アルモドバルの新作 ～ボルベール <帰郷>

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こんなにお洒落なパンフレット

六本木ヒルズのアートスクリーン。９つあるシアターの中でもここだけは椅子の色が鮮やかな赤だ。
赤といっても朱色に近い赤。独特の色使いの中でも赤をスパイスのように効かせているアルモドバルの映画にはぴったりの雰囲気だ。
アルモドバル作品は本当に色にこだわりがある。



風の吹く街。ラ・マンチャ地方のアルマグロ。アルモドバルの故郷らしく、彼の昔の作品「私の秘密の部屋」にもアルマグロが出てきたっけ。
白い村で廻り続ける風車も現代風になった。ドン・キホーテの風車ではない。
ずいぶん昔にアルマグロに行ったことがある。
一晩だけだったけれど、泊まった修道院を改築したホテルの窓から見えた細い木が一晩中嵐のような風に吹かれて、朝になったら折れてやしないかと心配していた思い出がある。
ラ・マンチャは風の強い土地なのだろうか。

ペネロペ・クルスの大きな瞳。華やかな風貌。周囲に強烈な個性を放つ存在感。
多感な年頃の娘と情けない夫を抱えて強くならざるをえない女性ライムンダ。
そんな彼女に伯母のパウラ、姉のソーレ、娘のパウラ、母イレーネ、それに隣人のアグスティナ・・・という女たちが絡んでくる。
（なんとこの6人ともがカンヌ国際映画祭で主演女優賞を授賞したというのにはびっくり）
秘められた過去が明らかになるラスト近く。それはあまりにも衝撃的な事実だ。
そんな物語の中に語られる愛。人と人の関係が希薄になってきている現代だからこそこの濃密さは貴重なのかもしれない。

かなり深く暗いテーマが刻まれたストーリー。ともすればドロドロになりかねない重さなのに、なんともドライに淡々と描き切っているのはいかにもスペイン人。
アルモドバルのセンスの光る絶妙の脚本はラストまで引っ張って行ってくれる。



劇中、ペネロペ演ずるライムンダの歌う「VOLVER」・・・。
フラメンコギターの音にブレリアのリズム。
豊かな声が心を暖めてくれる素敵な歌だ。
でも実は歌っているのはグラナダ生まれのカンタオーラ、エストレージャ・モレンテ。エンリケ・モレンテの娘だ。
心に届く歌声に涙があふれた。
早速CDを買いにいくも国内版はなく、ネットでヨーロッパ輸入版を発見して早速注文。(何で国内版がないのかな？）
（この曲についてはまた別の記事を書こうと思っています！）
　　※記事UPしました。↓

映画「ボルベール」サントラ♪

「Mujeres」 por Estrella Morente ♪

スペイン語のヒヤリングの勉強にもなるし、もう一度観ようかな？
なによりもスペインの風景が見られて、あの空気を感じられる2時間なのだ。
アルモドバルの映画の中に流れるのは濃密な空気。
通常の何倍にも圧縮されたような強烈なスペインの空気なのだ。