羊蹄山(1,898m)
わが国には、富士山にとてもよく似ている山が三座あると思います。どれが一番似ているかは、甲乙付けがたいです。その三山とは、日光の男体山、鹿児島の開聞岳、そして”蝦夷富士”・羊蹄山です。これらの山は、秀麗さと整った山体が富士山に似ているだけでなく、それぞれが富士山にない雰囲気を持っているのです。富士山にないものとは、男体山は中禅寺湖とのコラボレーション、開聞岳は山全体に漂う南国の空気、そして羊蹄山は北海道の清涼さです。
「~この山を単に羊蹄山と略して呼ぶことに私は強く反対する。古く『日本書紀』斉明朝五年(六五九年)にすでに後方羊蹄山と記された歴史的な名前である。その前年、阿倍比羅夫が蝦夷を討って、この地に政所を置いた。後方羊蹄山の後方を「しりへ」(すなわちウシロの意)、羊蹄を「し」と読ませたのである。~(中略)~ だからただ羊蹄山だけでは、「し山」ということになる。~」
(深田久弥『日本百名山』(新潮社版))
日本には平仮名より漢字にした方が長くなる地名がいくつかありますが、これも知らないと、”後方羊蹄”の4文字がそのまま平仮名(しりべし)に1文字ずつ対応していると、うっかり勘違いしてしまうところです。『百名山』の記述にはなるほどと思いますが、しかし僕は「羊蹄山」の「ようていざん」という読みが格好良くて、単純に好きです。「羊」の字が一番頭にくるところもいいです。なぜなら生まれ年の干支がひつじ年だからです。
前日の午後新千歳空港からJRとバスを乗り継いでニセコへ移動し、朝6時半に真狩登山口にやって来ました。羊蹄山には4本登山道がありますが、ここ真狩ルートの利用者が最も多いとのことで、自分たちもそれにならうことにしました。登山口はキャンプ場にもなっていますが、この日のテントはまばらでした。
最初はトドマツの樹林帯から始まりました。雪のせいか、枝が下を向いているのが多いです。幹ごと複雑に曲がって、伸びているものもあります。曇っている中、急坂をたんたんとこなしていきます。
4合目を過ぎると、それまで見えなかった太陽の光がさっと差し込んできました。ついで真上に青空が現われ、気が付くと眼下に雲海が広がっていました。あっという間に景色が変わって、びっくりするほどでした。標高にしてほぼ1,000mあたりの地点です。こんな高さでも雲海を見ることができるんだなと思いました。
(登頂:2016年6月中旬) (つづく)