風の吹くまま

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★硝子の灰皿

2005-10-25 | エッセイ
母の妹である僕の叔母は、僕より15歳年上である。一度結婚したことがあるが、今は一人で暮らしている。

15歳しか離れていなかったせいか、叔母のことをずっと・・・ねーちゃん・・・と呼んでいた。叔母は歳の離れた弟のように僕を可愛がった。

今からもう20年ほど前くらいであろうか、当時既に一人であった彼女が、今の僕と同じくらいの年齢の時であったはずだ。彼女は、それ以前に暮らしていたアパートから引越しをすることになり、当時僕が住んでいた場所の近くにくることになった。

叔母がそのアパートに越してきたので、初めて訪れた時のことだ。僕は、初めてみる彼女の新しいアパートを見まわした。
・・・小さな冷蔵庫と食器棚、
・・・折りたたみのできるテーブル、
・・・それほど大きくもない洋服箪笥、
・・・シンプルなベッド、
・・・化粧台、
・・・窓には既製のカーテンがかかっていた。
収入的には、独身女性にすれば、少なくはなかったはずなのだが、2DKのアパートにある彼女の財産は、どれも質素なもだった。

「なんもないやろ?!」
と、叔母は僕に言った。
「えー、ええやん。僕もこんなとこ住みたいわあ。ええなああ・・・。」
叔母は、ただ微笑んでいた。

彼女の小さな隠れ家をひととおり見まわしたあと、出された珈琲を飲みながら、煙草が欲しくなった僕は、
「灰皿なんてないよな。ジュースの空き缶でもないかな?」
そう訊きながらも、煙草を吸わない叔母のアパートに
・・灰皿なんであるはずがないな・・・と瞬間的に思った。


しかしながら、そんな僕の憶測とは外れ、
「これ使い」
叔母は食器棚から小さな”硝子の灰皿”を僕の前に差し出した。

叔母は、煙草を吸う人ではない。
僕は・・・誰か時折、叔母を訪れる人がいるんやな・・・・と、その時感じたのであるが、
「さずが、準備ええなあ。ところで・・・・・」
と、話題を変えた。

その日以来、週末突然彼女を訪れるようなことはしなかった。また、その灰皿のことは、後日も母にも伝えずにおいた。


それから数年後、実家に滞在していた際、たまたま母と二人だけとなった時のことだ。母が、突然、ぽつりと言った。
「叔母さん、どうやら最近一人なったみたいやわ。時間あったら、時々訪ねて行ったってや。」


そんな母の言葉に、僕はただ
「ん?そうかあ」
そっけなく答えながらも・・・・あの硝子の灰皿はどこへいったのだろうか・・・とあの日のことを思い起こした。


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