練習オタクの日々

3日ぼうずにはしたくありません!この日記とピアノのお稽古。練習記録とその他読書などの記録をつけておきます。

『失われた町』 三崎亜記

2007-12-14 | 読書
「プロローグ、そしてエピローグ」という題の序章を読み始めてしばらく、
内容の意味が分からず、「もしかして、SF冒険もの??」思ってしまい、
選本ミスか、とまで感じてしまった。

町が「消滅」?、「○号」とかいう非人間的な人称?、「管理局」?、「町」の意志?などの語句、
近未来的な勤労場面、「町」からの「汚染」を受けた「人間」の姿、そして、長年連れ添ったと思われるにもかかわらず自分の名前を男に呼ばれ「戻ってきたよ」という言葉で感極まって涙する中年女性・・・。

まるで意味が分からなかった。

しかし、本編を読み始めてしばらく、ああ、そうか、そういうことか、と徐々に明らかになるストーリーに引き込まれた。

どうやら(やはりSF的ではあるが、ある意味メタファー)ある「町」が、
いや、「町」の様相そのものは残るのだが、そこに生息している人間が一瞬にして消える、という現象にかかわる話らしい。
その町の中にいた人間は消えるのだが、外に出ていた人間は残る。
それによって引き起こされる悲しみ、絶望などなど・・・の感情を持つ残された人間は「町」に「汚染」され、蝕まれる運命。

で、「町の消滅」を阻止しようとか、消えてしまった大切な人のことを悲しむことはできないけれど(「汚染」されてしまうから)今大切な人のために生きていこう、とか、それだけだとかなりきれいごとの勝った、お説教臭い物語になってしまうところなのだろうけれど、
私が飽きずに最後まで面白く読み通せたのは、この話のミステリー的、なぞとき的なとてもよく構築してある構造のおかげなのだと思う。

先に先に読み進むと、以前出てきたような人物がまた出てくる。
「あれ?この人、誰だったっけ?あ、あの人だ!こういうことだったのか!!」
という瞬間が数え切れないほどある。
短い各章の話が大きなひとつの物語として繋がっている。

そして、全部読み終わったあと、最初読んでも訳のわからなかったプロローグに戻って読み直すと、すべての謎が明らかになる!

普通の物語に飽き足らなくなってしまった人にはお勧め。