世界自然遺産屋久島。
樹齢2000年。
高さ23・7メートル。
幹回り12・6メートル。
翁杉、倒れる。
2009年11月。たった、10ヶ月前に僕が訪れたときにはこれでもかというくらい堂々と君臨していた翁杉。
屋久島を訪れた際、おそらく二十は超える数の~杉と名のついた杉を見た。
もちろん、殆ど名前は覚えていない。
ただ、この翁杉に限っては、名前も、場所も、その場のイメージもはっきりと思い出せる。
何故だかは分からない。ただ、はっきりと覚えている。
アメリカ合衆国。ニューヨーク。
ワールドトレードセンター、倒壊。
この事件が起きる何年か前、僕はエンパイヤステートビルの屋上に立っていて、ワールドトレードセンターを見ながら
「あれが出来るまで、今このビルが世界一高かったんだなー。」
そんな事を思っていた。
翁杉もエンパイヤステートも、僕の記憶の中では未だはっきりとそこにたたずんでいて。
堂々と。堂々と。堂々と。
社会人としての生活とかそんなの関係なく、もっとずっと前から。
なんとなく、明日のおおよそは想像がついて。
もちろん全てが予想通りではなく、想像外の何かが少しずつ起きて。
でも、大体想像と一緒な明日。
学校行って、研究室行って、サークル行って。
会社に行って、汗流して、物作って。働いて。
毎日、それなりに新しい発見なり気づきなり感情なり、新しい何かがあって。
単純に汗流して、物作って、仕事して。楽しい。
まがいなりにも、自分が何かの役に立っているんだと実感できて。うれしい。
ただ。ただ。
「なんとなく想像が着く明日から、トリップしたい。」
そう思うことがある。
僕が知らないバショへ。
僕を知らないバショへ。
もちろん、トリップなんてしなくて、
なんとなく想像が出来るこの日々の幸せなり楽しみに浸かる僕なのだけど。
そんな僕にとって、翁杉のような大木は、
そこにたって、根を張って、日々着々と変わることなく、日々着々と成長してきた、
その姿がとても堂々として、とても美しく、とても耀いて見える、
金字塔のような存在。
「トリップなんてしなくて、まっすぐその毎日を生きれば良い。」
そう思わせてくれる金字塔。
そんな翁杉だからこそ、このニュースを見たとき無性に凹んだ。
すごい悲しかった。不安な気持ちを感じた。
ただ、きっと。きっと。
翁杉の幹には今もたくさんのコケが、菌が、虫が生きている。
ただ、きっと。きっと。
翁杉はこれからも、たくさんのイキモノの。
ただ、きっと。きっと。
僕はなんとなく想像が出来る明日を。
僕は少し想像と違った明日を。
←未だに、翁杉もエンパイヤも僕の中では堂々と立っているのだけれど、いつか自分の目で必ず見に行こうと思う。こんばんわ。ちきんでした。