仕事が終わり、愛する家族が待つ我が家へ帰る道のりは、至福の時間のひとつでもあった。
ジヨン、ヨンべ、スンリの3兄弟の今日一日の出来事を聞く楽しみや、愛妻テソンの作る温かい手料理。何よりみんなの笑顔を思い浮かべると、その足取りも早く軽やかになる。
仕事の疲れも吹き飛ぶようなみんなの笑い声。その声が響いているだろう家のドアを開けて、すぐにいつもとは違う雰囲気にスンヒョンはただいまの声も小さくなってしまった。
「......ただいま?」
普段であれば、台所に立つ可愛い奥さんが走りよって出迎えてくれるというのに。その奥さんの背中から3兄弟の声もするはずなのに。
今日は確かに遅い時間になってしまったが、何時でもみんなは待っていてくれたものだった。
「ただいま~??」
聞こえなかったのかと、もう一度今度は少し大きめな声で言ってみても反応がない。靴を脱ぎ、さっきまで料理をしていたような跡が残っている、誰もいない台所を通り過ぎ居間に向かうと、結婚のお祝いとして祖父と祖母から贈られた白い大きなソファに、愛する人が倒れこんでいた。
「テ、テソンっ!?」
ぐったりとうつ伏せになっているテソンに駆け寄ると、慌ててその肩を揺さぶる。俯いた顔を覗き込めば、暗く沈んだ面もちで微かに声を発した。
「…スンヒョン…おかえりなさい…」
一体何があったのかと思うほど落ち込んでいるようだったが、見たところ怪我もなさそうだし、気分が悪くて倒れていたのではないみたいで、とりあえずスンヒョンはほんの少し安堵した。
「大丈夫か?どうしたんだ」
「…スンリが…」
肩を抱いて抱き起こすと、スンヒョンの広い胸に頭を預け辛そうに口元を手覆った。この口元に手を置く仕草は彼の癖のようで、より一層可愛さに拍車がかかる。
スンリがスンリがと、切なそうにスンヒョンにすり寄るテソンをよしよしと宥めると、落ち着いてきたのかこれまでの経緯を話し始めた。
「夜食を作ったんだよ」
今、末っ子のスンリは大学受験に向けての猛勉強中だ。朝も昼も、夜も遅くまで勉強している日々が続いている。テソンは毎日、夜遅くまで頑張っている息子の為に夜食を作っていた。
スンリは人一倍よく食べる。夜食がなければ空腹で勉強にも集中できない。勿論、いつもその夜食は完食していた。
「さっき部屋に持っていったんだけど…」
そこまで言うと、また視線を落としスンヒョンの手に自分の手を重ねた。スンヒョンもまたその手に手を重ねると優しく握りしめる。
ここまでテソンの話と様子を見ていて、何事かと焦りを感じていた。
スンリと喧嘩でもしたのだろうか。末っ子のスンリは、何故かうまくテソンに甘えることができずにいた。幼い頃はテソンにくっついて ばかりだったのに、年頃になってからはなんとなく素っ気なくなってしまった。普通の思春期あたりの男の子なら、当たり前のことだろうが、テソンはそんなスンリを寂しく思っていた。
だから毎日、テソンは特別に世話を頑張っていたのだが…。
彼らの間に、何かあったのだろうか?スンヒョンは考え不安になったが、テソンの悲しんでいる理由を聞いて拍子抜けしてしまった。
「夜食いらないって言われた...!」
わぁっとスンヒョンの胸に飛び込むと、その広い背中に腕をまわしぐすぐす言っているテソンを見下ろしスンヒョンは一瞬呆気にとら
れた。
「……え?」
「スンリが大好きなラーメンなのに…!」
もしかしたら具合悪いのかも、風邪ひいたかも、何か学校でイヤなことあったのかもと立て続けに言うと、どうしようどうしようと顔を手で覆った。
「…え、それだけ?」
「それだけって!」
「や、だって」
「三度の飯よりごはんが好きなスンリなのに!」
「んー…ん?」
「どうしよう、スンヒョン…!」
つまりは、夜食を作ったけど今はいらない食べたくないとでも言われたらしい。普通であればここまで大事にとらえなくても良さそうなものだが、テソンにとっては大変落ち込むようなことのようだ。
彼は手料理を褒めないと落ち込む節がある。勿論作るものはいつも美味しいから素直に美味しいと伝えているが、子供たちは最近そうでもなく、食べてもそんなにリアクションがない。特にスンリは思春期に入ったあたりからそんな感じで、その反応の薄さもテソンの不満と不安の種だった。落ち込む度にスンヒョンが美味しかったよとフォローを入れるが、本当は昔のように笑顔で美味しいとたくさん言ってほしいのだろう。
大人になるにつれて反応がなくなっていくのは、仕方のないことだとスンヒョンは思っていた。例外としていつでもどんなときも、元気に笑顔で美味しい美味しいと言う子もいるが。
最近ぐっと大人びてきたスンリにこそ、昔のように天使の笑顔で美味しいと言ってほしいテソンだから、今夜の出来事が一層深く落ち込むことになったのだ。
落ち込みすぎだろうと思わなくもないが、そこは一家の主、愛する妻のただひとりの夫として少しでも気分を上昇させてあげなければ。
「大丈夫だよ、ほらそんな顔しないで」
「でも…」
「今ちょうど勉強が忙しいんだ。そのうち腹減ったって部屋から出てくるさ」
「でもすごい素っ気なかった…」
「もうすぐ受験だし気が立ってたのかもしれない。話しかけられたくないって思う時もあるし、これから多分増えてくるだろうけど、今だけ仕方ない」
「そうかな…」
「そうそう、こっちがそんな深く考え込んでちゃスンリだって集中して勉強できないんじゃないか?もう、終わるまでできるだけそっとしておこう」
「でも…心配だよ」
「サポートできることはしてあげて、あとはスンリを信じて待ってよう。大丈夫さ」
「……ん」
「だって彼は俺たちの自慢の息子だからな」
「スンヒョン…」
心配なんてすることない、大丈夫だからとテソンを抱きし
めると、ようやく安心したのか胸の中でこくんと頷いた。その
艶やかな黒髪に唇を寄せて口付けると、途端に2人の間に甘い
空気が流れた。
「そうだね、スンヒョンに似てスンリは3人の中で一番しっかり
してるもんね」
「はは、そうだね。天使のような可愛い笑顔はテソンに似たけどね」
「も~スンヒョン!なに言ってるんだよ~!」
「照れなくてもいいだろ?でも…」
「ん?」
「テソンは今は天使というより、…女神かな」
「…スンヒョン」
すっかり忘れていたが、ジヨンとヨンべは出かけていて家にいないみたいだ。
いつもみんなが集まって賑やかな居間が、お互いしか見えていない夫婦の甘い空気に包まれていく。
テソンの薄く色づいた柔らかい頬にそっと手を添えると、不安に揺らいでいた瞳が嘘のように消えて、薄く水を湛えて潤みまさに女神のような美しさだ。
間近で見つめる妻にしか聞こえないくらいの小さな声で愛の言葉を囁くと、彼の頬はさらに桜色に染まった。
その言葉を合図にゆっくり目を閉じると、長い睫が静かに震えている。愛しさで胸が支配されていくのを感じながら、スンヒョンはその可愛らしい唇にキスを落とす…はずだったが、寸前のところでがちゃりと扉が開かれる音がした。
「ただいま…?あっ…」
「ただいま~!ん?ジヨンヒョン?……あ」
玄関の扉が開かれるのさえ、見つめあうことに熱中していた夫婦は気付かなかった。外から帰ってきたジヨンとヨンべが、居間の扉を開けたまま、そこに立ち尽くしている。甘い雰囲気はどこかに飛んで行ってしまった。
「かか、かえってきたらただいまくらい!」
「言ったじゃんただいまって…あーもーナニしてんのさ」
「こ、こんなとこで…やめてよ!」
恥ずかしいな~何してんだよ~とからかうジヨンとは真逆に、ヨンべは真っ赤になって動揺している。
テソンは桜色の頬から茹で蛸のようになっていた。そんなやり取りの3人を見ながら、スンヒョンは2人のいい雰囲気を邪魔されたことも忘れ楽しそうに笑い、愛妻から何笑ってんの!と少し怒られながらも、やはり楽しそうだった。
そして自室で勉強していたスンリは、楽しそうな居間からの笑い声をイヤでも聞くことになり、こめかみに青筋が浮かぶのをぐっと我慢していた。
天使の笑顔でおいしいって言ってあげてよぉー…>_<…
そしてリビングでイチャコラするのはダメだぞォォ(笑)
コメントありがとぉ~!(*^^*)
そうなんだよね、でも反抗したいお年頃で~(笑)
ママ大好きだと思うんだけど(o^^o)
ジヨンベも少し遅く帰ってきていいのよ~これから大事な事があるから(*´艸`)
コメントありがとー!!^^
これから大事な用事がwwwww
でもほら、別室にちゃんとすんちゃんいるからwww
いやーん♪きゃっv