だだっぴろい野原の真ん中
たいそう太い木がありました
しっかりと張った根は
地中深く伸び
枝はどこまでも高く
天を目指しておりました
その木のまわりには
他には何もありませんでした
夏は容赦ない陽差しと
冬は冷たい木枯らしばかり
確か一度落雷にあって
地面に倒れた木なのでした
木だって絶望の底から
起き上がることがあるのですね
驚いたのはその枝のことです
どんなに微かな風のゆらぎさえ
感じとることができました
蜘蛛の糸に光るちいさな露玉まで
しっかり抱きかかえておりました
頼まれもしないのにたくさんの鳥たちを
枝に休ませておりました
これは一枚の肖像画です
にんげんのあなたを
どうして木にたとえてしまうのか
たくさんの枝を持つあなたが
どうしてにんげんなのか
はたして私は
あなたのまわりを一生廻りつづける
風なのかもしれません
(photo par Makoto OZAKI)