翡翠色の冒険

「ナイフ」「血清」「災い転じて」がテーマ

　複数の男達にナイフで脅されダンジョンの案内をすることになったので、地元民でも滅多に近付かないエリアまで誘導してやった。やがて翡翠と思しき光る石の層に興奮した連中が我先にと駆け寄ったのは毒蛇の巣の只中で、翡翠と同じ色の毒蛇に噛まれた連中には散々死の恐怖を味わって貰ってから有り金と引き替えに毒消しを売りつけてやった。

彼女に黄金色の花束を

「黄」「扇風機」「はつこい」がテーマ

　いつも山向こうに向かって風が吹いている村で、風の吹く山向こうの地に幼馴染みが行ってしまったあの日からずっと、僕はたんぽぽの季節が終わりかけると目に付くだけの綿毛を全て風に乗せて飛ばすようになった。僕の村に咲くたんぽぽと同じ花が、恐らくはもう二度と会えないあの子の傍らに咲き誇り、彼女の目を楽しませるのを夢見ながら。

褐色の思い出

「ココア」「茶髪」「甘党」がテーマ

　父さんは英才教育と称して僕を小さい頃からダンジョンの探索に同行させた。訳が判らぬまま命綱で繋がった父さんと一緒に探索を繰り返す中での楽しみは、僕が焚き火を起こし、父さんが自分の髪と同じ色をしたカカオと砂糖、それに瓶に詰めて持ってきたミルクを鍋で煮立てて作ったココアを二人で飲むことだった。

毒虫小僧

蛾」「いたずら」「刺」がテーマ

　ダンジョンに刺激を与えると色を変える蛾の幼虫がいたので、面白がって思う存分つつき回していたら刺された。その後、患部が思い切り腫れたので医者に診て貰ったら事情を聞かれ、正直に話したら物凄く怒られた。何でもその幼虫は大人しいが猛毒持ちで、運が悪いと刺された当人が毒虫化するとかしないとか。
　ちなみに、傷の処置は洒落にならない激痛を伴った。

錬金術師の憂鬱

「嘘」「扇風機」「憂鬱」がテーマ

　昨年、父が風車に良く似たカラクリを作って暑い夏に涼しい風を起こしたことを思い出し、あのカラクリを何処にしまったかと尋ねた所、アレはもう使い物にならないと残念そうに言われた。何でも動力源の飛鉱石を上手く精錬することが出来ず、代わりに捕まえて使っていた風の妖精に逃げられたのだそうだ。それでも錬金術師かと突っ込んだら、今度は落ち込んだ父まで使い物にならなくなった。

星の恋人達

「カーテン」「星空」「猫も杓子も」がテーマ

　実はダンジョンにも天井に当たる部分が吹き抜け状態になっている場所があり、そういう場所では当然のように夜になると満天の星空を細長く切り取った不思議な景色が見られる。川の流れのようなその輝きがロマンチックだと、最近はカップルの観光客が押し寄せるように見物に訪れ、関連グッズの売れ行きも好調だ。

銀の仮面に白マフラー

「白」「マフラー」「はつこい」がテーマ

　彼女の初恋の相手は、ダンジョンでモンスターに襲われた時に何処からともなく現れて助けてくれた逞しい男性なのだが、顔に白い布を巻いていたせいでどんな顔かは判らないのだそうだ。それでも彼女は今でも彼との再会を夢見ていて、僕は「そいつひょっとしてマミーか透明人間じゃ無いのか？」などとは気の毒すぎて言えない。

虫取りムスメ

「蝶」「餌付け」「甘党」がテーマ

　昔、琥珀蝶を捕まえたいと妹が言うので比較的浅めのダンジョンの壁に蜜を塗っておけば幾らでも寄ってくると教えた。妹が言うとおりにすると確かに蝶は寄って来たのだが、壁一面に貼り付いた琥珀蝶の群れに恐れを成した妹は泣いて帰ってきた。そして現在、同じ方法で山ほどの琥珀蝶を捕獲する妹が俺の眼前にいる。

ありがちな事故

「背伸び」「爪先」「刺」がテーマ

　普段は爪先で探るように用心深く進むダンジョンも、見付けたお宝を手に凱旋気分で進んでいると油断が発生するものだ。と言う訳で、まるで背伸びをしたような姿勢のまま右手の指だけで穴の縁にぶら下がった俺は足下のトゲとそれに貫かれた先客の姿を確認しながら、お宝と命のどちらを放棄するかを一瞬だけ悩んだ。

狼男の時間

「怒らないで」「ポケット」「トランス」がテーマ

　ゴメン、アレ忘れてきたと自分のポケットを探りながら呟く相棒の言葉に、俺は返事もしないままその場を駆け出していた。大丈夫だよ！大丈夫だから！と叫んで追いかけてきたあいつを何とか撒いて身を隠し、半日ほど過ぎてから野営地に戻ったら案の上、元々はモンスターだったと思しき見たくもない残骸が辺り一面に散らばっていた。だから普段の能力値が半減しようと獣化抑制護符は常に身に付けていろとあれ程。