ゆきんこの萌え絵日記

「王都妖奇譚」の二次創作ブログです。
小説、漫画は最新記事が下がります、済みませんがスクロールお願いします(^^。。)

王都SS6「真綿の雪」3

2010-11-30 | 王都SS6「真綿の雪」

「果南~、た、助けてっ」
「ま、将之様」


ぐらりと木の枝共々将之の身体が傾く。

「きゃあ!将之様!」

思わず果南が叫ぶ。


いつもの様に二人は薬蕩の材料探しに赴いていた。
将之は斜面の上の方に生えている実が欲しく、それを取ろうと其処らの木や枝を頼りに斜面を登った。
果南は下の方ではらはらしながら見ていたが小さな将之は意外にも器用にゆるい地の斜面を登り木の実を手にする。
しかし、それを取ったまでは良いが捕まっていた木が地盤から半分抜け落ち将之はその木に捕まったまま斜面の横の道の上の方に宙ぶらりんの状態となったのだ。
飛び降りるにも子供には大分高く年若い果南が背を伸ばしてもまるで届かない。
半分抜けた根っこは将之の重みも手伝ってきしきしと今にも総て抜け落ちてしまいそうだった。


「果南~」
「将之様っっ」


せっせと手を伸ばす果南の方へ杜の道の下の方から何やら声を掛けながら一人の男がやって来る。
男は京の武人の姿をしていた。

「将之様、果南どの」

体格の良い男はにこりと笑うと二人の名を呼んだ。


「高守(たかもり)!」「高守様!」

将之と果南はその男の名を呼び彼の方を見た、高守と呼ばれた男はすぐさま将之の側に行くと彼の下方、足もとの方から手を伸ばし彼を抱きとめる体勢をとった、背の高い男には充分手の届く距離だった。

「将之様」


此方へ、と大きな両の手を広げ、にっこり笑う高守に将之はむっつりとした表情で返した。
ばたばた暴れたせいか草履も脱げ落ちている。

将之は高守が嫌いだった。


「将之様、こちらへ・・・あ!」

高守の伸ばした手を将之は膝で払った、そして憮然と云い放つ。


「一人で降りる!あっちへ行ってろ!」

将之の云い様を高守は笑って受け止めた。

「何をおっしゃる。この高さで降りて何かありましたら一大事です」
「うるさいな」

「将之様の一大事は私の一大事。さあ、お手を・・・」


将之の反抗心を全く意に介せずにこにこと手を伸ばす高守に嫌気が差して将之は木から細い枝の方へ移り彼を避けた。
ぼきりと捕まっていた枝が折れる。
「-!!」


「きゃあぁあぁ!!」

果南が叫ぶ中どさりと高守が小さな将之を受け止めた、高守は両の腕に彼を抱えすっと立ったままにこりと微笑んだ。
将之は何も云い返さない。

「危ないですよ、将之様」
「・・・・・・」


高守が彼を降ろすと将之は本当なら自分一人でも降りられたと、礼は云わんとばかりに数歩先に進んだ。
高守は苦笑しつつ彼の小さな背を見送る、果南は高守の後ろから彼に声を掛けた。

「あ、有難う御座います、高守様」
ぺこぺこと何度も頭を下げる。

「いやいや、間に合って良かった、あはは」


若君を探していたら此方の方から何やら声がしたものでね~と高守は果南に話した。

「若君に何かあれば私の一大事ですよ~」

とにこにこ笑って云う高守を果南は薄く微笑んで返した。





その夜、いつもは静かな高雄の別宅は賑わっていた。
高守が京の手土産を両手に高雄に来た日にはこの別宅の女房、こま使い、それらの者が総てが彼を喜んで迎え入れたのだ。

高守は京の武人で右大臣、将之の父の側の者だった。
彼は身分も高く藤原の荘園の管理の手伝いもしていて時折高雄の方の園の管理と此方に身を寄せている将之達の様子を報告するのが彼の務めだった。


愛する妻と子の報告に遣わされていたのだからこの男は右大臣から特に信用されていたのだろう。

そして彼は明るい気質で誰彼差なく都の土産話を話して聞かせた。

京から奥まった高雄は普段とても寂しくひっそりとしていたので皆この高守の土産と、土産話を心から喜んだのだった。




将之は高守が嫌いだった。
この別宅では皆が皆、高守を好きで面白くない。

この中で一番偉いのは自分のはずなのに、と将之は普段はあまり思わない身分の差にも思わず執着してみせる。



―俺もきっと大人になれば背も伸びて・・・


―身体も丈夫になって・・・


―・・・





「将之様が眠ってしまいましたわ」

一人の女房の声に高守は側に近づき彼を抱き上げた。

「今日は疲れたのでしょう」

彼は将之を寝所の方へ運んだ。



少しずつ紅葉していた高雄の山々。


その夜から将之は又高い熱を出し始めた。




続く。














新作

2010-11-26 | Weblog
岩崎先生の新作が出ていましたねv

ヒロインが美人さんと可愛い感じの女の子が混ざっていてとても可愛かったですv
スタイルも抜群v

定期的に新作が拝見出来てとても嬉しい。

お話の感想とかはネタばれになってしまうので控えますが・・・
毎回の作品の作画の丁寧さには驚きます、本当に凄いと思います。
あの線がはっきり出ているペンタッチも大好きです。
首の下の影とかも線がとても綺麗~。
いつも惚れぼれと眺めてしまいます。


今後も又どんなのを拝見出来るのか楽しみです!(^^)

王都SS6「真綿の雪」2

2010-11-21 | 王都SS6「真綿の雪」
くつくつと竈から異様な匂いが立ち込めた。

小さな童が近づこうとするのを若い女房が止め彼女が大きな鉄鍋の木のふたを開けその中身を小さな椀に少し注ぐ。
どろりとした緑色の液体の様なお汁。
彼がじっと見ているのを見返した後ほんのちょっと匙で飲んでみた。

「・・・」
「どう果南?」


若い女房が複雑な表情のまま返答しないので男の子は彼女の椀をさっと取り椀ごと飲み干した。途端、頭を振る。

「わ~、不味い!!」

飲めたもんじゃないと彼は両の手で口元を押さえた、だが吐きだしてしまえば折角の二人の苦労が泡となる。
果南と二人して一生懸命掻き集めて作った始めての薬蕩なのだ。
涙目のまま無理に呑み込もうとするのを果南は横目で見て戸惑った。
この薬蕩が本当に効き目があるのかさえも分からない、それをこんなに無理をしてまで飲もうとする姿に心を痛めた。


「将之様、無理に・・・」

ごくり、と将之は口中に溜めていた薬蕩を飲み干した、語り掛けた果南に振り返る。

「ん?何?」
「あ、いえ・・・」

自分でさえ不味いというか、苦いというか、何とも言えない味で飲みにくかったのを小さな彼が残りを全部飲み干したので少し驚いたのだ、だがその驚きに少しの嬉しさを感じて果南は微笑んだ。

「・・・効き目があると良いですね・・・」
「まあ、何?この匂いは!?」
「千華」


匂いに驚いたと同時に将之と果南が竈のすぐ側に居るのに年のいった女房は更に驚く。
将之は身体の弱い若君なのだ、そもそもこのような場に近づく者でもない、千華は果南に少し窘めた後将之を連れ去ろうとした。
申し訳ありませんと詫びる果南に将之は手を伸ばす。

「ごめん、千華。俺が火を使いたいって無理に果南に頼んだんだ、果南を怒らないであげて」
「・・・若君」

将之を小脇に抱えて二人のしょんぼりした姿に千華はやれやれとため息をつく。
果南はこの高雄の麓の村娘だが藤原家にほんの少しの縁があり又父と母を病で相次いで失くし行く先が無かったのを見かねてこの館の当主が恩情で女房として迎えたのだ。
果南はまだ16だった。
彼女はまだ幼い部分を残し例えば他の女房が事故を恐れて止めてしまう事を果南は何となく許してしまう所があった。
無論、彼女が彼を許してしまうのは彼のやりたい様にやらせてあげたいという彼女の気持ちがあったからなのだが・・・。

それ故将之も果南が相手なら多少の我儘も通ると果南を要望する。
周りから見れば年が近い、若い女房の方が小さな子とは上手くゆくのだと見えた。
将之が産まれた時から、いや将之が産まれる以前より藤原家に仕え母子共に見守って来た千華からすれば将之が慕っている果南を
彼の側に置くのは致し方ない事でもあった。

何も云わない千華に将之は不安そうに見返す。

「千華?」
「・・・分かりました。もういいでしょう。唯、今度から火を使うときは私に声を掛けて下さいね。」

気が気ではありませんから、と微笑むのに将之も笑って返す。

正面で目の合う果南にも薄く笑ってやると果南は安心したかの様に微笑む、彼女もまだ大人にはなりきれていないのだ。



それに若君はつい最近母親を失ったばかりである。
彼の拠り所は今は一つも外せない。
千華は竈の奥の方から吹く初秋の風を感じながら思った。


長老の許しも得たとばかりに将之と果南はそれからも一層薬草探しに励んだ。
果南も将之と同じ位に薬蕩を飲める様になり、彼が飲む前には必ず毒見とは云わない味見をした。


果南は目を見張る美人では無かったがほっそりとして若くて優しかった。
将之は相変わらず手は繋がなかったが果南が側に居ると嬉しかった。
彼女が一緒に居てくれると何故か安心して心が安らぐのだ。

「果南」
「はい?」

名を語り掛ける、女は返答する。当たり前の風景。
それ以上何も云わない将之に果南は不思議そうに問い返すと将之は何でもないと照れた様に笑った。

たたたっと走り去るのを果南も薄く微笑んで見遣る。




そんな日々が続いたある日―


がらがらがらっ!-

「わぁ!!!!」
「将之様!!」



杜の中で薬草を取ろうと小さな山の斜面に少し登ったまでは良いが足元の地面が思った以上に脆く手を掛けた木の根が半分抜け落ち将之はぶらんと横になぎ倒された木に捕まったまま宙ぶらりんの状態となった。
高さは男性の大人一人分位ではあるが小さな将之には高い。
果南は必死で手を伸ばすが届かない。
怖い。


「果南!!」

ぶらぶらと釣り下がっている将之に必死で手を伸ばすが果南の背では到底届かなかった。


「ま、将之様っ!!ど、どうしたら・・・」
「果南~助けて~」

果南は蒼褪めて木にぶら下がっている将之に必死で手を伸ばし続けた。


続く。



今日、京都、神護寺に行ってきましたv
紅葉綺麗でしたv

王都SS6「真綿の雪」1

2010-11-05 | 王都SS6「真綿の雪」
ひゅううううううっ、・・・ひゅううう。


「・・・」


ひゅううううっ。

こつっ、・・・こつっ。




「・・・・・・」



夜風が木戸を、格子の戸を打つ。
こつっ、こつっ、と音が数度続いて男の小さな童は寝所からむくりと起き上った。
側の者を起こさない様にそろり、そろりと木戸に近づいて行く。
そーっと手を伸ばしてかたかたっと戸を開けるとその先には真っ暗な闇が拡がっていた。

「・・・」

期待していた人影は無い、唯何もかもを呑み込む様な真っ暗な真っ暗な漆黒の闇が目の前にあるだけだった。
じっと目を凝らしても何もない、吸い込まれて行きそうだ。



「将之様!」
「-!?」



辺りの風が変わったのを感じて一人の若い女房が側近く寄って来た。


「果南(かなん)」


名を呼ばれた女は忙しく戸を閉めてしまうと小さな男童の身体が冷えていないかと気が気でない様にくるくるっと彼を自身の衣で包んでしまうと室内の奥の方へ彼を引き連れ戻った。

「こんな真夜中に戸を開けてはなりません、風邪をお召します」
「・・・・・・」


心配する女房の云い様を小さな男の子は黙って聞いていた。
だが、不服そうに小さく漏らす。

「・・・だって」
「?」


戸を叩く音がしたから・・・
戸を叩く音がしたから・・・誰か来たのかも知れないと思ったよ。

―――母上かも知れないと思ったんだ。








それが違うのを男童は充分に判っていた、だが彼は、・・・音がしたから木戸を開けたのだ。









冬の初め頃、高雄―



「将之様!」
「果南、今日はあっちの方へ行くよ!」


ばたばたっと走り去ろうとする男の子の手を捕まえ一緒に歩こうとすると男童は一瞬立ち止まってにやりと笑うとその手を振り払った。

「将之様?」
「男はね女とは手を繋いでなんか歩かない!」
「・・・」


ふんと勇ましく踵を返し歩み行く背を見送りながら年若い女房はくすりと笑った。
小さい形(なり)にしては威勢だけは良い、それが傍から見て面白可笑しく又少し滑稽にも見えた、だが彼が幼いながらこうして気勢を張っていないと生きてはいけない事を女はよく知っていた。

幼い童は都からの大切な預かり者なのだ。
絢爛豪華な内裏の中で右大臣を務める男の愛息子なのだ、しかも威勢が良いのは性質だけで身体は病弱、最近母を亡くしたばかりでもある。

果南は将之の後ろをゆっくり、だが確実について行った、将之はずいずいと先を進む、杜の中に進むのにさすがに果南も咎めた。

「将之様、そんな遠くへ行ってはお身体に障ります」
「ほら、この木の根の実を見て」


え?と女は立ち止まる、将之は大きな樹木の根に屈みこむとその周辺に生えてある赤い実を小さな手に掴んで見せた。
そしてがさがさと袂から小さな紙切れを出し拡げてみせる、それには何やら図解した絵やら字が書いてあった。
紙と実を照らし合わせて将之は果南に聞いて来る。


「これってさ、この絵の実で合ってるかなぁ?この実、薬効があるそうなんだ」


あどけない表情で返されて果南は戸惑いと驚きを隠せなかった、まるで美味しい食べ物でも見つけたかの様に将之は尋ねて来る。

小さな身でありながら自身の事をちゃんと把握してそれに真っ向から立ち向かってゆく、その姿に果南の心の奥がじんわりと熱くなった、すぐさま自分も屈みこみ将之の持つ紙と実を必死で見比べてみる。
だが子供描いた丸い実の絵と本物の薬効のある実かどうかはさすがに判断するには困難だった。

「・・・将之様、私も調べてみます、取り敢えずは今日これを持って帰りましょう!」

果南がにこりとして云うのに将之も気を良くした。

「うん!」






病弱だった若君が同じ病弱な母を失ったのが秋の頃。
母の死により頑張って生きながらえようと誓った彼は自身で身体を鍛えたり薬草を集めたりしだした。
それを周りの者が健気と取ったのか不憫と取ったのかは定かではないが彼は野山を木々や実を拾い集めている間、毎日散策する中確かに少しずつ丈夫になって行ったのだった。




続く。





将之の初恋捏造物語(笑)
と、いうか将之の初恋ってどんなだろう?
状況的に考えて高雄で年上の女房あたりだよねvと思いつき書いてみました。(初恋無いとか無いよね・・・^^。。。)
今までのSSの中で一番捏造度、勝手に解釈度が高く苦手な方もいらっしゃるかも~ーー。。

短いお話なのでまあこんな角度もありかと見て頂ければ幸いです、汗、汗。






普通

2010-11-02 | 王都
普通、というお話。

王都のお話を考えていて晴明様って呪詛を返したら相手の術師は死んでしまうんですよね。
無論、失敗して自分に返って来たら自分の命が危ない訳で・・・
それは使役していた式神からの報復で呪詛合戦をした時点でどちらかが死に到る(しかも呪詛されている相手は又別物、こちらも危ない)、一見お話として使うとドラマチック(?)ですが、よく考えると辛いものです。

それ以外にも色々あるでしょうからやはり晴明様の陰陽師の重みというのは計り知れないなと思います。
唯、それゆえ王都の将之君の支えは凄く彼の達観した物の見方、励ましにより晴明様は何とか日々を過ごしているようなのですが
ここで将之君がもう少し普通の若者だったら・・・

へたれでは無く普通に強くて優しくて良い若者なのです。
ごく普通、ごく普通の若者将之と晴明様が出会って知り合ってゆく過程を想像したらむらむらと萌えまする(笑)


晴明様は影連と決別した後、将之と知り合います。
顔には出さないけど寂しかった晴明はするするっと彼に惹かれ友愛を育みます。

枕を共にするほどすっかり仲が良くなった二人ですが晴明様の色んなしがらみを横目で見ていて
普通の若者の将之にはこの先彼と付き合って行くのに一抹の不安を感じます。


その不安を彼以上に晴明様は感じます。
普通将之は普通に優しくて普通なのですが勧められたお見合いに流されて行きます。


晴明も仕方ないなと思いながら苛立ちや不安を隠せません、しょうがないなと思って将之を手離すか、又は今更離してなるものかとなります。

離れて行く相手を追い掛けて追い掛けられた相手は更に恐れを増しそれは悲劇を招きます。

好きだった相手がもう今は自分を好きでは無くその存在が重荷なのです、それは辛い~

さてその次はどうなるか・・・と考えつつ(楽しい~vvv)




しかしそこまで考えて支えたろうという心は何も強くなくとも権力なくとも腕力なくとも普通であって成り得るものだなと思いました。
凡人だから晴明を手離すかどうかは別問題、その彼の心次第ですよね。
弱くとも何も出来なくとも(仕事しないとかまでいくと別物だが)好きになった人の支えと成りたければ、心を添わせれば、相手がそれを必要として受け入れてくれれば充分良いのだと・・・v(話が逸れた、笑)


でも普通って凄いと思うんです。
普通に仕事をして家族(身内、自分にとって大切な人)を大事に出来たらそれ以上の善行も悪さもなくてよい。と
でもってこれに趣味の一つもあればほんとう良いなと。
まあ、こう思えるのは私の視野があまり広く無く考えも甘いのかも知れませんが。




王都は二人の信頼関係が見ていて微笑ましくもあり羨ましくもありますねv
将之の包容力には惚れぼれしますv
彼が普通でない(普通でないといえば語弊があるが、常軌を逸した包容力という意味、笑)所が又見どころですよね。

でも人間そう強くも居られませんしつい過去を振り返ってしまう影連に共感する方も居るでしょうし・・・
と、まあこう色々考えるのは楽しいです(^^。。)