宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

宇宙ビジネスインターン(PART2)

2008年07月26日 | インターンシップ
 
日本の宇宙開発に新たな風を吹かせるため、今年から新たな制度を試行的にスタートさせた。『宇宙ビジネスインターン』制度だ。以前に一度ブログで紹介したと思うのだけど、日本国内のMBA(経営学修士)やMOT(技術経営修士)の学生の中から有志を募り、宇宙ビジネスが抱える課題に対して、個人又はチーム単位でその解決にチャレンジしてもらおうという企画だ。

この企画が実行されることが決まってから、僕は日本全国のビジネススクールやMOTスクールを営業活動して回った。パワーポイントで企画書を作成し、まず各学校の産学連携担当者やインターンシップ担当の方にコンタクトして、プレゼンの機会をくださいとお願いして回ったのだ。

実際に会って話を聞いてもらえることもあれば、企画書だけ送ってくださいと言われる場合もある。自分では相互にWin-Winの関係を構築できる良い提案だと思っていても、どこの誰かも分からない人間が突然現れて、よい企画だから話を聞いてくださいとお願いしても、実際にはなかなか会ってもらえない。営業マンは本当に大変な仕事だとあらためて感じた。それでも、「断られてからが勝負」というアドバイスを信じ、僕は各スクールにアプローチし続けた。

その結果、複数のMBAスクール、MOTスクールが僕の企画提案に耳を傾けてくださり、既に3校から宇宙ビジネスインターンを受け入れることが決まった。その他、現在交渉中のスクールが4校あり、最終的には10名近いの学生さんをビジネスインターンとして受け入れることができそうだ。各スクールのご協力と学生の皆さんのチャレンジングスピリッツに心から感謝したいと思う。Merci!

現在のところ、宇宙ビジネスインターンに取り組んでもらうことが決定したテーマは以下のとおりだ。どれもチャレンジングなテーマばかりで、短い期間でどれだけの成果が出せるか本当に楽しみだ。大事なのは第一歩を踏み出すことであり、また、今後も継続させて検討していくことでどんどん質を高めていきたいと思っている。

 ○宇宙航空機関における戦略的ナレッジマネジメント(2スクール)
 ○極超音速旅客機に係る商業成立性の検討
 ○インターネットを活用した宇宙グッズ販売に係るビジネスモデル検討
 ○宇宙ブランドにかかるブランドコミュニケーション戦略
 ○小型衛星を活用した新たなビジネスモデル立案

宇宙ビジネスインターンはまだまだ募集中だ。夏休み、秋休み、冬休み、夜間、土日、その他の時間を有効に使ってコンサルティングのトレーニングを積みたい方は、ぜひ応募を検討してみてほしい。宇宙航空という分野は未知のフィールドであり困難なテーマが多いと思うけれど、だからこそ敢えてチャレンジする価値があると僕は思っている。山が高ければそれだけ登頂の喜びも大きいのだ。

年度末には宇宙ビジネスインターンの成果発表の機会として、「宇宙航空マネジメントシンポジウム」(仮称)を開催する予定だ。社会人の方も大歓迎なので、興味のある方はぜひ参加してほしい。

(写真はファーンボローで展示されていたBoeing社ファントム・ワークスが開発中の燃料電池飛行機。これはスゴイ!)
 

Chalet

2008年07月23日 | 宇宙航空産業
 
ファーンボロー国際航空宇宙ショーの開幕中にMBAクラスメートの一人と再会した。ベトナム系フランス人のTinだ。初めて会ったときからフレンドリーを絵に描いたような男で、僕と年齢が同じであり、また、大学時代にアメリカへ留学しカリフォルニアで生活していたことも共通し、すぐに打ち解けて仲良くなった。

MBAに入学する前はThales(タレス)というフランスの超大手通信機器メーカーに勤めていたのだけど、そんな彼も今はCFMインターナショナルという航空機エンジンメーカーで働いている。過去の経験を捨てて、彼はあえて航空産業の中で最も高い平均利益率を誇るビジネスに飛び込んだのだ。MBA在学中から「NOBU、人生はギャンブルだよ!」と言っていた彼らしい選択だと思う。

CFMインターナショナル社は日本では馴染みがないかもしれないが、航空ビジネスの世界では誰もが知っている国際企業だ。アメリカのGE社とフランスのSNECMA(スネクマ)社の合弁によって設立された企業であり、ボーイング社・エアバス社の双方に中型クラスのジェットエンジンを供給している。国際的なジョイトベンチャーの成功例としてビジネススクールの教科書にも乗るような優良企業である。また、日本のIHIなどが参加するIAE(International Aero Engine)社とはライバル関係にある。

Tinは僕のいるブースまでわざわざ会いに来てくれた。久々の再会だったので固く握手を交わした後、お互いの近況を軽く報告し、僕達はMBA時代を共に振り返った。あの頃はよく深夜まで議論したねとか、時にはクラスで議論が白熱し過ぎてケンカ寸前までいったとか、架空の航空会社を経営するゲームで一緒にトップをとったとか、僕達の思い出話にはキリがないようだ。とはいっても僕にも彼にも仕事が控えているので、彼が働くCFM社のChalet(シャレ)で後ほど待ち合わせをして僕達は別れた。

僕は仕事もそろそろ片付いた時間帯を見計らってCFM社のChalet(シャレ)へと赴いた。シャレとは大手企業が顧客を接待するために設置した仮設レストランのようなもので、エアバス社やボーイング社となるとその規模は体育館ほどの大きさになる。シャレには展望テラスが併設されていて、顧客はおいしい食事とおいしいお酒を堪能しながら上空で展開される航空機ショーを楽しむのだ。こんな接待を毎日のように繰り返しながら、世界の航空宇宙ビジネスは前に進んでいく。

CFM社の受付で僕が名前を告げると、Tinが既に顧客の一人として僕を登録してくれていたようで、すぐにシャレの中へと通された。フランス資本が参加しているだけあって、CFM社のシャレの内部は高級フレンチレストランのようだ。フランスから呼び寄せたシェフ、豪華なフランス料理と高級ワイン、オシャレなドリンクバー、その全てが僕の働く展示ブースとは別世界だ。お金のかけ方がまるで違う。そして、しばらくすると顧客との商談を終えたTinが奥からやってきた。今やCFM社のSales Director(営業部長)に昇進している。一気にManager(マネージャー:課長クラス)からDirector(ディレクター:部長クラス)に昇進して採用されたのだから、やはりAerospaceMBAの力はスゴイと思う。少なくともフランスやヨーロッパではそのくらいのブランド力があるようだ。

Tinとのその後の会話については、、、ご想像にお任せします。とにかく、楽しかった!とだけ言っておきます。

Merci beaucoup, Tin!

(写真はファンボローで展示されていた航空機エンジン)
 

中小企業の戦略

2008年07月22日 | 宇宙航空産業
 
今回のファーンボロー国際航空宇宙ショーで僕の目に映った新たな動きが一つある。それは日本の中小企業や地域団体による現地視察の多さだ。日本各地の航空宇宙コンソーシアムや地方自治体の商工部などがわざわざ日本からやってきて、世界の航空宇宙産業の現状をその目で視察していたのだ。

僕が所属する機関と一緒にファーンボローに出展したのは、横浜市に本拠地を置く航空宇宙コンソーシアムの「まんてんプロジェクト」、新潟市に本拠地を置く「にいがた産業支援機構(NICO)」、北海道に本拠地を置く株式会社の「B.U.G.(ビー・ユー・ジー)」など、全部で13の企業・団体だ。これらの企業・団体が誇るMaid in Japanプロダクトを、ファーンボローという世界の航空宇宙ビジネスの一大イベントで披露した。その事実だけでも大きな第一歩になったと僕は思う。

このほかにも、様々な地域の中小企業の社長さんが僕達のブースを訪問して、次回ファーンボローに来る際にはぜひ自社も一緒に出展させて欲しいとのご要望をいただいた。自分達だけでは出展するノウハウもネットワークもないけれど、世界市場に飛び出したいという熱意は十分に持っているとのこと。ものづくり大国ニッポンを支えてきた企業ばかりとあって、技術力なら世界で戦える自信はあるのだと思う。そんな世界と戦う意志のあう企業を、僕個人としては今後も積極的に支援していきたい。

参加していたのは企業ばかりではない。今回僕達が開催した欧米の航空宇宙企業を招待してのレセプションには、新潟市の商工部の担当者も参加していた。新潟市に本拠を置く企業の航空産業参入を支援するため、産業振興の観点から情報収集に来たのだという。僕が知る限りのヨーロッパ航空宇宙産業の最新情報を共有したり、また、僕がフランス時代に勤務していたATR社を一緒に訪問し、副社長との会談に参加してもらったりした。ほんの少しでもお役に立てていたならば嬉しい。その他、岡山県からは商工部の方と関連する財団の方が県内の中小企業の方々を連れて参加していた。こちらもヨーロッパのみならず世界の航空宇宙産業の最新情報を収集したいとの思いでイギリスまでやって来たのだそうだ。

彼らに共通するのは、完成品・全体システムをなんとか売り込もうとしているのではなく、あくまで自分達の技術力で勝負できる小さな部品やコンポーネントレベルで世界と戦おうとしている点だ。つまり、欧米の顧客に航空機やロケット、人工衛星そのものを買ってくださいと言っているのではなく、日本製の部品やコンポーネントを使えば、欧米が作る航空機やロケット、人工衛星がますます競争優位に立てますよというロジックで攻めている。お互いにWin-Winの関係をまず構築しようとする、ビジネス成功の定石を実行している。勝ち目は十分にある。

米インテル社はCPUというパソコンの部品に特化して世界を制した。日本からも「航空宇宙のインテル」となる企業にぜひ出てきてほしいと僕は思っている。

(写真は”かなこん”さんから質問のあった川崎製作所さんの展示物。)
 

成田到着!

2008年07月21日 | その他
 
ロンドン・ヒースロー空港から成田までの12時間のフライトを経て、10日ぶりに日本に帰ってきた。とにかく暑い。ロンドンではコートがなくては寒いくらいの気候が続いていたので、その違いに体が驚いてしまう。地球というのは本当にバラエティに富んだ惑星だと思う。

僕自身も完全にヨーロッパ時間に戻っていた体を、今からまた日本時間に戻さなければならない。東から西に向かう場合には比較的時差の解消が早いといわれるが、西から東へと向かう場合の時差の解消はやっかいだ。今も眠いが寝ると体のリズムが日本時間に戻らないので必死に我慢している。航空機という高速で便利な移動手段がもたらした弊害の一つかもしれない。便利さの裏側には必ず不便さがあるものだ。

ファーンボロー国際航空宇宙ショーで僕が見たのも、感じたことについては、明日以降のブログでまとめてレポートしたいと思う。とにかく、今の僕に一番必要なのは休養だ。ゆっくり休んで明日からの日本勤務に備えたいと思う。

(写真は僕の目の前を横切るエアバスA380。距離感の近さがファーンボローの魅力だ。)
 

Harrow on the hill

2008年07月20日 | 宇宙航空産業
 
帰国日である今日はとても忙しい一日だった。まず、朝早起きしてロンドン郊外のHarrow on the hill(ハロウ・オン・ザ・ヒル)というところへ。ビジネススクール時代の恩師の一人が現在ここに暮らしていて、日本からメールを出して会う約束をしておいたのだ。ケンブリッジ大学で教えていた経済学の研究者で、今でもたまにメールベースで指導をしてもらっている。僕が今行っている分析やシミュレーションモデルについて、専門的な見地から深い洞察に満ちたアドバイスをもらうため、あえて出発前のあわただしい時間を割いてやって来た。

待ち合わせ場所のHarrow on the hillというのは、やや長い名前かもしれないけど、知っている人はHarrow(ハロウ)校を思い出すかもしれない。Harrow校は、同じくロンドン郊外にあるEaton(イートン)校とともに、イギリスが世界に誇るパブリックスルールである。どちらも過去にイギリスの首相や有名政治家、経済人を多数輩出した超名門エリート校だ。

チャールズ皇太子やウィリアム王子などのイギリス王室の面々も、これらのパブリックスクールに実際に通っている。幼少期からイギリス社会の上層部の卵達とともに徹底的にエリート教育を叩き込まれ、同時に、寄宿舎での共同生活を通じて将来に渡る強固な友情と人的ネットワークを作り上げるのだ。それらは将来を通じて彼らの貴重な財産になることは間違いない。

ただし、先生の話によると、学費がハンパじゃなく高いらしい。貴族の師弟であっても貧乏では入学できないし、逆に、海外の超大金持ちであっても成金のような人々はダメとか、いろいろ厳しい条件があるのだそうだ。

先生とは昼下がりのイングリッシュパブで2時間ばかり話をすることができた。そのうちの一時間はMBA時代の思い出話や他のクラスメート達の近況を語り合って過ごした。皆世界中の宇宙航空系企業で元気に頑張っているようだ。共に苦楽を共にした仲間達がこうしてビジネスの表舞台で大活躍していることがとても嬉しい。フランスに残って就職した者もいれば、祖国に帰った者もいる。ただ全員に共通するのは皆宇宙航空分野で新たなキャリアをスタートさせているということだ。僕にとっても本当に励みになる。

飛行機の時間が近づいてきたので、僕は先生に心からお礼を言って空港へと急いだ。ロンドン郊外を走る地下鉄の窓からは緑豊かなイギリスの田園風景が見える。今回のイギリス出張は10日間とやや長かったのだけど、いろいろな成果を日本に持ち帰ることができそうだ。ただ、それを生かすも殺すも、全ては僕が日本に帰ってからの努力次第だと思う。

(ロンドン・ヒースロー空港ラウンジにて。写真はHarrow on the hillの地下鉄プレート)
 

Dubai

2008年07月19日 | 宇宙航空産業
 
航空宇宙ビジネスの世界では、今、中東が熱い。その中東の中でも特に熱いのがDubai(ドバイ)だ。ファーンボロー国際航空宇宙ショーでは、毎朝会場でニュース速報が無料で配られるのだけど、そのトップ記事を飾っているのは大体中東系の航空会社がとんでもない大型契約をAirbus(エアバス)社やBoeing(ボーイング)社と締結したというニュースばかりだ。

彼らの商売の仕方はケタが違う。エミレーツ航空やETIHAD航空、オマーン航空などは1回に50機とか100機の航空機をまとめて注文するのだ。そうすることによって、航空機メーカーからボリュームディスカウントを引き出し、1機あたりの購入価格を低く抑える。もちろん、それだけのキャッシュを用意できる自信と能力があるからこその交渉スタイルだとは思うけれども、オイルマネーの威力には本当に驚いてしまうばかりだ。1回の契約で何兆円というお金を動かす現場に、僕も一度居合わせてみたい。

加熱しているのは中東系航空会社による異常なまでの航空機まとめ買いばかりではない。ドバイという都市への投資誘致も過熱している。ドバイは砂漠の中に突然出現した人工都市のようなものなので、目立った産業も資源もなく、生き残るためには世界中から投資を呼び込み続けるしかない。アジアの中でシンガポールがそうであるように、そこが最終目的地ではないものの、世界中のヒト・モノ・カネが必ずこのドバイ集まり、そして、通過するような仕組みづくりを目指すのが彼らの戦略だ。

ヒト・モノ・カネが動くところにビジネスは発生する。ドバイは税金をほとんど徴収しない政策をあえてとることで、これらの動きと流れをさらに加速させ、近年に例がないほどの急速な発展を遂げている。これらの様子はファーンボロー航空ショーでの展示を見ていても十分に感じることができる。

例えば、ドバイ国際空港やドバイに建設予定のAviation City(航空都市)などがかなり広いスペースを確保して世界中の潜在顧客にその存在をアピールしていたりする。もちろん、展示会場だけでなく、特別に用意されたChalet(シャレ)の中でおいしい食事と最高のワインを楽しみながら、超リッチな商談が進められているに違いない。

数年前までは無名だった彼らがここまで航空宇宙ビジネスの世界に存在感を示し始めたことに、僕は驚きを隠せない。正直に言って、彼らに高度な技術力があるわけでもないし、技術の蓄積、過去の経験に裏打ちされた深いノウハウがあるわけでもない。ただ、オイルマネーに先導され繁栄し続けるDubaiという都市の魅力に見せられ、世界中からリスクマネーが舞い込むのだ。実態を伴わない繁栄という意味ではやや危険な香りがするので、僕は今の中東の状況を「宇宙航空バブル」と呼んでいる。

それが本当にバブルなのか、それとも、本物なのか、あと数年すれば分かると思う。もし、彼らの戦略がバブルではなかった場合、間違いなく世界の航空宇宙ビジネスで日本よりも遥か先を行く存在になっているだろう。

急成長するライバルは、中国やインドばかりではないのだ。

(写真はDubaiのAviation Cityのイメージ図)
 

Happy Birthday!

2008年07月18日 | その他
 
今日7月18日は僕の誕生日。昨年のフランスに続き、今年も海外で誕生日を迎えることになった。考えてみれば、僕の人生の中では誕生日を海外で迎えることが非常に多い気がする。別に帰国子女でもないし、狙ってそうしているわけでもないのだけど、気がついたら偶然そんな日が多くなっていた。もしかしたら宿命なのかもしれない。

昨年はフランスのトゥールーズでMBAのクラスメートとATR社の同僚が僕の誕生日パーティーに集まってくれた。フランスでは誕生日を迎える本人がパーティーを主催し、食事や飲み物などを用意して皆に振舞う習慣があり、郷に入っては郷に従えで僕も自分の誕生日パーティーを開いたのだ。OKINIというSalon de tea(サロン・ド・テ)を貸し切って開催したのだけど、皆日本のお寿司やお蕎麦をおいしそうに食べて、日本酒を飲み、楽しく語り合っていた。本当に素敵な時間だった。

今年はファーンボロー国際航空ショーに参加しているので、そんなパーティーを開催する余裕は僕にはない。朝から晩まで立ちっぱなしで働いて、ホテルに帰る頃にはもう足がパンパンになっている。でも、昨晩は同僚と一緒にイングリッシュ・パブに行き、名物のギネスビールを一緒に堪能した。グリニッジ標準時ではまだ17日だったのだけど、日本では既に18日ということで、皆で僕の誕生日をお祝いしてくれた。よい仲間とよいお酒とよい食事に囲まれながら過ごす誕生日ほど素敵な時間はこの世にないと思う。Merci beaucoup!

ファーンボロー航空ショーも残すところあと3日間だけだ。開幕当初ほどの盛り上がりはないものの、今日も世界中からバイヤー達が集まって、航空宇宙企業のブースを見て回っている。軍服を着た各国の軍人さんの姿がとても目立つようになってきた。彼らの多くは軍で調達を担当していて、世界中のサプライヤーに目を光らせているようだ。宇宙・航空と軍事が切っても切り離せない関係にあることの証拠だと思う。

海外出張も8日目となると、そろそろ日本食が恋しくなってくる頃だ。帰ったら誕生日祝いとして大好きなものをいっぱいたべてやろうと思う。

待ってろ、吉野家、モスバーガー、茶碗蒸し!

(写真は夢の「超巨大茶碗蒸し」。いつか食べたい!)
 

A2

2008年07月17日 | 宇宙航空産業
 
ファーンボロー国際航空宇宙ショーの開催地であるイギリスは、航空機の開発に関して歴史と数々の実績を残してきた国だ。ブリティッシュ・ノーマンライダーやコンコルドなど、過去に名機を評された航空機をいくつも産み出している。特に機体設計では抜群の強みを発揮するとの定評があり、実際にエアバス社の超大型機A380でも主翼はイギリスで開発・製造され、ドーバー海峡を渡ってフランスのトゥールーズで最終組立が行われている。

そのイギリスにまた新たな航空機開発の動きを見つけた。マッハ5のスピードで飛ぶ極超音速機A2(エイ・ツー)の開発だ。僕達がいつも乗る旅客機の速度は大体マッハ0.85程度なので、いかにA2のスピードが速いかが分かる。単純に比較しても、大陸間横断で10時間かかるフライトを2時間で実現してしまう能力を持つのだ。遠い先の話になるだろうけれども、もし本当に実現したならば航空機ビジネスに革命を起こす一大プロジェクトだ。

このA2の開発計画は、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の支援を受けて、Reaction Engine社というイギリスの民間企業が基礎研究を進めている。リアクションエンジンという新しい方式の特殊なエンジンを開発し、マッハ5の速度を実現するらしい。ただし、担当者の話によると実際の商業運行ではマッハ4程度の運行になるだろうとのこと。燃費やコストを総合的似判断すると、それがビジネスとしての最適解ということなのかもしれない。

僕も現在同じような極超音速機の構想に関して商業成立性の検討を行っているので、今回の航空ショーでは開発元のリアクションエンジン社のブースに迷わず飛び込んで情報収集を行った。担当者としばらく話をして名刺交換ができたのだけれど、残念ながら展示会には商業成立性検討の担当者が参加しておらず、こちらについては後日メールベースで質問に回答してくれることになった。

彼らの計画では、開発期間は13年、開発コストは22,600Millionユーロ、そして、1機あたり300人乗りの機体を想定しているらしい。機体価格は、100機製造した時点でのターゲット価格として639Millionユーロで、さらに、運賃はベルギーのブラッセルとオーストラリアのシドニー間のフライトで現在のビジネスクラス同等の3,940ユーロにしたいとのこと。ファーストクラスのみの運行だったコンコルドと違って、僕達にも手の届かない存在ではないかもしれない。ビジネスとして成立させるため、あえて普通の人々にもなんとか手の届く価格を実現しようとしているのだと思う。

とにかく、地球の反対側ではあるものの、夢のある開発プロジェクトが実際に進行していることが素晴らしいと思う。しかも、それを民間企業が先導しているところに、イギリスという国の奥深い実力を感じてしまった。

(写真はリアクション・エンジン社が開発を進めるA2の機体イメージ図)
 

Gianni副社長との再会

2008年07月16日 | 宇宙航空産業
 
今日はとても嬉しい一日だった。フランスのATR社で働いていたときに僕に航空ビジネスのイロハを叩き込んでくれたGianni副社長と再会できたのだ。昨年10月のMBA卒業式に来てくださって以来なので、9ヶ月ぶりの再会ということになる。お世話になった人にこうして同じ舞台で再会できることが何よりも嬉しい。

Gianni副社長は僕がいる展示ブースまでわざわざ出向いて来てくれた。予めイギリスに来ることはメールで伝えてあったのだけれど、その後ATR社からイタリアの親会社であるAlenia Aeronautica社へと戻り、上級副社長へと昇格した多忙でVIPな彼にはもう会えないだろうと思っていた。彼のようなヨーロッパ航空業界のキーパーソンとこうした関係を築けたことは、僕にとって一生の財産だと思う。まだまだ彼から学びたいことだってたくさんある。

僕はトゥールーズ時代のお礼を心から伝えるとともに、日本から持参したおみやげの扇子をプレゼントした。葛飾北斎の浮世絵が描かれた、いかにも日本らしい扇子だ。ATR社で働いていた頃にいつも「暑い、暑い!」と言っていたので、きっと扇子なら喜ぶだろうと思ってチョイスした。実際、すごく喜んでくれて、すぐに胸のポケットにしまっていた。これからブースに戻ってみんなに自慢するのだそうだ。喜んでくれて本当に嬉しい。

僕の予定はそれなりにフレキシブルなのだけど、ヨーロッパの一流航空宇宙メーカーの上級副社長ともなれば、やはり航空ショーでは多忙を極める。しかも、彼はビジネス開発部門を担当する上級副社長なのだ。今回のような航空ショーでの成果が彼の評価に直結する。分刻みでアポイントメントを入れているらしく、僕と会った後にも4件の面会を入れていると言っていた。そんな忙しい合間をぬってわざわざ僕に会いにきてくれたことが嬉しい。Grazie!

Gianni副社長と話ができたのはほんの15分程度だったけれど、僕個人にとっては今回の航空ショーで得た一番の成果になったと思う。今後の人生を変えるかもしれないくらいのインパクトがあった。

頑張ってひとつずつ結果を残していけば、後の人生で必ず自分の目指す場所に辿り着ける。それが本当なんだと今日分かった。

人生って本当に面白いと思う。

(写真はAlenia社が手がける特殊改造型ATRマリタイムパトロール機。)
 

PRのトレンド

2008年07月15日 | 宇宙航空産業
 
今回のファンボロー国際航空宇宙ショーに参加している企業のほとんどに共通して言えることがある。それは「原油高」と「環境」に対する取り組みのアピールだ。この2つのキーワードに絡めて企業紹介を行ったり、自社製品をアピールする企業が極めて多い。本当に今のトレンドだと思う。

「原油高」は今日の航空会社が抱える最大の経営課題であることに間違いはない。原油価格の先物取引を利用したリスクヘッジも限界を迎えており、低コスト体質をその競争優位の源としてきたローコスト航空会社さえも燃料費高騰のあおりを受けて経営の危機に直面している。慢性的な高コスト体質である大手航空会社にとってはなおさら深刻な問題だ。

「環境」は特にヨーロッパにおいて重視されるキーワードだ。ヨーロッパでは、2012年から航空業界も二酸化炭素の排出規制の対象となることが決定し、航空会社は今後自社が運行するフライトにより排出される二酸化炭素を削減するだけでなく、基準を超えた排出量に対しては炭素税を支払うことが求められる。炭素税のような新たなコスト増は、ただでさえ低いと言われる航空会社の利益率をさらに圧迫するだろう。二酸化炭素排出量の少ない航空機やエンジンを競って求めるようになった理由はここにある。

先日紹介したエアバス社のA380も例外ではない。総2階建て、最大800人乗り、ファーストクラスは個室スィートルームでダブルベット付、などの派手なセールスポイントを強調するだけにとどまらず、いかにA380という旅客機の燃費が優れているか、いかに窒素酸化物などの排出量が少ないかという点を全面に出してアピールしている。彼らが今回掲げたキャッチフレーズはこうだ。

A better environment inside and out. (中も外も、より良い環境があります。)

つまり、内部キャビンは広く、静かで、乗客にとっての乗り心地は従来の航空機よりも格段に素晴らしい。それだけでなく、外部へのエンジン騒音も少なく、二酸化炭素や窒素酸化物の排出も少ないので、外部の環境に対しても極めてやさしい航空機です。そんなメッセージを伝えたいのだ。

アメリカのボーイング社、カナダのボンバルディア社、ブラジルのエンブラエル社、そして、他の中小航空機メーカーも、全て同じようなトーンでPR戦略を練っている。こういう状況ではなかなか差別化が図りにくいので、後発組である日本の三菱リージョナルジェット(MRJ)にとってはますます不利な状況になるだろう。差別化が図りにくい環境下でいかにして真の差別化を実現するか。そこがMRJにとっての本当の勝負の分かれ目になると僕は思う。

(写真はエアバス社のポスターの1枚。Airbus社のHPより。)