オープンクラウドとは?
クラウドコンピューティング(以下、クラウド)の普及に伴い「オープンクラウド」というキーワードが注目されている。 まずは、オープンクラウドが注目されている歴史的背景から解説する。2009年3月30日に「オープンクラウド?マニフェスト(The Open Cloud Manifesto)」がウェブで公開された。発表後、IBM、Sun Microsystems、VMware、Cisco、EMC、SAP、AMD、Elastra、Akamai、Novell、Rackspace、RightScale、GoGridなど、数十企業が参加を支持している。
オープンクラウド?マニフェストには、顧客が持つ4つの目標と、クラウドプロバイダーが順守すべき6つの原則が示されている。
●顧客が持つ4つの目標
選択性:組織は、さまざまベンダーの中から自由に選択できることとする
柔軟性:組織は、異なるクラウドを使用している場合でも協力が可能であることとする
スピードとアジリティー:組織は、官民のクラウドを統合するソリューションを容易に作成できることとする
スキル:組織は、その能力を特定のクラウドに依存しないユーザーにアクセスできることとする
●クラウドプロバイダーが順守すべき6つの基本原則
サービスにあたってはオープンスタンダードに準拠する
市場での地位を利用し独自プラットフォームに縛り付けない
標準規格を使用する
新たな規格の作成や変更には注意を払う
顧客ニーズを重視する
クラウドコンピューティング団体やコミュニティーは協調を図る
オープンクラウド?マニフェストには、基本原則は、クラウドはほかのIT技術と同様にオープンであるべきだという信念に基づくもので、クラウドコンピューティング?コミュニティーのメンバーがオープンなクラウドという考え方の下に結集し、ビジネスを展開していくことの必要性が表現されている。
オープンクラウドの実現に向けたアプローチ
昨今、オープンソースベースのクラウド技術を採用したクラウドサービスやソリューションなどが多く登場している。以下、オープンクラウド実現のための5つの要素をまとめてみた。
オープンAPIを実装していること
オープンソースベースのクラウド基盤やプラットフォーム環境が開発コミュニティーにより共同で開発されていること
オープンソースプロジェクトの豊富な運用経験を持つ組織や団体、人材に支援されていること
ユーザーは、ユーザー自身のアプリケーションやデータを複数のオープンなクラウド環境で利用できること
複数の事業者がサービスをアドオンできるオープンで全体の最適化が図られるアーキテクチャーと運用環境であること
オープンクラウドの台頭の背景
クラウド分野では関連技術が多岐にわたり、それぞれが異なる技術を採用しビジネスを展開している。そのため、ベンダーロックインの弊害など、ユーザーの利便性を損なうケースも出てきている。
こういった背景を受け、ITU-T、IEEEなどによるデジュール?フォーラム標準、DMTF(Distributed Management Task Force:IT管理の標準化を推進する業界団体)やSNIA(Storage Networking Industry Association:ストレージネットワーキングの発展を目的とした業界団体)などによるクラウドのデジュール標準やデファクト標準の動きが進んでいる。
こういった標準化による徹底した情報の開示や業界標準アーキテクチャーの普及推進は、ロックインに対するユーザー企業の懸念を緩和し、各事業者の競争力強化に有効であり、業界への発展へつながることが期待されている。
一方、AWS (Amazon Web Services)などのクラウドネイティブ企業はこれらの活動には参加せず、独自APIを展開しクラウドビジネスを展開している。規模の経済(スケールメリット)を生かし、革新的なサービスの提供により、ロックインの懸念を上回る圧倒的な優位性を確保し、IaaS市場においては、実質のデファクト化が進んでいる。クラウド事業者やサードパーティーの多くは、AWS互換APIや管理レイヤーでマルチクラウドに対応するサービスやソリューションを提供することで、Amazonとの共存を模索している。
そして、近年急速に普及しているのが、OpenStackやCloudStackなどに代表されるオープンソースベースのクラウド基盤ソフトウェアの台頭である。このオープンソースの動きは、IaaS、PaaS、ネットワーク、データセンターと、レイヤー横断で進み、オープンクラウドの動きを加速させている。
オープンクラウドを構成するソフトウェア/プロジェクト
オープンソースベースのクラウド関連技術は、IaaSでは、オープンソースのクラウド基盤ソフトウェアがある。OpenStackやCloudStackなど、サーバ、ストレージ、ネットワークなどを統合的に管理し、ユーザーの要求に応じてオンデマンドで指定されたスペックの仮想マシンやストレージ領域を提供するなどのセルフポータルサービス機能を提供する。CMS(クラウドマネジメントシステム)やクラウドOSとも呼ばれている。
PaaSでは、Cloud FoundryやOpenShiftなど、IaaSレイヤーとは独立して機能し、JavaやRuby、Pythonなど複数の開発言語に対応し、オープン標準に準じた開発フレームワークをサポートするオープンソースのPaaS基盤ソフトウェアが、この1、2年で台頭している。
ネットワークレイヤでは、ネットワークの構成や機能の設定をソフトウェアによってプログラマブルに行える仕組みのSDN(Software Defined Networking)とSDNを実現する標準技術のOpenFlowが注目されている。
データセンターでは、フェイスブックが中心となってデータセンターとサーバデザインの公開など、高効率データセンター構築の推進する「Open Compute Project」がある。
オープンソースベースのクラウド関連技術は、世界中の開発者が参加する開発コミュニティーがノウハウを共有することにより、既存の商用ソフトでは難しい機能を実現する場合もある。
また、不具合が発生した場合や機能拡張においても、開発コミュニティーや、周辺機能を開発するサードパーティーにより、対応が急速に進み、品質やインターフェースなどの使い勝手が、短期間で向上する場合が多い。
また、システムの構築から運用保守まで、事業者やユーザー企業のオープンソースの活用を支援するソリューションやサポートサービスも充実してきており、機能や品質、使い勝手、サポートの面で商用ソフトと垣根はなくなってきている。
オープンクラウド推進に向けた動き
オープンソースベースのクラウド基盤ソフトウェアでは、OpenStackはRackspace、CloudStackはCitrix、Cloud FoundryはVMware、OpenShiftはRedHatといったように、それぞれ大手事業者がその事業を強力に支援している。
また、開発コミュニティーだけでなくOpenStack FoundationやOpen Networking Foundation(ONF)といったように、中立性の高い非営利団体を設立し、ガバナンスを働かせるとともに、技術や財務などの支援を行うことで商用化を推進する動きもあり、エンタープライズ分野への採用も始まりつつある。
国内においても、クラウドの普及促進に向けた活動を目的とする一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA:Cloud Utilization Promotion Agency)は、日本CloudStackユーザー会、日本Eucalyptusユーザー会など、オープンソースを始めとしたクラウド関連技術のユーザー会や研究会を設け、開発者を中心にクラウド技術や利用についての普及、啓蒙活動が行われている。
団体や大学、企業が連携する取り組みも始まっている。一般社団法人クラウド利用促進機構、オープンクラウドキャンパス、クラウド?ビジネス?アライアンス、北海道大学情報基盤センター、NTTコミュニケーションズ株式会社など5団体は2012年2月3日、オープンソースベースのクラウド基盤技術の普及?利活用の促進を図る「オープンクラウド実証実験タスクフォース」の設立を発表した。
クラウドを構成するシステム基盤向けに、OpenStack、CloudStack、OpenFlow、Cloud Foundryなど数多くのオープンソース実装が公開されており、本タスクフォースはこうした複数のオープンソース実装の相互運用実験を進め、構築?運用ノウハウを業界全体で共有するとともに、より質の高いクラウドサービスの提供を目指している。
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次回は、パブリッククラウドを取り巻く現状とオープンクラウドの位置づけについて解説する。
林 雅之[著]
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