web 更級日記

更級日記には源氏物語を入手した時の興奮ぶりが書かれているのに因んで、好きなことに我を忘れる私の日記の題名に借用した。

映画『SAYURI』

2005-12-29 18:52:36 | ●欧米映画&TV
この映画、あまり気は進まなかったのだが、買い物の合間に時間があいたので、年内最後のレディースディのきのう見にいった。平日の午後だったせいか、新宿の繁華街の映画館にもかかわらず、空席が目立った。夜の回ならもっと混むのだろうか?

この映画、やはりきわめて問題の多い作品である。

でもその問題とする点は、通常いわれるように、ハリウッドの監督が描く日本や日本人の描写がおかしいとか、中国人の女優が芸者を演じるのが不自然だとか、芸者の髪型や着物の着付けが変だとか、そういうレベルでいいたいのではない。そういう批判は、私が一番避けたいと思っている文化本質主義につながるからだ。日本文化は日本人にしか表現できないという考えは文化本質主義である。同じく中国人にしか中国文化は理解できないと、よく中国大陸のメディアが主張するが、これもやはり文化本質主義の発想だ。

鞏俐や楊紫瓊は貫禄たっぷりに演じているし、ふたりとも私の好きな女優さんたちだが、確かにどうみても日本の芸者には見えない。でも章子怡は(舞のシーンは別として)実にはまり役だったよう思う。少女時代を演じた大後寿々花と、面差しまで似ているようにすら感じられた。「おしん」流の、困難と労苦のすえに上昇していく女性を演じさせたら、彼女の右に出るアジアの女優はいないのではないだろうか。

では何がこの映画の問題なのか?
『ニューズウィーク日本版』(12月14日号)が、「日本を誤訳するアメリカーなぜいつまでもゲイシャなのか」という特集を組んだように、なぜ、21世紀の今日にいたっても「フジヤマ、ゲイシャ」なのか、ということだ。

かつてディズニー映画が、「ムーラン」「ポカホンタス」など、エスニックなものを題材にしたアニメを次々と発表した。しかし、その結果は、民話が伝えてきた土着のエネルギー、猥雑さはそぎ落とされ、「人類の普遍性」の名のもとに、ハリウッド色でうすめられた、少し目先の変わったおとぎ話にしかならなかったのではないだろうか。

ハリウッドは自分たちの利益のためには、世界のありとあらゆる文化を食い物にしても、何の痛痒も感じない。曲解だの誤解だの俗悪だのと批判されても、商売になると見たら、節操もなく排他的に映画化権を獲得しようとする。世界のあらゆる民族誌を自分流に描くことが最大の特権のように思っているのだ。

『SAYURI』の最大の欠点は、きれいすぎることだ。確かに少女時代の千代は苦労に苦労を重ねるし、「さゆり」として一人前の芸者になったあとも芸者ならではの屈辱が待っている。しかし、その苦悩は、章子怡の熱演にもかかわらず、どこか表面的だ。遠い夢のような世界でのおとぎ話のようにふわふわとたよりない。

この映画が日本で公開されるにあたって、配給側もその辺は心配しているらしく、この作品はもとより日本をリアルに描いたものではなく、あくまでハリウッド映画として見るのが正しい、というような、一種のエクスキューズを予防線として張っているようにも思える。それにもかかわらず、この映画の記号はすべて、あやまたず「日本」を指していて、当のアメリカのジャーナリズムが、「ハリウッド流文化の誤訳」を批判し、心配しているというのに、日本にいる我々が、これは日本を描いた作品ではないのだから・・・などとものわかりよく、無批判に楽しんではいけないのではないだろうか。

「Memories of a Geisha」の世界観というのは、ひょっとしたら文学作品としては、その存在価値をもつのかもしれないが、ひとたび映像化されたら、すべては、アメリカ人が見た日本の表象に結びつく。そしてそのアメリカ(ハリウッド)が解釈し、表現してみせた「日本」を全世界の人々が受けとるのだ、ということに想像力を働かせてみるといい。

『PROMISE-無極-』

2005-12-26 18:22:40 | ●亞州影視
試写を見た。
以下述べるのは、映画の内容ではなく、言語の問題。

真田広之(そしてチャン・ドンゴン)の中国語の台詞がひどい、というコメントを某所で読んだ。けれども、「ひどい」というのは何を基準にしていうのだろうか?北京官話を話すネイティブを基準にして書いているとしたら、とんでもないことだ。

いうまでもないが、中国語は地方語が多いから、たとえば上海人の普通話や、広東語を日常語として話す人の普通話、そして台湾の北京語も、「標準」の北京語とは違う。でも、陳凱歌が求めていたのは、標準的な普通話を話すことではなかったのだろう。それだったら、真田広之も、ドンゴンも吹き替えにすれば済んだはず。

かつて『覇王別姫』でレスリー・チャンに、普通話ではなくて、地方語(それも20世紀初頭の)としての北京語のアクセントをマスターするように要求したほどの陳凱歌なのだから、言語の問題をいい加減に扱ったとは思えない。

思うに、真田広之やドンゴンの台詞が吹き替えだったら、いくら完璧な発音でも、やはり、演技の力強さが損なわれたような気がしたことだろう。それに二人の目線の演技や身体表現は、言葉の問題を補って余りある迫力だったと思う。

これから多国籍の俳優が共演するような映画では、ますます言語の問題が難しいことになるだろう。それに日本のように映画での吹き替えをあまり好まないところと、中国圏のように、吹き替えにはあまり抵抗を感じないところと、言葉をめぐる文化の違いも浮き彫りになってくるようだ。

オスカー・ワイルド

2005-12-15 15:33:35 | ●時事NEWS&トリビア
必要に迫られて、最近、オスカー・ワイルドの伝記を読んだり、全集のいくつかの作品を斜め読みしたりしている。ネットで、ワイルドに関するどういう情報が入手できるのかと試してもみた。そこで、「Oscar Wilde 最初の現代人」というサイトにであった。

このサイトのコンセプトは、文学研究とか鑑賞ではなく、オスカーに対してオマージュをささげた、いわゆるファンサイトなのである。管理人の方はオスカーの作品よりも、彼の生涯のほうに遥かに関心を寄せているようだ。ワイルドの伝記的事柄を少しでも知っている人ならば、そういう姿勢にも深く頷いてしまうに違いない。

ワイルドを形容するごく一般的なキイワードといったら、芸術至上主義、耽美的、ダンディズム、才気ばしった警句の数々、そして同性愛者であり、社会への反逆者といったイメージすら流布しているかもしれない。

私もかつては、よく知らぬまま、漠然とそんなイメージを抱いていたが、その一方で、子ども時代に誰でもが一度は読んだことがあるだろう「幸福な王子」や「ナイチンゲールとばらの花」といった童話を書いたのが、いったい同じ人だろうか? と思ったものである。

しかし、いくつかの文献を読んだあとでは、自分の二人の息子に語ってきかせるために童話を書いたワイルドの方が、彼の素顔に近いような気がしてくる。階級意識のきわめて強い、19世紀末のイギリスにあって、例外的ともいえるほどに正義感や平等意識が強く、ヒューマニズムにあふれた人だったように思える。そのような感性と強烈で独特な美意識が合体することによって、自らが述べたように「芸術が自然(人生)を模倣するのではなく、自然(人生)が芸術を模倣する」という生涯を送る運命になってしまう。

生前からワイルドの才能を認めていたフランスに対し、イギリスでは、この作家は長らく不当に扱われてきたといってよいようだが、1990年代になってワイルド復権、というか再評価熱が、ここでも高まったようだ。

映画の世界にもそれは如実にあらわれていて、『オスカー・ワイルド』という、そのものずばりの伝記映画が作られた。ワイルドの不誠実な恋人、アルフレッド・ダグラスに扮したジュード・ロウはまさに適役だった。『ベルベット・ゴールドマイン』でもワイルドは狂言回しとして重要な役割を担う。その二つの作品に比べれば、あまり一般には知られていないが、『A Man of No Importance』(別名:ダブリン・バスのオスカー・ワイルド) という佳作もあった。

また『理想の夫』や『真面目が肝心』などの戯曲も相次いで映画化されている。これまで、『サロメ』『ドリアン・グレイの肖像』とか『ウィンダミア夫人の扇』くらいしか映画化されていなかった方がむしろ不思議なくらいだ(私が知らないだけかもしれないが)。ああ、そういえば、『カンタヴィルの幽霊』なんていうのも映画化されてましたっけね。

映画バトン

2005-12-04 16:56:38 | ●亞州影視
fanyicho(麥照耀)さん → neuro-orion さん からバトンが回ってきました!

■今年映画館で観た映画の本数は?
 はっきりとは数えてないけど、50数本くらいでしょうか。
 3月の香港国際電影節 で10本くらい見て、東京国際映画祭では
 (わずか)11本、フィルメックス
 映画祭で4本、月平均2本として、大体の本数です。

■好きな映画のジャンルは?
 古装武侠片、サスペンス・ミステリー、イギリス歴史・文芸作品が特に好き。
 けれども、戦争・ホラー 映画以外、基本的にジャンルは問いません。

■好きな俳優さんは?
 男優:Terence Stamp、Sam Neill、Tim Robins、真田広之、張國榮、黄日華、
    張學友(歌手ですが、俳優としても好き)、霍建華
 以上が、私の歴代偶像です。

    Stephen Rea、Kenneth Branagh、David Thewlis、呉鎮宇、李亜鵬は、
    個性的な演技に惹かれています。
         
 女優 :Julie Christie、Vivien Leigh、Vanessa Redgrave、Susan Sarandon、
     宮沢りえ、林青霞、張曼玉、周迅
         
■好きな監督さんは?
 John Huston、David Lean、Luchino Visconti、黒澤明、市川崑、胡金銓、
 呉宇森、Neil Jordan、王家衛、關錦鵬、陳可辛、李安、楊徳昌

■オススメの10本は?
1「楽園の瑕」(東邪西毒) または「欲望の翼」(阿飛正伝)
2「狼 男たちの挽歌・最終章」(喋血双雄) または
 「ワイルド・ブリット」(喋血街頭)
3「悲情城市」
4「インドへの道」(A Passage to India)
5「クライング・ゲーム」(The Crying Game)または
 「マイケル・コリンズ」(Michael Collins)
6「ウェストサイド物語」(West Side Story)
7「エクスカリバー」(Excalibur)
8「ヴェニスに死す」(Morte a Venezia) 
9「七人の侍」または「生きる」
10「ザ・デッド『ダブリン市民』より」(The Dead)

  同じ監督の作品で2本有る場合は、どちらかにしました。
  順不同です・・・とても、10本には絞りきれませんが、無理やり。
 
■持っているDVD(ビデオ)の数は?
 映画のタイトルだけで200本か300本か・・・数えたことないです。
 ほかにテレビドラマ(香港の武侠ドラマシリーズがごっそり、最近は台湾ドラマ
 が増殖中)

■この監督、俳優が携わってるなら絶対観るって人は?
 Neil Jordan、王家衛(監督)
 張學友、霍建華(俳優)

■これから観たいと思っている映画は?
 「如果・愛」(陳可辛)
 「無極」(陳凱歌)
 「The White Countess」(ジェイムズ・アイボリー)
 「呉清源」(田壮壮)

■バトンは誰に廻す?
 尾形美香さん、よろしく!

■バトン後の感想
 長年、映画を見続けていると、好きな歌と同様に、題名を見るだけで、
その作品を見たときの自分の感情や、その頃の時代の空気というのが、
ありありと蘇ってくるものです。それから、映画との出会い、つまり
自分がいかなる精神状態のときにみたのか、どの年齢で見たのか、
という点も印象や評価に大きくかかわってくるものだと、改めて思いました。


映画「東京タワー」台湾で公開

2005-12-02 17:40:31 | ●亞州影視
「東京タワー」クレジット

監督・脚本:源孝志
キャスト:黒木瞳、岡田准一、松本潤、寺島しのぶ
脚本:中園ミホ
原作:江國香織(マガジンハウス刊)
音楽:溝口肇、ノラ・ジョーンズ、山下達郎、他
公式サイト http://www.tokyo-tower.jp/
上映時間:2時間6分
音響:ドルビーデジタル
2004年作品 東宝配給

この映画が12月9日より、台湾で公開されることになった、という記事を
聯合報の娯楽ニュースで読んだ。

実は、昨年この映画が日本で公開されたときには、さしたる関心はなかった。
人妻と大学生の青年との不倫、というまるで昼メロ(soap opera)みたいな紹介のされ方のために、なんとなく敬遠してしまったのだ。

しかし、「做頭」をみた友人が、これって「東京タワー」みたいね、と言っていたので、俄然、関心をもった次第(笑)。それと、「フライ、ダディ、フライ」を見て以来、演技者としての岡田准一に興味を抱いたということもある。

しかし、結局、ずっと見ないまま時間が過ぎ、先月ようやくビデオを借りてみることができた。「做頭」とは、たしかに「姐弟恋」という一点においては共通性があるが、同じなのはそれだけ。主人公の男女二人のおかれている時代も状況も、彼らの恋愛観もまるで違っている。さらに「東京タワー」の場合は、
二組の異なったカップルを対照的に描いているので、作品のニュアンスが変わってくる。

一番の違いは、「做頭」が、ヒロインの行動を道徳的には断罪しないで、彼女の心理に淡々と寄り添っていくのに対し、「東京タワー」の場合は、年上の女性に対する社会的非難、圧力、そして彼女自身の罪悪感というものが、色濃く表現されている点だろう。「東京タワー」の二組のカップルのうち、寺島しのぶの情念と、岡田准一の静謐で憂鬱なまなざしが出色。この二人だけの組み合わせで描いたら、すさまじい化学反応を起こした傑作になったかもしれない。

岡田准一は、台湾の記事でも、この演技によってアイドルから演技派俳優への道を歩みはじめた、と評価されている。彼は、私がいま、一番注目したい日本の若い俳優のひとりになりつつある。

http://stars.udn.com/star/StarsContent/Content6728/#