AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

新・耳鳴の針灸治療 体性神経性耳鳴

2013-07-18 | 耳鼻咽喉科症状

耳自体に異常がない場合、解剖学的に耳のすぐ前にある顎関節の問題で耳鳴が起こることも知られている。口を大きく開いたり、下顎を横にずらしたり、舌を強く前に出した時など、耳鳴の音調が変化するのであれば、顎関節症による耳鳴を疑う。
耳鳴を主訴とする患者の中には、自分が 顎関節症であることを気づかない者もいて、咬筋や側頭筋の圧痛が余りに強いので驚く者が結構いる。このような筋緊張が原因となった耳鳴を、体性神経性耳鳴(あるいは体性耳鳴)と生ずる。体性耳鳴は難聴を伴わず、一側性であるという特徴がある。一般に体性耳鳴は、針灸を含めた理学的治療が奏功しやすい。

トラベルは、耳鳴を起こす顎関節症関連筋は、咬筋・外側翼突筋・胸鎖乳突筋だと記しているので、この3筋への刺激法について記す。

1.咬筋
1)咬筋と耳鳴
「咬筋を押すと音程が変わったり音の質が変わることがある。咬筋のトリガーポイントは耳鳴りを起こすが、聴力の低下は起こさない。」とトラベルは記している。咬筋が緊張するのは、睡眠時やストレス下での、歯ぎしりや歯のくいしばり。あるいは歯科的要素(齲歯、歯並びなど)が関係する。          

  ※咀嚼筋はストレス筋の一つ。動物が敵と出くわした時、噛みつき攻撃をする。

2)咬筋への刺針
咬筋の骨付着部に刺針。とくに開口状態で刺針すると運動針効果がプラスされる。咬筋の起始部である頬骨弓部分、停止部である下  顎枝部の圧痛点に刺針する。刺針した状態で開口運動をさせると運動針効果が加わる。

 

2.外側翼突筋
外側翼突筋の役割は、下顎の「横方向へのずらし」と「前への突き出し」である。開口時、顎が左右にずれる原因は、外側翼突筋の左右の緊張度の違いにある。たとえば口を開けて顎が左に動くのは、顎の右サイドが前へ突き出せない結果であって、右側外側翼突筋が過収縮していることを示している。
外側翼突筋翼突筋の緊張の有無を調べるには、まず下顎を前方に突き出し、その状態のまま下顎を左右にずらす動作を行わせる。緊張があれば、前記動作がしずらかったり、痛みを発したりする。

1)外側翼突筋下頭の触診
内側翼突筋が容易に触知できる(咬筋の裏側。口腔内から触知する)のに対し、外側翼突筋の触知はやや難しい。
口内に示指を入れ、上顎の左右端にある奥歯を触知。さらにその奥まで指を伸ばし、舌にある中央と逆に、歯茎と頬の粘膜に指を入れる。頬と歯茎の間に指先が入ったら、示指の指腹を上に向けて、粘膜の最も奥あたりを軽く触ったり、軽く押し上げたりする。そのあたりが外側翼突筋下頭の位置である。

2)外側翼突筋上頭の緊張症状
外側翼突筋の上頭は、顎関節の関節円板に付着し、開口に応じて、関節円板を前方に移動させる力を生む。外側翼突筋のトリガーポイントが常に緊張状態にあると、顎が前に引っ張られがちになり、関節が外れたり、亜脱臼したりする。顎が音を立てる症状は、亜脱臼から派生したものである(1999,383;Reynolds 1981,111-114;Marbach 1972,601-605)。

外側翼突筋の過緊張では、筋緊張自体(=Ⅰ型顎関節症)の適応があることは当然として、筋牽引により生じた関節円板の前方への位置ズレ(=Ⅲ型顎関節症)や、関節包刺激(=Ⅱ型顎関節症)にも効果あるかもしれない。 

3)外側翼突筋上頭への刺針

外側翼突筋上頭の停止は顎関節の関節円板である。この関節円板に刺入するには、客主人を刺針点とし、針先を耳門(顎関節部)方向に斜刺する。置針した状態で、顎の前後の滑走運動を行わせる。

4)外側翼突筋下頭への刺針

外側翼突筋下頭の起始は蝶形骨、停止は下顎枝である。外側翼突筋下頭には、下関から深刺する。針はまず表層筋の咬筋を貫き、次いで外側翼突筋下頭に入る。置針した状態で、顎の前後の滑走運動を行わせる。
 

 

 3.胸鎖乳突筋

1)耳鳴の胸鎖乳突筋緊張の関与

胸鎖乳突筋の障害といえば、ムチウチなどにより頸痛ととに生ずる頸性メマイがよく知られている。平衡感覚は、耳・眼・深部感覚受容器の3者からの情報が延髄の前庭神経核に集合し、互いに照合されて保全される。その1つのである深部感覚受容器は、全身いたるところに存在しているが、頭位とのかかわりを考えた場合、頸部筋とくに頸部筋の左右の緊張の違いとのとの関わりが深く、一側の前庭の興奮は、同じ側の頸部筋の緊張に影響を与えていることが、頸性メマイを説明づけるものとなっている。
   
耳鳴と胸鎖乳突筋を結びつける根拠は薄いのであるが、一側性胸鎖乳突筋短縮→顔の傾斜→顎関節に加わる圧受容器や筋張力の変位→耳鳴という機序を想定すれば、ぼんやりとながら納得できることでもある。 

それにしても、胸鎖乳突筋に一側性の強い筋緊張が存在するにもかかわらず、自らはそれに気づかず、耳鳴のみを訴えることのあることは驚かされる。 
 
2)胸鎖乳突筋刺針のコリを緩める刺針法

左右それぞれ胸鎖乳突筋を軽くつまむようにして圧痛をみることで、本筋の異常の有無を診る。一般に筋緊張を緩めるには、単に刺針するよりは、該当筋を緊張させた状態で刺針した方が効果的である(=神経・筋促通作用)。胸鎖乳突筋の場合、仰臥位で治療側の反対側に顔を回旋させる(右胸鎖乳突筋に刺針するのであれば、顔を左に回す)。
そして、後方から前方(天牖から市乳、天容方向に刺入)に向けて胸鎖乳突筋を刺入。
ただし貫通はさせない。その状態で患者に正面を向くように指示する一方、術者はそれと釣り合う力を患者の側頭部に与える。1.2.3.とかけ声をかけ、患者と術者の力のタイミングをそろえ、5~10回程度のリズミックスタビリゼーション手技を行う。


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