これからその構成をたどりながら、感想を書いて行きたいと思います。
「〈正義〉の生物学 トキやパンダを絶滅から守るべきか (KS科学一般書)」(山田俊弘, 2020/6, 講談社, Kindle版)
https://www.amazon.co.jp/dp/B08BZGYRDR/ref%3Dcm_sw_r_tw_dp_x_8dyaFbF7SXWBE
序章。
ここでは「生物の保全は必要か? 必要ならその根拠は何か?」と問いかけます。
幾つかの答案が用意されます。
しかし1つを除いて否定されます。
そして本書が提示する答えである「生物を保全することは正義であり当たり前なのだ」が示されます。
序章で否定されなかった1つの答案とは、次のようなものです。
「ある種が滅ぶと巡り巡って人間の生存が脅かされる可能性がある」(意訳)
なぜこの答案が否定されなかったのか?
それは本書を最後まで読むと見えてくると思います。
第1章。
ここでは保全不要論について、生命の歴史とそこに現れる大量絶滅を紐解きながら論じていきます。
現在の(人による)大量絶滅が、それまでの大量絶滅よりもけた違いに酷い現象であることを明らかにしてゆきます。
第2章。
ここではヒトの起源とその分布拡大の歴史を追いながら、ヒトが引き起こしてきた生物の絶滅について追っていきます。
認知革命、農耕の開始、産業革命、飛び道具の発達と普及、それぞれを切っ掛けとして生物の絶滅が引き起こされています。
環境問題の解決を未来の技術に期待することの難しさについても書かれています。
第3章。
ここでは弱肉強食が自然の摂理か、生存競争は大量絶滅を擁護するか、そして社会ダーウィニズムについて書かれています。
弱肉強食が自然の摂理とは断言できないこと、種間の競争は(進化論における)生存競争の概念の外にあること、そして社会ダーウィニズムは誤りであると論じています。
第4章。
こでではいわゆる「役に立つから守る論」について論じてゆきます。
生物種のほとんどはヒトの役に立たない種であると断じています。
それらの役に立たない種を、将来役に立つかもという理由で保全することについても、未来の社会がそれらの価値を必要とするか不明であるとして否定しています。
第5章。
本書の本論と言うべき章です。
まず、人間非中心主義について論じます。
ヒトとそれ以外の生物を差別することができないと結論します。
次に、そもそも種というものは存在するのか論じます。
種間の境界が曖昧なものであると結論します。
(しかしそうすると種間競争も曖昧なものとなり3章での主張と矛盾する)
次に、正義について論じます。
ヒトには先天的に正義(の一部)を行う性質が備わっており、そうなったのは正義(の一部)を行うことが生存競争(自然選択)に有利だからと結論しています。
次にエドワード・ウィルソンのバイオフィリア仮説を引用し「正義にしたがい、ヒトだけでなくあらゆる命を尊重しなさい。さもなければ、あなた自身が生き残れないかもしれませんよ」と結論します。
本書ではどうやらそれが最終結論のようです。
ここからが感想です。
本書に書かれていることは次の3段論法であるように見えました。
1.科学的に生物の命を守ることは正義である
2.科学的に正義を行うことは人間の生存にとって有利である
3.生物多様性を保全すること(正義を行うこと)は科学的に正しい
それから序章で否定しなかった答案「ある種が滅ぶと巡り巡って人間の生存が脅かされる可能性がある」について。
これは本書の最終結論とほぼ同じです。
だから否定されなかったのかもしれません。
答えは最初にあったのです。
それから本書を読んで気になったこと。
まず1つめ。
第5章の主題である「人間非中心主義」について。
人間以上の存在が現れて人類を裁こうとしたときに、どう言い逃れるかを考えているように見えました。
いかに考えたとして、それは所詮人間の論理です。
彼は彼の論理で人類を裁くでしょう。
そして2つめ。
人間が他の生物を食料にしたり、駆除したりすること、病原体やそれを媒介する生物を地域絶滅させたり、野生絶滅させたりしてきたことに対する考察を本書の外部に任せています。
この部分、食い足りない印象を受けました。
そして3つめ。
正義を行うことが遺伝し、生存競争に有利に働くこと。
それが事実だとしても、これは社会ダーウィニズムにつながりかねない危険な考えに思えました。
社会には不正義を行う人や正義を行わない人もいて、それらの人こそ福祉の対象になったります。
淘汰される存在ではないのです。
これで感想は終わりです。
全部お読みいただいた方、ありがとうございました。
※この記事は2020年7月5日に Twitter に投稿したつぶやきに加筆修正して再構成したものです。
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