弁護士山本行雄 情報提供 札幌弁護士会所属

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参考情報 三島市議会の放射性物質に対する法整備意見書

2019-05-04 23:16:56 | 公害犯罪処罰法と原発公害

 2018年9月三島市議会が、放射性物質に対する公害規制の法整備を求める意見書を採択しています。提案は全議員によってなされています。議決内容は、末尾に転記してあります。

同様の決議は、これまでに江別市議会、石狩市議会、江別市議会、石狩市議会、小樽市議会、取手市議会、札幌市議会、小金井市議会でもなされています。

三島市議会の決議を契機に、このような自治体レベルの活動の意義を再確認し、全国に広げていきましょう。

以下、このような自治体レベルの活動の意義を説明させていただきます。

 

1 放射性物質による環境汚染防止の法整備を求める自治体議会の決議の意味

 「自治体の決議なんか、たいした意味はない。」そう思っていませんか?

それは大きな誤りです。直面する再稼働問題にだって大きな関係があるのです。

 放射性物質は公害物質です。しかし従来公害規制の対象から外されてきました。

 原発は、最悪の公害産業なのに、公害規制法の適用を免れるという責任逃れの扱いがなされてきたのです。

ここで、公害規制の核心的な構造を確認しておきましょう。それは、汚染に基準を定め、基準に違反した者には刑事罰を加えるこということです。簡単に言うと「汚染するな。すれば罰する。」という構造です。放射性物質には、この規制が適用されないことになっていたのです。

 なぜそんな扱いになってきたのでしょうか? 理由は簡単です。公害規制は原発稼働の障害になり、原発による産業振興(原子力基本法1条)の邪魔になるからです。このような扱いは原発産業以外の分野にはありません。

福島第一原発事故を契機に、国会はこのような扱いを反省し、「付帯決議」(注1)で適用除外規定の見直しを含む法律の抜本的見直しを国民に約束しました。

こうして、環境基本法13条の適用除外規定が削除され、大気汚染防止法や水質汚濁防止法も適用になりました。しかし、汚染に基準を定めて違反を罰したり、公害被害者である被爆者を救済したりする制度は未整備のまま放置されているのです。

 

2 原発再稼働に重大な関係

 ここまでで、原発再稼働にも大きな関係があることに気づかれたと思います。現在進行中の実際の動きで見ていきましょう。

現在、再稼働は「安全審査」と「防災訓練」の後、地元知事、市町村長の同意という手順で行われています。

防災訓練は、一定の過酷事故を想定して行われています。しかし、過酷事故を想定しているのに、その結果どのような汚染被害が想定されるのかについては、国も自治体も一切無視したままです。府県や市町村には危機管理の担当部署はありますが、汚染被害の担当部署はありません。公害法の未整備の結果、行政に反映されていないのです。

以上を前提に、自治体議会の意見書採択と再稼働を考えてみましょう。

住民から自治体の首長に対して、議会議決を尊重せよ、住民を守る法律も対策もないのに再稼働に同意するな、という根拠を与えることになります。

汚染した者の責任はどうなるのか、国会が約束した法整備はどうなっているのか、このような課題が自治体レベルで浮上することになります。

そして、最も大切なこと、それは地域社会で暮らす人々が、自分たちは放射能汚染から守られていないのだ、という現実を、実感をもって共有することができるということです。

3 福島の事故に重なるように廃炉の時代を迎えました。否応なしに放射能汚染から人と環境を守っていくことが中心課題に浮上しつつあります。放射性物質から人と環境を守るための法整備は、避けて通ることの出来ない課題なのです。たとえ原発を容認する人たちでさえも、この課題からは逃れられません。法整備には困難を伴います。しかし、多くの人々の共感を得ながら取り組むことのできる、やりがいのある課題です。

環境基本法は改正され、放射性物質は法律上の公害物質として扱われることになりました。規制基準を定めて取り締まることが必要です。環境基本法は、それを「やれ」と書いてある法律なのです。

「放射能汚染防止法」制定運動は、弁護士中心の運動ではありません。国会が「付帯決議」で約束したことを果たせ、という当然のことを求めているのです。だれにでも始められます。

三島の皆さんに励まされ、北海道でも一層頑張ろうとしています。みなさんもいかがでしょうか。

(注1)福島の事故を受け、2011年6月に水質汚濁防止法改正の際、衆参両院で放射性物質の適用除外規定の見直しを含む法制度の抜本的見直しを付帯決議しています。

 

<以下、原案通り採択された意見書「案」の転記です。>

 

            放射性物質による環境汚染を防止するための法整備を求める意見書(案)

 

2011年東日本大震災に伴う東電福島原発事故により、環境中に膨大な量の放射能が広がった。しかし、放射性物質が公害・環境関係法律から適用除外されていたため、他の公害物質が環境中に放出された際に問われる貴任が問えないでいる。これを受けて国は、2012年に環境基本法を改正し、2013年には大気汚染防止法と水質汚濁防止法を改正して、放射性物質を「公害として位置付けた。

公害とは事業活動その他に伴って生ずる大気、水質、土壤の汚染などによって、人の健康または生活環境(人の生活に密接に関係ある財産、動植物)に係る被害が生ずることと定義されている,現状、他の公害物質では環境基準と規制基準、罰則規定が定められている。

しかし、放射性物質だけがこれら基準や規定がない。放射性物質に対しても他の公害物質並みに基準や規定を加える必要があると考える。

法改正から5年経過した今も、具体的な公害規制の法整偏ができていないのが現状であり、人の生命や環境を守るための放射能汚染に対する責任の所在が明確とは言えない。

よって、国においては、環境基本法「改正」を踏まえ、放射性物質による環境汚染を防止するための法整備を早急に進めることを強く求める,

 

以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

平成3028

 

                                               三島市議会

衆議院議長様

参議院議長様

内閣総理大臣様

経済産業大臣様

環境大臣様