僕の細道

冬の過ごし方(大阪編)

『冬の過ごし方』(大阪編)

 各民放局が一斉に情報番組を放送開始する時間に家を出た大型バイク。昨日の疲れが残る体に寒さという鞭を入れてそのまま、渋滞の国道23号線で西に走る姿があった。そのバイクには樹脂製の箱型ケースが左右に取り付けられていた。その車幅を感じさせぬように右に左に車体を動かしながら大型トラックの車両群をすり抜けていく。名古屋市の西側を流れる何本もの河川に架かる大きな橋脚を冷たい風に煽られながら、道を進める。木曽川大橋を越えると左側に長島スパーランド入口がある。そしてその手前には待ち合わせによく使われる東海バレーというゲームレストラン&温泉がある。その朝も平日というのにその駐車場には何台ものバイクが並んでいた。寒さに負けないライダーはどこにでもいる。

 車両の流れを縫うようにして四日市市の街並みを掛け抜ける24時間動き続ける工場の煙突から出る異臭の煙をライダーはヘルメット越しにでも感じる事が出来る。伊勢方面と大津方面との分岐点である高架橋をくぐり、それまでの車両が減ってくると一段と速度を上げる大型バイク。繋ぎ国道の25号線は緩やかなアップダウンと緩やかなカーブの連続であり、潜在能力を活かすが如く、豪快な走りに撤する愚か者の姿が四輪車の車窓に映る。いつものようにバイクは亀山ドライブインに滑り込んだ。着膨れした体をシートから降ろし、固まった手足を大きく動かしてほぐしていく。ガラス一枚隔てた暖房の効いたドライブインの中で悴んだ手でタバコを取り出し、火を点ける。体の中は血液が隅々まで行き渡るように煙が充満していく。長居をすると動けなくなるので、程よい時間で休憩を切り上げる。

 インターチェンジ周辺道路もそろそろ会社が始業しだしたのか、少々車両も減ったようだ。ここから名阪道路に登り、ビッグツアラーの真価を発揮する。右手に力を込めて、カウルに身を潜め、加速していく。伊勢道との分岐を越え、トンネル手前の急カーブを曲がろうと腰を動かそうとするといつも履いる皮パンツと違い、極寒用にと購入したオーバーパンツはナイロン生地の為、シートから滑ってしまい、慌てていた。それでも、真冬の寒さに身を縮込ませ、冬のバイク乗りは西へ疾走する。高峰近辺のコーナーの連続した所では、シートの滑りを気にしながらもリ-ンウィズで駆け降りていく。

 天理ICで降り、名阪道路の高架下をくぐり、すぐに旧道へ曲がり、大型トラックにはすれ違い困難な細い道を大型バイクはゆっくりと進んでいく。左手に名阪道路の高架を見ながら、旧街道をウロウロ、渋滞に嵌まりながら、オタオタ進む。 法隆寺の前を通り、商店街や町の喧騒を体に感じながら、信号待ちをしたり、黄色い線を跨いで、スルスルと前に出てみたり、時々、道を間違えながら、その町を楽しむ。狭い旧街道の町並みでは、大きなダンプが塞がり、周囲に渋滞を巻き起こそうとも、それがその町の味である。関西のオバチャンモードの騒がしい町やオッサンモードのしみったれた町。旅先にはいくつもの町の顔がある。それを楽しめられるかどうかが、ツーリングライダーか否かだ。

 藤井寺に入ると道は広がり、車両も更に増える。でも、ここから先は何度も来た道なので、少しだけ速度を増して何車線もある道路をちょっとだけ楽しむ。バイクミーティング集合場所の堺市/大泉緑地まではあと少し。 その友人主催のバイクミーティング参加者はやはり大阪を中心に二十余名程が集まった。会場となった大泉緑地では保育専門学校の生徒達が謝恩会でお披露目する「和太鼓」の練習をしていた。彼女達もどんどんバイクが集まってくるので、興味を持っていたようだ。しかも、関西ナンバーばかりの中で、一台だけ遠距離の名古屋ナンバーバイクが停めてあったのも興味を引いていたようだ。何故、解ったかというと、その名古屋の男はいつものC調子で、どこでも誰とでも良くなれるという図々しさをいつもポケットの中に携帯しているからである。

 会場にやってくるバイクは今の時世を反映するかの如く、大型バイクが主流を占めていたが、紅一点の女性ライダーはホンダ、クラブマン250に乗り、彼氏(ヤマハ、SRX400)と一緒に神戸から参加してきた。他にも変わったバイク(昔のメッサーシュミットや昔のドカッティ)もあり、風体、年齢も違う集まりだった。そして、を灯油缶に廃材をほおリ込み、火をくべ、皆で楽しむのだった。
 吹き刺す冷たい冬の風、火を囲み暖まるライダー達、家の前から続く道は幾重にも九十九折られ、友の前に続く。冷え切った鉄の塊りはイングニッションのキーをひねると時と場所を越える道具となる。エンジンの鼓動は踊り、バイブレーションはライダーの体を貫き、その鉄の塊りはライダーを運び、新しい出会いを演じる道具となった。ミーティング(集会)、出会いとコミニケーション。旧交を暖め、親睦を深める。新たな出会いのキッカケとなる場所。最新型のお披露目、部品の情報交換、ライディングの追及、バイクを通して出会った人の交わりだ。鉄の塊りに火を入れるのは意志を持った寂しがり屋のライダー達なのかもしれない。

 ミーティングを終えたライダー達はそれぞれの家路に向かう。名古屋の男もバイクに跨り、西の友に見送られ、その場所をあとにするのだった。熱くなった男は右手のスロットルをコントロールさせて、来た道を更なる速度で東に戻る。またしても、天理ICより名阪道に登り、上野であった事故渋滞も気にせず、駆け抜けていく。それは亀山ICで下り、国道へ出ても変わらぬのであった。

期日:2000年2月22日(火)
使用車:ホンダCBR1000Fパニアケース着用
距離:467km
ルート:往路)名古屋~(R23)~四日市~(R25&R1)~亀山IC~(名阪道)~天理IC~(K192&R25)~藤井寺~(K31)~堺市/大泉緑地(会場)
   帰路)往路行程を戻る。
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