記憶鮮明、文章不明

福祉は権利。平和こそ最大の福祉。保育なめんな、子どもなめんな、保育士なめんなです。

出口のない海  野球を好きな人はぜひお読みください

2005-08-10 | 本棚(その他)
船の旅では時間がたっぷりありますので、本を一冊読みました。

横山秀夫さんの「出口のない海」


はらまきよりあらすじ
甲子園の優勝投手・並木浩二はA大学入学後、ヒジを故障。新しい変化球の完成に復活をかけていたが、日米開戦を機に、並木の夢は時代に飲み込まれてゆく。死ぬための訓練。出撃。回天搭乗。しかし彼は魔球を諦めなかった。




おせっかいいいます。この夏おすすめです。「博士の愛した数式」も「江夏の21球の盲点」もよいけど、一冊えらぶとしたらこれです。

高校野球で負けちゃった選手たち、1、2年は新チームの切り替えで練習に明け暮れているでしょうが、夏の読書感想文の宿題があっても無くても、この本は読んだほうがいいです。引退して、大学のセレクションとか受験勉強モードの3年生諸君も、「こんな進路はまっぴらごめん」というだけの知性と感性だけはもっていったほうがいいと思います。

もちろん中学生でも、高校野球ファン、大学野球ファンでも「野球の好きな人」は是非お読みになって・・・。あ、プロ野球のかたもよいですよ。











やきゅうができるっていうことが
やきゅうがみられるっていうことが
どれほど嬉しいことなのか



しみじみ味わって・・・







回天という兵器は、人間を部品として考えられた「人間魚雷」、海の特攻兵器です。脱出装置はありません。






食糧事情の厳しい大学の野球部寮、やがて学徒出陣のときがきます。
その前に、最後の思い出にとマネージャーが奔走してA大野球部の「壮行試合」が実現します。「最後の早慶戦」のような華やかさも無い、町の商店街との草野球。でも、むごいつらい物語の中で、前半のこの部分だけは一瞬の光がきらめいていました。

ヒジを故障している並木は志願して海軍に入り、激しい訓練に耐えながら子犬の「カイテン」を相手に夜な夜な変化球の練習にはげみます。

出撃が先か、魔球の完成が先か・・・。









何年か前、おりがみは、映画「月光の夏」で、特攻の飛行機に乗る音大生が、出撃前にピアノを弾きにいくというシーンに涙しました。
まだ行ったことはないのですが、長野には戦没画学生の作品を展示してある「無言館」という美術館があるそうです。
高知の義理の兄貴は「おりがみさん、一度知覧にいってごらん」と耳にたこが出来るほど誘ってくれます。

夢を諦めて、死地へ。音楽、絵、野球・・・・平和ならではのいとなみ。


作者は並木の妹、弟を絶妙の年齢構成で登場させます。
女学生の妹、国民学校(小学生)の弟は、生まれたときから戦争が当たり前の世代です。しかし、並木たち学徒兵は曲がりなりにも平和なときを享受し、自由闊達な体験を経て戦争状態へと入ってゆきます。心も身体も出来上がりつつある若者が、盲目的に「お国のために」とまい進したのではない、悩んで苦しんだ末の進路の選択だったわけです。
弟たちに自分らのような体験をさせたくない・・・そんな思いからの志願の兄。
それに対し、幼い弟はあたまっから「聖戦」を信じて疑いません。
妹の友人の少女を「家まで送るよ」という兄に対して、弟が「この時局に男女が並んで歩くなんて」と批判的な態度、物言いをする場面は、些細なことですが教育の恐ろしさを垣間見た思いがします。











戦争が終わって野球が復活したときの記録フィルムを見ると、誰もがはじけるような笑顔です。沸き返る球場。でも、あの球場に集まる人の何百倍もの人が、戦争で死んでしまったのですから、おそろしいことです。
もう、二度と並木のような体験をする若者のないようなせかいであってほしいのです。



本を読み終え、顔をあげると、船のロビーのテレビでは、メジャーの中継が映っていました。躍動するゴジラ松井と、井口。ああ、アメリカの地で、日本の若者が野球をしてる・・・。

甲板にでると、海はどこまでも青く、美しかったです。トビウオの群れまで見ることが出来ました。

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