AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

気管支喘息に対する胸部夾脊速刺速抜

2010-12-14 | 胸部症状

1. 30年ほど前は、日常的に気管支喘息の針灸治療が行われていた。通院レベルでの気管支喘息は、針灸か効いた印象をもっているが、入院患者(肺性心)レベルになると、針灸はまず効果はなかった。それどころか何人かの入院患者で、喘息に加え肩凝りが強いというので、肩背部への刺激をやや強めにすると、その時は楽になったと喜ぶのだが、その晩に限って喘息発作が起こった。要するに、鍼灸の適応となる第1の条件は、軽症の気管支喘息ということである。


2.高岡松雄医師(故)は、著書『痛みの治療』(これは名著)の中で、気管支喘息患者発作時の治療として皮内針治療を実施した結果、同じ患者でも、効く場合と効かない場合のあることを経験し、「患者によっては、アレルゲンや感染によって発作が起こるのではなく頚肩部の筋のコリが発作の誘因になっている場合がある。コリを緩めることで発作が楽になることもある」と結論した。
 要する鍼灸の有効となる第2の条件は、頸肩のコリの合併であって、これらのコリが喘息の増悪因子となっている場合である。鍼灸は、アレルギーの機序や感染源に働きかけることはできないのである。


3.なお気管支喘息と肩凝りの関係は、たまたま両者が合併するのではなく、互いに悪影響を与える関係のあるとが指摘されている。ベースとしての気管支喘息→呼吸運動の際の骨格筋の運動性変化→喘息発作、という流れである。呼吸筋に緊張があれば、これをトリガーとそて喘息発作を誘発することがある。
呼吸運動の際の骨格筋の運動性変化とは、腹式呼吸(横隔膜主体)から胸式呼吸(肋間筋主体)の呼吸筋運動の変化、気管支の炎症による体壁反射、咳嗽の際の横隔膜の疲労などである。

 

4.気管支喘息患者の症例

先日、久しぶりに気管支喘息の患者(42歳女性)をみる機会があった。もともと喘息持ちであるが、ステロイド吸入をせず、漢方薬治療のみで加療中であること。今回は重い荷物を運んだことが誘因となって咳と呼吸苦の発作が起こったとのこと。頸肩のコリが顕著なことである。本患者はアトピー性皮膚炎を合併しているので、アトピー性の気管支喘息だろうと推定した。要するにこの患者には針灸がよく効くことを予想した。

治療は、西條一止先生の述べるように、交感神経優位に導く目的で、臥位にて寸6#2針にて前胸部、上背部、後頸部の速刺速抜。次いで座位にて肩甲上部で肩井あたりの速刺速抜。さらに座位にて左右治喘穴への米粒大灸7壮である。夜間喘息発作が起きたら、項~上背部に熱いシャワーを短時間浴びるように指示した(これは効果あった)。
この治療を3日連続で行い、喘息自体はやや改善した。しかし患者の満足度は今一歩で、夫は本当に鍼灸は効いているのかと本人に聞く始末。そこで治療4回目から、伏臥位にて胸椎夾脊Th1~Th5速刺速抜の深刺(骨に当たるまで)を追加し、肩井~天柱あたりを強く深く持続押圧した。それ以降、咳と呼吸苦は治まっている。治療時間は指圧を含めて20分間程度。

この症例は、胸椎夾脊Th1~Th5速刺速抜が手応えを感じた。この鍼は、胸部脊髄神経後枝を刺激しているので、上背部のコリに有効なのは当然である。肺・気管支は、副交感神経優位な臓器なので、起立筋や大胸筋上のコリとして反応は現れにくい筈である。本症例は肩背部の強いコリを合併していたので。上述の夾脊刺針を行ったわけである。夾脊で深刺したのは胸部交感神経節に影響を与える狙いもある。

 

 


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