宇宙航空MBAブログ

Aerospace MBA(フランス・トゥールーズ)が考える宇宙航空マネジメントの進化系ブログ

MRJのマーケット調査(その2)

2007年06月26日 | 宇宙航空産業
 
昨日は「航空機として」のMRJに対する一般的な意見を紹介したのだけど、今日はMRJのビジネスとしての可能性に関する意見を紹介。もちろん、パリ航空ショーの会場で僕が直接インタビューしてまわった汗と努力の貴重なマーケットインテリジェンスだ。
 
結論から言うと、航空機としてのMRJには肯定的な意見が多かった反面、肝心のビジネスとしての可能性については、ほとんど共通して否定的な意見ばかりが目立った。すなわち、皆一度は乗ってみたいと答えるのだけど、継続的に利用したいか?と問われると、やはり信頼性のあるボーイング社やエアバス社の航空機を利用したいと答えるのだ。少なくとも、航空機製造メーカーとして技術が成熟するまでの最初の数年間は、この日本が作った航空機に乗るのはまだ不安だという意見が圧倒的に多かった。

日本は自動車産業やエレクトロニクス産業などで世界を牽引し、その技術力の高さを世界に誇ってきた国だ。しかし、ひとたび航空機産業の、しかも、部品としてではなく完成機という意味での航空機産業となると、まったく世界から信頼されていない。自動車や電化製品なら「日本製だから買っても安心」となるところが、航空機の場合、「日本製だから不安」となるのだ。このギャップ、技術を誇りに生きてきた日本人にとってはちょっとショックな現実かもしれない。

革新をついているなあ~と僕が感じたのは、競合メーカーの一つであるブラジルのエンブライエル社のエンジニアからもらった意見。50席から100席までのリージョナル・ジェット市場の中で、中国のARJ21とロシアのSuper Jetは競争相手になり得るが、今の時点で開発するかどうかさえ決めかねているような日本は競争相手にもなり得ない、と彼は言い切っていた。

航空機開発は、莫大な初期開発投資が必要なとてもリスキーなビジネス。やると決めたら腹をくくって最初の十数年間は赤字覚悟で政府が支援し続けるくらいの強固なサポートがなければ、決して成功しないのだと。実物大の展示模型だけを示して、「こんな航空機が実現したら買いますか、もし買ってくれるのなら今から頑張って作ります」では、全く話にならないと言っていた。

確かに、僕が今度働く予定のATR社の副社長Gianni Tritto氏も、ATR社が航空機開発に参入した最初の10年間程度は、開発した航空機がほとんど売れず無収入状態だったと言っていた。それでも政府や親会社の支援を受けてじっと耐え、時間をかけて航空機製造メーカーとしての技術を成熟させ、やっと今の成功があるのだと。

市場の信頼という最も貴重なビジネス資産を手に入れるため、時間もお金もかけることなく、技術のみで勝負しようと考えている日本。世界の航空機ビジネスはそんなに甘くないということを、今回のパリ航空ショーで痛感して日本に帰ることになっただろうか。それとも、それに気付くことさえなく、MRJの機体デザインとしての良い評判に気を良くして、自信満々で日本の本社へと戻っていっただろうか。真相は彼らが出す結論を見るまで分からない。

僕は今回、競合メーカー数社の関係者の他に、航空会社関係者や空港関係者にまで範囲を広げて独自のマーケティング調査を行った。ボーイング社がB777の開発決定の際に用いたFinancial Simulation(財務シミュレーション)モデルを用いて、Break Eevn(損益分岐)分析もしてある。まもなくMRJに関して僕なりの結論を出す予定だ。

日本政府や三菱重工業が出す結論と僕の結論とがたとえ異なっていようと、それは僕にとって全く問題じゃない。僕なりの結論を、僕なりの分析に基づいて、僕のクオリティで世に送り出す出すことができるという事実が、Aerospace MBAで1年間学んだ僕の成長なのだと今は考えている。

結局、実際に作って販売してみないことには、誰にも正解なんて分からないのだ。

(写真は展示されていたMRJの小型模型。先端だけを見るとやはり新幹線かも。)