永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(158)

2016年12月20日 | Weblog
蜻蛉日記  下巻 (158) 2016.12.20

「六日のつとめてより雨はじまりて、三四日ふる。川水まさりて人流るといふ。それもよろづをながめ思ふに、いと言ふかぎりにもあらねど、今は面馴れにたることなどはいかにもいかにも思はぬに、この石山にあひたりし法師のもとより、『御祈りをなんする』と言ひたる返りごとに、『今はかぎりに思ひはてにたる身をば、仏もいかがし給はん。ただいまは、この大夫を人人しくてあらせ給へなどばかりを申し給へ』と書くにぞ、なにとにかあらん、かきくらして涙こぼるる。」

◆◆六日の朝から雨が降り始めて、三日四日の間降り続きました。川が増水して、人が流されたということです。それにつけても、さまざまな思いにふけってぼんやり考え込んでいますと、なんとも言いようのない切なさではあっても、今は夫との薄い生活にもすっかり慣れてしまって、どうとも思わなくなっているときに、あの石山で出会った法師のもとから、「奥方さまのために御祈りをいたしております」と言ってきた返事に、「もう今は、これ以上どうにもならないわが身のことは、御仏さまでもお手のほどこしようもないと存じます。これからは、わが息子道綱を一人前にしてくださいますようにとだけ、お祈りしてください」とだけ書いていますと、どうしたことか、目の前が暗くなる思いで涙がはらはらと零れるのでした。◆◆


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