古希行

七十までは歩けたい

ジャック・フィニィ 「失踪人名簿」 その4

2012-10-30 17:38:18 | 読書
チャーリイは再びアクミ旅行案内所に行ったが、例の灰色髪の男が、先日置き忘れてましたと、切符の代金分のお金を返してくれたっきり、ヴァーナの話もパンフレットの話も応じてはくれなかった。

それからチャーリイは、人によくこんな話をするようになった。
そう、普通の旅行案内所に入るようにして、そこに行くのです。
そして、ありふれた旅行計画の相談を持ちかけてみて、向こうから例のパンフレットの話を引き出すのです。
一度だけですよ。
そして、決めたら、後戻りはいけません。
なぜなら、あれから僕は何度も試したんだ。
だけど、無理なんだ。


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ジャック・フィニィ 「失踪人名簿」 その3

2012-10-30 17:37:14 | 読書
一瞬の気の迷いが、とんでもない失敗を招くことになる。

チャーリイは思い立つがはやいか、納屋の扉を開けて、外に走り出た。
警察に電話して、訴えてやるつもりだった。
が、彼はここでもまた躊躇した。
同行の客たちも助けてやろうと、振り返ったのである。

彼は見てしまった。
彼が先ほど開けた、納屋の扉の中は、例のパンフレットに載っていたヴァーナの風景が広がっていたのである。

あせった彼は引き返したが、あと一歩のところで、扉が勝手に閉まり、さっきまであふれていたヴァーナの光が消えて、真っ暗になった。
暗闇の中、どうにかこうにか扉に手をかけてこじあけると、納屋の中はカラッポだった。
彼はヴァーナに行きそびれたのである。


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ジャック・フィニィ 「失踪人名簿」 その2

2012-10-30 17:36:31 | 読書
チャーリイは所持金をすべて出して、〝ヴァーナ旅行券〟を買った。
譲渡無効、片道のみ、そして有効本日限り。

アクミの男に指示されたとおりに、バスの停留所に行った。
先客が4、5人いた。

みすぼらしい小さなバスがやってきて、チャーリイたちは乗った。
何時間も揺られて、着いたところは家畜の臭いがする古い納屋の前だった。
バスの運転手は降りる乗客の切符にハサミを入れ、その中で待つように言い残して帰って行った。

納屋の中に腰を下ろしたチャーリイは、やがて日が暮れて暗くなり、急に不安になった。
これは詐欺ではないか、と。
ヴァーナの話はとんでもない嘘話で、自分たちは持ち金を巻き上げられて、こんな片田舎の臭い納屋に置き去りにされたのではないか、と。


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ジャック・フィニィ 「失踪人名簿」

2012-10-29 17:20:39 | 読書
原題 "Of Missing Persons"

チャンスは一度しかない。

主人公は若い銀行マン、チャーリイ・イーウエル。
仕事はつまらなく、友達もいない彼は、バアである男から奇妙な話を聞かされた。
桃源郷というか、パラダイスというか、極楽浄土というか、とにかく、そんな素晴らしい世界へ行く方法があるという。

〝アクミ旅行案内所〟という、ふるびたビルの二階にあるオフィスに入る。
〝灰色の髪の、背の高い、いかつい顔をした男〟がいるから、話しかける。
取り留めのない話でもしながら、例のパンフレットの話を、むこうから切り出させる。

パンフレットのタイトルは〝魅惑のヴァーナは招く…〟。
パンフレットに載せられている写真は、ヨーロッパ人が開拓を始める前のアメリカのようなヴァーナという惑星でくらす、幸せに満ちた人たち。

アクミの男は、最初、このパンフレットはいたずらのつもりで作ったと言ったが、ヴァーナに関する会話が進むうちに、真実味が出てきて、最終決断をせまる。

バアの男が念を押して言った言葉がよみがえった。
「その場で決めなければだめだよ。チャンスは二度とめぐってはこないから」

チャーリイは答えた。
「行きます」


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ジャック・フィニィ 「おかしな隣人」 その2

2012-10-28 17:05:53 | 読書
1950年代のカリフォルニア州サン・ラファエルにある住宅街に、一組の夫婦が引っ越してきた。
事情ははっきりしないが、着の身着のままでやってきたらしく、生活必要品はすべてこの町で買ったようだ。
家具の搬入を眺めていた隣人のアル・リュイスは興味津々で手伝いをかってで、ヘレンベック夫妻の亭主テッドとすぐに親しくなった。

エピソードとしては、テッドの妻アンが、閉まったままの木製ドアにぶつかって倒れた。
「ドアというものは、ひとりでにはあかないんだぜ」と言うテッドの言葉には、「この時代の」という文言が隠されていたようだ。
ーーーこの21世紀に生きている僕たちにしたって、透明なガラス扉の前に立つと、まずは自動ドアを疑うものね。

テッドはアルに、自分が書いたSF小説だと称して、タイム・マシンの開発された21世紀の話をする。
人類は22世紀を前にして、未来を捨て、過去に移住するのだと。

二つの家族は、しばらくは楽しい近所付き合いを送るのだが、1958年の春が近づいた頃、ヘレンベック夫妻は、旧友がそこにやってくるから一緒に暮らすんだと、ニュージャージー州オレンジへ引っ越して行ってしまった。


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ジャック・フィニィ 「おかしな隣人」

2012-10-28 17:04:27 | 読書
原題 "Such Interesting Neighbors"

フィニィ作品はたいてい過去を描いているが、この作品は未来を描いている。
ーーーとは言っても、〝未来〟とは21世紀の内で、〝現在〟は1950年代だから、読んでる僕たちからすると半世紀も過去ということになる。

21世紀の後半、タイム・マシンの開発競争が激化した。
第1号機は〝運転〟するものだったが、技術革新の結果、150ドルの〝TTセット〟が出てからは、携帯端末をポケットにでも入れて、手ぶらで時間旅行できるようになったのである。

一家に一台の時代になると、多くの人々が過去へ跳んだ。
当初はバカンス感覚で、思い思いの時代に行っては、帰ってきた。
ところが、過去の時代の居心地よさがわかってくると、最終破壊兵器があふれ、不安と恐怖で先の見えない来るべき22世紀に生きていくより、過去に〝移住〟した方がマシと思う風潮が全世界に蔓延したのである。
かくて、地球は22世紀を迎えることなく、人間のいない惑星になったのである。


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ジャック・フィニィ 「レベル3」 その5

2012-10-27 17:30:38 | 読書
手紙の差出人は、例の精神科医の友人だった。
昔のゲイルズバーグへのあこがれを、チャーリイから何度も何度も聞かされた友人は、ミイラ取りがミイラになり、有り金を古札にかえて、グランド・セントラル駅地下3階に行ったのである。

「引揚げて来いよ、チャーリイ、ルイザも。地下三階を探しだすまで、諦めないで! 探すだけの価値はかならずあるんだ、嘘じゃない」

友人は800ドルの古札を持って、かの町に行ったらしい。
それだけあれば、ちょっとした商売でもやって、くらしていけるだろう。
平和なゲイルズバーグでは、精神科医はおよびでないから。
ある意味、究極の「田舎暮らし」かもしれない。

それ以来、夫婦は、地下3階探しをしているという。


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ジャック・フィニィ 「レベル3」 その4

2012-10-26 17:19:28 | 読書
切手蒐集家のひとつの楽しみに「初日の封筒」というのがあるという。
新しい切手が発売されると、白紙便せんを1枚入れた、自分宛の封筒にそれを貼り、投函する。
すると、当然、その日の消印が押されて、自宅に配達される。
その封筒をコレクションするのが「初日の封筒」だと。

チャーリイは、コレクションの整理をしていて、見覚えのない「初日の封筒」を見つけた。
宛名はゲイルズバーグに住んでいた祖父で、消印は1894年7月18日。
祖父から受け継いだコレクションの中に、それがあった記憶がないチャーリイは、封を切った。

その時、白紙であるはずの便せんが、チャーリイあてに書かれた、半世紀も前の手紙だとわかった。

ーーー「初日の封筒」というのは、初日カバーの一種だろう。

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ジャック・フィニィ 「レベル3」 その3

2012-10-26 17:18:29 | 読書
1894年のグランド・セントラル駅の地下3階へ行ってきたことを、チャーリイは友人の精神科医に話した。
医師の診断は、現実逃避願望による白昼夢。
しかし、チャーリイが古札を買いあさる様子を見て、医師は相当に心配してくれたらしい。

ことのあらましを聞かされた妻のルイザは、夫の精神状態を気づかって、もう地下3階探しはやめて欲しいと懇願した。
彼は、妻の言う事をきいて、かねてからの切手蒐集の趣味に戻った。
ーーー妻の願いは、きいてやるものだ。


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ジャック・フィニィ 「レベル3」 その2

2012-10-25 17:27:52 | 読書
チャーリイはイリノイ州ゲイルズバーグ行きの切符を2枚、買おうとした。
その頃のゲイルズバーグには、切手蒐集家の祖父が住んでいて、平和な生活を、祖父からよく聞かされていたもので、彼は妻のルイザと一緒に行こうとしたのだ。
ーーーこの作品の現在時間は、第二次世界大戦の悲惨な記憶も生新しい1950年代という設定か?

ところが、所持金のドル紙幣は、その時代には存在しないものだった。
不審がる駅員から逃げるように地下3階を出た彼は、翌日、全財産で古札を買い、もう一度地下3階へ行こうとしたが、とうとう地下3階へ行く通路を見つけることができなかった。


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ジャック・フィニィ 「レベル3」

2012-10-25 17:25:34 | 読書
原題 "The Third Level"、地下3階という意味。
主人公は31歳の会社員チャーリイ。
ある夏の日の夜、遅くまで仕事したため、帰宅は地下鉄の方が速いとニューヨークはグランド・セントラル駅の地下に降りて行った。
地下1階は急行列車の発着ホームで、通勤列車に乗るには地下2階に降りなければならない。
ところが、この駅は増築改築を繰り返してきたようで、迷路のようになっていた。
彼は、迷った。
不思議と、誰とも出会わない通路を歩いていくうちに、彼は、あるはずのない「地下3階」に出てしまった。
その駅は一目見て古風、1890年代の風貌をした人々であふれていた。
彼は新聞売りの足元に置いてある新聞束の1面を覗き見した。
日付は1894年6月11日、彼はその時代に紛れ込んだのだった。

ーーー「地下鉄(メトロ)に乗って」で、主人公が地下鉄に乗って過去の東京に紛れ込み、過去に介入してしまうってストーリー。口にした駅名が存在していないとか、所持金の額面の桁が違うとか、コギレイなスーツ姿が場違いとか。僕なんか、原作の新聞広告のコピーを読んだだけで、アレ?っと思ったものだ。


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ジャック・フィニィを読もうかな

2012-10-24 17:31:30 | 読書
レンタルで、浅田次郎原作の映画「地下鉄(メトロ)に乗って」を見たので、ジャック・フィニィを読むことを思いついた。

手元にあるのは、早川書房の異色作家短編集3、「レベル3」。
1961年刊。原書は1957年。

ジャック・フィニィは1912年生まれ。もっぱら短編が多く、長編は多くの作曲家が交響曲を第9番くらいまでしか書かなかったように、寡作の人でした。

ただ、長編「盗まれた街」は、映画の世界では好評で、何度もリメイクされました。
原題"The Body Snatchers"。

もはや、古典ですね。


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LDプレーヤーが壊れた

2012-10-18 17:22:32 | 日誌
半年ぶりに、LDプレーヤーを動かそうとしたら、電源が入らない。

壊れた。

諸行無常のことわりか?

持っているLDソフトの大半はDVD化されているが、それでも、何枚かは将来のDVD化を含めて、もう手に入らない貴重な映像資料なのだ。

なんだか、長生きしていると、こんな状況によく出合うものだ。

アナログレコード、カセットのメタルテープ、マイクロフロッピー、MacOS9のソフト、ハンディカムのテープ、等々。

もはや、僕も、老い先短いものと考えて、今後再生するメドのたたないソフトは、売るなり、寄贈するなりして、目の黒いうちに、処分してしまおうか、な。

諦めが肝心。

南無阿弥陀仏。


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村上春樹、ノーベル文学賞逃す

2012-10-11 21:19:10 | 時事ニュース
あらためて、歴代受賞者を眺めてみますと、元文学青年を自称する僕ですが、ほとんど知らない人ばかりですよ。
ヘッセやカミュぐらいはおなじみですが、九割がたは時代の流れに飲み込まれてしまっているんじゃないでしょうか。
つまり、ノーベル文学賞ってのは、文学史上、名を残すような作家は、取れないってことです。
〝世界文学全集〟に名を連ねる大作家は、大半は、ノーベル文学賞には縁がないのです。
わが国では、川端康成が初受賞しているので、文学界のレコード大賞みたいな扱いをするのですが、現実、作品にではなく、作家の生き様に賞が与えられているのです。大江健三郎のように。
村上春樹の受賞は、このままでは、無いですね。
どちらかって言うと、石原慎太郎のほうが可能性があるんじゃないかな。
作品で勝負する作家は、ノーベル文学賞はあてにしないほうがいいです。


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男おいどん 1 大快楽的四畳半

2012-10-10 17:41:51 | 読書
バアさんは、おいどんがため込んでいるパンツの山を洗濯することを決行。
それを、西尾さんも手伝うことに。

西尾さんは、それから、乾いたパンツで、おいどんのために布団を縫ってくれた。

「わたし 大山さんのこと すきよ」

「男性としては 松尾くんのほうが すきだけれど 弟みたいな気がするところが あなたがすきよ」

ーーー言葉の最後を〝すきよ〟でしめた西尾さんは、やっぱり、バアさんが言うように、嫁さんにもらうなら彼女なんだねえ。

これで第1巻読了。
当作品は、週刊少年マガジンに1971年から1973年まで連載された。
ビンボーでも、明日に夢見て、無為の日々を送る若者を、主人公にできた時代だった。
今や、ビンボー人は多々あるものの、夢を語れる余裕はない。
今日を生きるために、今日働き、稼ぎは今日の支払いで使い切る。
明日は今日以上に稼がないと、増税・新税・年金掛け金は待ってはくれない。
こんな時代の到来を、〝夢の21世紀〟を、あの頃のおいどんたちは予期していたはずはない!
人類は、物質文明を進歩させることはできたが、世界のすべての人々の幸福は生み出せなかった。
ある人間を幸福にするためには、他の人間を不幸にしなければならないという理を、便利に思っているうちは、〝本当の幸い〟はやってこない。
人の上に立つ者は、仏様や菩薩様でなければならないのに、大抵は、欲にかられた鬼ばかりだ。


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