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たゆたふ 弐

花より/男子&有閑倶楽部の二次小説置場です。Yahoo!ブログ「たゆたふ」から引っ越してきました。

恋恋の情――5

2019-03-17 09:02:45 | 恋恋の情(A×T)

年明け早々、専務取締役に就任した美作あきらと、その第一秘書である牧野つくしは、


プロジェクトチームを引き連れ、花沢物産に赴いた。





美作商事に入社して初めて、花沢物産に足を踏み入れたつくしの顔は、若干青ざめていた。







「牧野、私情を挟むなよ!?いいな?」



「あ・・・はい」



「お前は俺の秘書として来てる。それを忘れるな」



「畏まりました」







ポンポンと肩を叩かれたつくしは、あきらの心遣いに感謝した。







家族を失い、司とも別れた自分を快く思っていない花沢の陣地は、いわば敵地も同然だ。

いくら仕事とはいえ自分が花沢物産に顔を出す事を、類の父親はよくは思わないだろう。





そんな事を考えていたら、誰にも聞こえないくらい小さい声で、あきらがボソリと呟いた。







「このプロジェクトに類・・花沢専務は参加しないはずだ」



「左様ですか」



「花沢社長に、牧野も参加すると伝えてあるからな。わざわざ火に油を注ぐ真似はしないだろう」







つくしに恋心を抱いている類を、類の父親は長年海外に赴任させていた。

なるべく、つくしと接触させないように。





だが、あきらが日本に戻ってきたのを機に、類まで日本に戻ってきた。

しかも、専務という肩書を持って。





その辺りの花沢社長の意図が分からないが、特に深い意味はないだろうと楽観視していた。







「さ、気を引き締めていくぞ!?」



「はい」







あきらからプレゼントされた指輪を、右手でそっと撫でたつくしは、あきらに続いて会議室の中に入った。



するとそこには、







「今回のプロジェクトに参加させてもらいます、花沢物産専務の花沢類です」







あきらに名刺を差し出しながら自己紹介する、花沢類の姿があった。







これには、流石のあきらも驚愕した。



花沢物産サイドからは、今回のプロジェクトに類は参加しないと言われていたのだから。





それが何故、突然参加する事になったのか!?



だが、あきらもつくしも心の動揺を噯気(おくび)にも出さなかった。







「挨拶が遅れました。美作商事専務取締役の美作あきらです。どうぞ宜しくお願いします」



「・・・そちらは?」







名刺を受け取りつつ、目敏くつくしを見つけ凝視する類に、あきらの顔から笑みが消えた。







「私の秘書を務めております、牧野つくしです。今度のプロジェクトにも参加致します」



「・・・秘書?あきら・・・美作専務の?」



「ええ。牧野、花沢専務にご挨拶を」







自分の背に隠れるように立っていたつくしに目配せしたあきらは、類に挨拶するよう指示した。





必ず迎えに行くから待ってて・・・そう自分に言ってくれた類に、辛辣な言葉をぶつけたつくしは、

彼の目が怖かった。







もう何年も前の出来事ではあるが、彼はまだ、その時の事を恨んでいるのだろうか!?



深呼吸したつくしは、意を決して類の前に姿を現し、深くお辞儀をしながら挨拶をした。







「美作商事専務取締役の第一秘書を務めております、牧野つくしです。宜しくお願い致します」



「・・・・・」







挨拶をするも、類からの挨拶はない。



もしかして無視されたのだろうか!?





そう危惧したつくしは、頭を上げ類の様子を窺ったのだが、彼の目線は彼女の薬指に集中していた。







「・・・・それ、婚約指輪?」



「あ・・はい・・・」



「誰?あきら?それとも違うヤツ?」



「花沢専務、仕事の席でプライベートの話は遠慮願えませんか?さ、会議を始めましょう」







涼しげな顔をしてその場を収めたあきらは、すぐ資料の用意をするよう、つくしに目配せした。





あきらのちょっとした動き、仕草で全てを悟り把握するつくしの姿を、類は憎悪を籠めた

目で見据えていた。







まだ、あきらの秘書になってから数日しか経っていないというのに、まるで何年も一緒に仕事を

してきたかのような二人の動き。







それは正に、阿吽(あうん)の呼吸と呼ぶに等しい動きだ。





そんな二人の様子に、類は苛立ちを隠せないまま会議に臨んだ。

鬼神の心を隠したまま・・・・。



※この話は、2011/4/24にヤフーブログでアップしたものです。