ツアコン コボレ話 その４６ 忘れられないバスガイドさん

あれは　俺が生まれて始めて添乗をした時でしたか・・・。
翌春に入社する会社から内定を貰い　学校の夏休みを利用しての帰省中、その会社の研修の一環として参加した１泊２日のツアーでした。
俺は始めての添乗業務に　何をしていいやら判らず、バスに乗っても　ドタバタ。挨拶もロクに出来ず・・・・。

そんな時でした。「このツアコン　挨拶もロクにできないなんて最低」とバスガイドがポロリと言ったのを耳にしました。
さすがに　お客さんの前ではそういう態度は出さないのですが、お客さんのいない所では　ボロカスに言われ、アゴで使われ・・・。最悪の１日。
その日の夜、俺は　悔しさで目に涙をためながら　　別のバスに乗っていた先輩ツアコンに　俺のバスの中で起こっている一部始終を話したのでした。
先輩ツアコンは「そのガイド今から締め上げてやるから　呼んでこい！」なんて　激怒。
しかし、俺はそれでは自分自身で気が済まないということで　先輩から　バスガイドになめられない為のスピーチ・行動等のレクチャーを受けた後、徹夜でその教えられた　スピーチ等の練習をしたのでした。

翌日。バスに乗ると　まずバスガイドからマイクを取り上げ　完璧にスピーチ。その時の　バスガイドのびっくりした顔ときたら　もうおかしくて・・・・。ハトが豆を食ったような顔というか・・・（笑）
その後の　行程では　俺が先輩から教わったとおりに　お客さんを引率しなんとか無事に旅行は終了しました。

その１年後。あるツアーで　またその時のバスガイドさんと一緒になったのでした。
俺もガイドさんも　一目で「あの時の・・・」って判ったようで　お客さんが降りた後のバスの中では終始　思い出話に・・・。
俺の初めての添乗で　ボロカスに言われて悔しかった・・なんて話していると、なんと　あの「このツアコン最低」って言葉。どうも何もかもが計算済みで　俺に聞こえるように言っていたようで・・・・・。
ガイドさん曰く　
「最近のツアコンは　憧れの職業とかで（俺らの頃は花形の職業でした）希望者が多いけど皆　アルバイト感覚。ただバスに座って点呼するだけで　いいと思っている人が多すぎる。添乗員の善し悪しで　そのツアーのお客さんが楽しめるか　楽しめないかが決まる。それが判っていない人が多い。だからこれから旅行という仕事をしてゆく以上は　本当の意味でプロになってほしくて・・・・。あの「ツアコン最低」の言葉で腐るのなら　そこまでの人間だしね」
と。
俺も　よくよく思えば　ガイドさんに　ああいう風に言われなければ　ただバスに座っているだけのツアコンになっていた可能性が高い訳だし・・・。
あの時の　あの言葉を聞かなければ　ずっと半人前のツアコンだった・・・。
ほんと　そう考えると　このバスガイドさんには育てられました。

その後　ことあるツアーのごとに　そのバスガイドさんを指名し、いろいろと教えてもらいながら　ある意味コンビのように連れだってました。
そのガイドさんとは　何十回とツアーに行ったのですが、だんだんと一緒に仕事してゆくうちに気心もあい、時には　２人でネタを摺り合わせ　お客さんの乗っているバスの中で漫才もやったりして。
俺は　もうツアコンは辞めて長いですが　あのバスガイドさんて　まだバスに乗っているのかな？？なんて今でも　時々思い出します。

今日は　ここまで。