、探索者としての教育を受けながら育った私たち幼なじみは、いつか迷宮の奥底に眠る秘宝を持ち帰るのだと共に夢見た。そして、いつしか彼だけがそんな夢をいつまでも見続けることになったのだ。
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ビーストマスターのお仕事

2016-07-26 21:29:02 | 色々小説お題ったー(単語)
「白」「悪趣味」「三秒間」がテーマ

 白い動物を片っ端からコレクションしているという悪趣味な成金が、陽の差さないダンジョンなら白い生き物だって沢山いるだろうと探索を依頼してきた。こういう輩は自分が酷い目に遭わない限り絶対に懲りないと経験上よく知っているので、俺が笛で操れるだけの大小取り混ぜた白いモンスターを連れ出して奴の眼前に整列させたら、三秒で気絶しやがった。
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マドンナ・リリー

2016-07-25 00:37:52 | 色々小説お題ったー(単語)
「怒らないで」「前髪」「蜂蜜」がテーマ

 探索に行っていた恋人が帰ってくると気合いを入れてめかし込んでいた姉が鏝の使い方を失敗して前髪を焦がし、発狂したように暴れ回るので、取りあえずその蜂蜜色の髪に似合う花を崖の中腹から命懸けで摘んできて、短くなった前髪を誤魔化すように飾って場を治めた。なお、その後、恋人の帰還は一週間ずれ込んだが、結果として姉の起こした騒動についての言及は避けたい。
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場面その6

2016-07-25 00:29:50 | 松高の、三羽烏が往く道は
 答えが知りたいのなら、遠慮せずにかかって来い。

 そんな優吾の言葉に、橋本は己の頭に血が上るのを感じながら組み討ちを挑む。しかし、次の瞬間には地面に転がされていた。
「これで終わりか?」
 橋本を見下ろす優吾の視線はあくまで穏やかでありながら何故か哀しげで、それ故に更に橋本を逆上させる。
「舐めるなあぁぁっ!」
 何度も何度も地面に転がされ、視界が霞んで足下も覚束なくなってもなお優吾に挑み続けながら、橋本はやがて奇妙な違和感を覚える。
「優吾……お前、何故、自分からは仕掛けてこない」
 すると優吾はようやく気付いたかと言わんばかりに俯き、重々しく呟いた。
「己(おれ)はもう、自分から相手に技を掛けられんのだ」
「馬鹿な!」
 一体何だってそんなと呟いた橋本は、自分を見下ろしてくる優吾の、まるで殉教者を思わせる瞳に胸を突かれたように黙り込んだ。優吾が柔道を思い切るに当たって周囲は様々な憶測を元に数多くの無責任な噂を流したが、その中には聞くに堪えない誹謗中傷も含まれていて、最も酷いのは、優吾が昔から折り合いの悪かった義父を己の柔道技で投げ殺したというものだった。もっとも、優吾の義父は酒浸りで博打打ちで乱暴者という、それこそ絵に描いたような鼻つまみ者だったので、優吾の母親が亡くなってからすぐ村から姿を消したと知った周囲も『あんな男、 たとえ殺されたとしても自業自得だ』と、概ねは優吾に対して同情的な意見ばかりであったのだが。しかし。
「俺は、俺は認めんぞ、優吾」
もはや立っているのもやっとの状態で、それでも優吾に掴み掛かりながら橋本は吼える。
「俺はまだ、お前に一度も勝てていない、それなのに、お前は俺の前から消えると言うのか!」
「……今、此処で己がお前に投げ飛ばされれば、お前は気が済むのか?」
「ふざけるなぁ!」
 優吾の言葉に激昂し、最後の力を振り絞って技を掛けようとした橋本は、次の瞬間、実にあっさりと地面に叩き伏せられる。それでも何とか必死に立ち上がろうとしたのだが、流石に限界だった。気力や根性だけでは決して埋めることの出来ない実力の差を嫌と言うほど思い知らされ、畜生と何度も呻く事しか出来ない橋本を見下ろしながら、優吾は厳かと言って良い表情と口調で宣言する。
「己はもう歩むのを止めたが、お前が諦めずに歩み続けるなら、いずれ必ず今の己が立っている場所より先に進み続けるだろう……だから、結局はお前が勝つ事になる」
 勿論、それを逃げと言われても反論は出来ないし、今の己には済まないと謝罪する以外の事は出来ない。そんな優吾の言葉に橋本は再び吼えた。
「謝るな!
 お前は本当に謝らねばならような真似をしたのか!そうでなければ謝るな!」
叩き付けるような言葉に対して、優吾は不意に橋本から顔を背けて自らの頭上に視線をやった。釣られるように橋本が見上げると、夕暮れ時特有の白みがかった青色をした空は奇妙に寂しげで、所々に浮かぶ雲だけが薄紅を差したように輝いている。
「済まない……」
 そんな風に何度も呟いてみせる優吾が、今の自分の顔を見せたくないのだと気付いた橋本は我知らず地面に己の両拳を叩き付けながら叫んでいた。
「謝るなぁぁぁっ!」
 結局、俺は優吾の事など何も知りはしなかったのだと思い知りながら、橋本は嗚咽を繰り返す。そして優吾も又、空を見上げたままの姿で、随分長い間微動だにしないまま立ち尽くしていた。

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始まりの迷宮

2016-07-22 23:18:15 | 色々小説お題ったー(単語)
「背伸び」「意地っ張り」「ひとりぼっち」がテーマ

 むかし、寂しがりのくせに意地っ張りな子供が魔法を使って自分の体を大きくした。どんな動物より建物より、最後には山よりも大きくなった子供はやがて地中に沈み、どんどん空っぽになりながら更に奥底へと広がっていった。空っぽになった子供の体にはやがて怪物が棲みつき、人は今、その空間を迷宮と呼ぶ。
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長い友達は短い夢を見せる

2016-07-21 22:32:30 | 色々小説お題ったー(単語)
「薬」「前髪」「ジキルハイド」がテーマ

 顔立ちは良いのに頭髪が不足気味の男性に錬金術で錬成した育毛剤を所望されたので売ったら大層な効果があったらしく、一週間の間に彼女を作って二股を掛けて刃傷沙汰を起こしかけて愁嘆場を演じて和解と再出発を誓った矢先に育毛剤の効果が切れ、結果的に彼女ともう一人に見捨てられた忙しすぎる姿に、元の木阿弥という東の国の古い言葉を思い出した。
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静かなるエポック・メイキング

2016-07-20 00:17:22 | 色々小説お題ったー(単語)
「嫉妬」「ポニーテール」「バタフライエフェクト」がテーマ

 探索に邪魔だと言う理由できっちりと編んで後頭部にまとめられた彼女の髪は、解くと実に豪華な金髪の巻き毛となる。私の栗毛にどれほど油を塗って梳ろうと、その美しさにはとうてい及ばない。ある日彼女はダンジョンの探索中に自ら髪を切り落とし危機を脱して短髪の身軽さに目覚め、それは瞬く間に探索者達に広がって行った。
 でも私はまだ、長く伸ばした栗色の髪に油を塗りながら梳ることを止めない。
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怪物の住む空間

2016-07-19 00:13:53 | 色々小説お題ったー(単語)
「青」「独り言」「迷宮」がテーマ

 彼の住む世界は日の差さない迷宮の奥底で、故に彼は空を知らなかった。ある日人間が彼の住処に現れ、捕らえた彼を籠に詰めて地上まで運んだ。人間が籠の蓋を開けた一瞬の隙を突いて逃げ出した彼は、壁の見当たらない吹き抜けの空間と奇妙な色をした天井に戦いて迷宮に逃げ帰り、そこで静かに生涯を過ごした。
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