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【 コラム 】 温泉と神仏

20~30代のころ、私の休日は温泉よりも林道ドライブや史跡巡りに費やされていました。なかでも神社仏閣はよくまわったものです。
ここ数年はひたすら温泉巡りで、神社仏閣を巡る間もなかったのですが、最近は古い温泉地をじっくり散策する機会も増えてきて、昔の虫が騒ぎ出しました。

そこで、温泉と神仏の関係についてまとめてみます。このテーマは奥が深いので、じっくりと腰を据えてかかりたいと思います。
温泉といえばまず温泉神社ですが、こちらは事例が多くえらく複雑なので、まずは寺院関係からとりとめもなくいきます。

<湯場(温泉地)にゆかりの寺院と仏さま>

まずはざっとネット検索をかけてみました。
温泉地名 守護寺ないしはゆかりの寺 ご本尊 の順です。

日光湯本 温泉寺 薬師如来
城崎 温泉寺 十一面観音
有馬 温泉寺 (薬師堂) 薬師如来
龍神 温泉寺 薬師如来
下呂 温泉寺 薬師如来 
山中 医王寺 薬師如来
山代 薬王院温泉寺 十一面観音
粟津 大王寺 薬師如来
秋保 泉明寺 薬師如来・日光月光菩薩
形原 補陀寺 薬師如来
片山津 愛染寺 薬師如来
道後 湯釜薬師 薬師如来
辰口 集福寺 薬師如来
湯の峰 東光寺 薬師如来
野沢 温泉薬師堂 薬師如来
浅間 湯谷社湯薬師/下浅間薬師堂 薬師如来
川湯 十二薬師 薬師如来

このように圧倒的に薬師如来が多いことがわかります。
それでは薬師如来とはどのような尊格なのでしょうか。

【 薬師如来 】
仏教の尊格には如来、菩薩、明王、天部、羅漢・僧形などがあります。
如来は悟りを開いた覚者(仏)、菩薩は自らも悟り、衆生を救済するために修行する者、明王は如来の明呪(真意)を保持するもの、天部は仏教の護法神とされています。(このあたりは専門サイトが多数あるので興味ある方は参照ください。)
薬師如来は、人間の病苦や苦悩を癒す十二の誓願をたてられた如来で、薬師瑠璃光如来、大医王仏ともよばれます。左右に日光・月光菩薩を従えた三尊形式や十二神将とよばれる眷属を配します。密教の両界曼荼羅には描かれませんが、胎蔵大日如来や金剛界の阿閦如来と同体とする説があります。 

かつての湯場は病を癒す場であり、人間の病苦や苦悩を癒す薬師如来が信仰されたことは自然ななり行きだったと思われます。また、有馬や道後などの古湯でふるくから信仰され、これが他の湯場に広まっていったことも考えられます。
薬師の名を配した湯場や浴場は数多く、その一部をあげておきます。

薬師温泉(群馬)
温泉津薬師湯温泉(島根)
ニセコ薬師温泉(北海道)
こんだ薬師温泉(兵庫)
川治温泉「薬師の湯」(栃木)
白根温泉「薬師の湯」(群馬)
発哺温泉「薬師の湯」(長野)
村杉温泉「薬師の湯」(新潟)
湯村温泉「薬師湯」(兵庫)
上北山温泉「薬師湯」(奈良)

【 十一面観音 】
観音菩薩は観世音菩薩、観自在菩薩ともいわれ、衆生の救いを求める声をきくと、自在にこれを救われる菩薩とされます。三十三の相をもって慈悲を行ずるとされるため、多くの観音菩薩がおわし、十一面観音もそのひとつ。深い慈悲により衆生から一切の苦しみを抜き去る功徳を施す仏とされ、薬師如来と同じような理由により湯場で信仰されたものと思われます。

■観音の名を配した湯場や浴場の例(以下おなじ)
観音温泉(南伊豆)
穴観音の湯(小布施)
浅草観音温泉(東京)
高崎観音山温泉
布引観音温泉(佐久)
東鷲宮百観音温泉(埼玉)
聖籠観音の湯(新潟)
南平台温泉観音湯(馬頭)
成相観音温泉(京都宮津)


この他に温泉地名や温泉施設には以下のような尊格名がみられますが、守護寺ないしはゆかりの寺の本尊としては少数の事例しかみつかりませんでした。(今後さらに探索します)

【 地蔵菩薩 】
■大地の恵みを神格化した菩薩とされ、死者を六道に導く存在として、路傍や峠道などで広く信仰されました。温泉の仏というよりは、地名や地蔵堂のそばにある湯場という意味合いで名づけられた例が多いように思います。
城崎温泉には道智上人(地蔵菩薩の化身とされる)による開湯伝承があります。

湯の澤温泉「地蔵の湯」(山形鶴岡)
草津温泉「地蔵の湯」
地蔵の湯(地蔵川ホテル)(北軽井沢)
地蔵温泉「スパリゾートゆにーいく」(群馬)
地蔵温泉「十福の湯」(長野)
地蔵温泉(新潟)

【 不動明王 】
■密教の中心仏大日如来の輪身ないしは使者とされる代表的な明王で、修験道とも関係の深い尊格。山の温泉をこまめにあたればもっと事例がみつかると思います。

平湯温泉「神の湯」の尊格
不動の湯(塩原)
不動湯(土湯)
不動湯(富士吉田)
不動の湯(秩父)

【 弁財天 】
■財宝神や音楽・言語の神としての性格をもつが、水に関係のある場所に祀られることが多いので、温泉と関係をもっているのかも・・・。

弁天温泉(那須)
浅川温泉「弁天の湯」(茨城)
土肥温泉大藪温泉共同浴場「弁天の湯」(西伊豆)
伊東温泉「湯川弁天の湯」(東伊豆)

【 聖天様 】
■正式には大聖歓喜天。諸願成就の神として広く信仰される。

川原湯温泉「聖天様露天風呂」(群馬)

【 大黒天 】
■温泉神社に多く祀られる大己貴神(大国主命)と少彦名神。本地垂迹(ほんちすいじゃく)説(日本の八百万の神々は、様々な仏が化身としてこの地に現れた権現であるとする考え)では、大国主命の本地仏は大黒天なので、温泉との関わりは深いかと思いましたが意外に少数。

蔵王温泉=蔵王大黒天
小野川温泉=甲子大黒天本山(小野山宝珠寺)


●浴場の守護仏
東司(トイレ)の守護仏として烏枢沙摩(うすさま)明王がありますが、不勉強につき浴場の守護仏は不明。きっとおられると思うので、探してみます。

(つづく)
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