マイルス・デイヴィスは、私にはとても敷居が高いミュージシャンだった。
おそらく20世紀のポピュラー音楽の世界では、最も優れた音楽的評価と業績と
影響力を残した人物。(もう一人挙げるなら迷わずフランク・ザッパ!!)
作品数があまりに多過ぎて、何から聞いて良いのか分からない、という人が
案外多くいらっしゃるのではなかろうか。
私もそんな一人だった。
でも、やっぱりマイルスは聴いておくべきアーティストだよな、と決意。
学生時代に勇気を出して、初めて購入したCDが、1986年に発表された
この『TUTU』である。
タイトルの『TUTU』とは、反アパルトヘイト運動家であり、ノーベル
平和賞受賞者である、デスモンド・ツツ主教のこと。
なにやらタイトルからして、深い思想が伺える。
実際、このアルバムはCBSレーベルから、ワーナーへ移籍した最初の
レコーディング作品であり、マイルス・デイヴィスの評論で有名な
音楽評論家の中山康樹氏も、その著書『マイルスを聴け』の中で、
こう書き表している。
『晩年のマイルスがレコードを作るということに一番燃えて取り組んだのが、
この「TUTU」である。』
なるほど。そうですか。チカラ入ってるって、事ですね。
プロデュースが、大物トミー・リピューマ&マーカス・ミラーで一曲だけだが、
ジョージ・デュークも参加。
リピューマ先生と言えば、ジョージ・ベンソンの大名盤『ブリージン』で有名
なのだが、この時のマイルスはその売れセンを狙ったのか?!
(余談ながら後年、リピューマがベンソンのアルバムを再度プロデュースした
際、この『TUTU』の様なサウンドメイキングを流用していた。)
アルバム制作の経緯についても、中山氏の著書に詳しく書かれている。
最初、マイルスとリピューマは曲探しから始めたらしい。で、選んだのが
6曲目に収録の『Perfect Way』(オリジナルはスクリッティ・ポリッティ。)
それと同時にジョージ・デューク(ザッパの弟子だ!!)に、デモ・テープを依頼。
私が思うに、ここがポイント。
まず、ジョージ・デューク・・・なのである。
マイルス&リピューマの大物コンビがまず最初に頼った人物、ということは、
当然業界内での評価も高く、才能もあって、仕事にハズレの無い人物、という
条件を満たす人であると言える。
ジョージ・デューク、やはりただのおデブさんぢゃなかった。
いや、実際このオヤジ、なかなかの才人である。詳しくは別の機会にゆずるが
とにかく私は好きなミュージシャンだ。
で、出来上がった曲が5曲目の『Backyard Ritual』であった。
この曲を聴いて、マイルスとリピューマはアルバムの方向性を決めた模様。
するとかつての弟子のマーカス・ミラーからも『自分もお手伝いしたい』との
連絡が入る。そこでマーカスにもデモテープの発注をした。
しかし、マーカスの作ったデモはアルバムの方向性に合わなかったらしく、
リピューマが参考までにと、ジョージ・デュークのデモを聴かせたらしい。
ここらへんがプロの凄い所だとつくづく思うんだけど、マーカス君はすぐに
マイルスとリピューマの意図を理解して、デモを手直しして再度二人に聴かせ、
OKを貰ったようだ。
そして結局は作曲とサウンドメイキングを全てマーカス・ミラーに任せて、完成
したのが、このアルバムなのである。
要はマーカス(と、ジョージ・デューク)が作った当時の最上質のバックトラックに、
帝王マイルスが、主にミュート音のトランペットを被せて作ったアルパムなのだが、
なかなか荘厳なムードが漂う。
細かいアレンジテクニックを言えば、ジョージ・デュークはさすがにディスコ世代の
人なので、バスドラのキック音を強調した、ビートが目立つアレンジをしているが、
マーカスは逆にキック音を絞って、マイルスのミュート音でのメロディーが比較的
目立つ様なアレンジを行っている。(そう意識して聴くと、各曲の作曲者が容易に
分かるはずだ)
マイルスのこれまでの作品と比較して、主にライヴアルバムに見られるような、
パワフルでノリノリな演奏ではないものの、内に秘めた力強さみたいなモノが
感じられる、シブい、通好みの音楽とも言える。
ジャズとも言えず、フュージョンとも言えず、ブラコンでもない、ボーダーレス
な音楽。
主な作曲者がマーカスなので、私は『これはマイルス独自の音楽だ』と断言
するのは、非常に抵抗を感じるのだけれど、反面、天才プロデューサーである
マーカス・ミラーが作り上げた、時代の最先端のマイルス・デイヴィス像
(とその音楽)である、という解釈なら理解できる。
マイルス・デイヴィスには他にも名盤、重要盤がたくさん有るため、
このアルバムが『最高傑作だ!!』とは言い切れないものの、上位に来る作品で
ある事は間違いない。
特に、耳の肥えた音楽ファンなら、実に凝りまくったバックトラックの細かな
アレンジの面白さに気がつくだろうし、マイルスの、良く練り込まれたであろう
丁寧なメロディーラインの無駄のない凄さに、シビレルことだろう。
聴けばきくほど、何やら深い音の中に入って行くような不思議な作品である。
まぁ、とにかく、スゲエわ・・・
世界的な名カメラマンのアービング・ペン撮影によるジャケット。
端正なモノクロの世界。
おそらく20世紀のポピュラー音楽の世界では、最も優れた音楽的評価と業績と
影響力を残した人物。(もう一人挙げるなら迷わずフランク・ザッパ!!)
作品数があまりに多過ぎて、何から聞いて良いのか分からない、という人が
案外多くいらっしゃるのではなかろうか。
私もそんな一人だった。
でも、やっぱりマイルスは聴いておくべきアーティストだよな、と決意。
学生時代に勇気を出して、初めて購入したCDが、1986年に発表された
この『TUTU』である。
タイトルの『TUTU』とは、反アパルトヘイト運動家であり、ノーベル
平和賞受賞者である、デスモンド・ツツ主教のこと。
なにやらタイトルからして、深い思想が伺える。
実際、このアルバムはCBSレーベルから、ワーナーへ移籍した最初の
レコーディング作品であり、マイルス・デイヴィスの評論で有名な
音楽評論家の中山康樹氏も、その著書『マイルスを聴け』の中で、
こう書き表している。
『晩年のマイルスがレコードを作るということに一番燃えて取り組んだのが、
この「TUTU」である。』
なるほど。そうですか。チカラ入ってるって、事ですね。
プロデュースが、大物トミー・リピューマ&マーカス・ミラーで一曲だけだが、
ジョージ・デュークも参加。
リピューマ先生と言えば、ジョージ・ベンソンの大名盤『ブリージン』で有名
なのだが、この時のマイルスはその売れセンを狙ったのか?!
(余談ながら後年、リピューマがベンソンのアルバムを再度プロデュースした
際、この『TUTU』の様なサウンドメイキングを流用していた。)
アルバム制作の経緯についても、中山氏の著書に詳しく書かれている。
最初、マイルスとリピューマは曲探しから始めたらしい。で、選んだのが
6曲目に収録の『Perfect Way』(オリジナルはスクリッティ・ポリッティ。)
それと同時にジョージ・デューク(ザッパの弟子だ!!)に、デモ・テープを依頼。
私が思うに、ここがポイント。
まず、ジョージ・デューク・・・なのである。
マイルス&リピューマの大物コンビがまず最初に頼った人物、ということは、
当然業界内での評価も高く、才能もあって、仕事にハズレの無い人物、という
条件を満たす人であると言える。
ジョージ・デューク、やはりただのおデブさんぢゃなかった。
いや、実際このオヤジ、なかなかの才人である。詳しくは別の機会にゆずるが
とにかく私は好きなミュージシャンだ。
で、出来上がった曲が5曲目の『Backyard Ritual』であった。
この曲を聴いて、マイルスとリピューマはアルバムの方向性を決めた模様。
するとかつての弟子のマーカス・ミラーからも『自分もお手伝いしたい』との
連絡が入る。そこでマーカスにもデモテープの発注をした。
しかし、マーカスの作ったデモはアルバムの方向性に合わなかったらしく、
リピューマが参考までにと、ジョージ・デュークのデモを聴かせたらしい。
ここらへんがプロの凄い所だとつくづく思うんだけど、マーカス君はすぐに
マイルスとリピューマの意図を理解して、デモを手直しして再度二人に聴かせ、
OKを貰ったようだ。
そして結局は作曲とサウンドメイキングを全てマーカス・ミラーに任せて、完成
したのが、このアルバムなのである。
要はマーカス(と、ジョージ・デューク)が作った当時の最上質のバックトラックに、
帝王マイルスが、主にミュート音のトランペットを被せて作ったアルパムなのだが、
なかなか荘厳なムードが漂う。
細かいアレンジテクニックを言えば、ジョージ・デュークはさすがにディスコ世代の
人なので、バスドラのキック音を強調した、ビートが目立つアレンジをしているが、
マーカスは逆にキック音を絞って、マイルスのミュート音でのメロディーが比較的
目立つ様なアレンジを行っている。(そう意識して聴くと、各曲の作曲者が容易に
分かるはずだ)
マイルスのこれまでの作品と比較して、主にライヴアルバムに見られるような、
パワフルでノリノリな演奏ではないものの、内に秘めた力強さみたいなモノが
感じられる、シブい、通好みの音楽とも言える。
ジャズとも言えず、フュージョンとも言えず、ブラコンでもない、ボーダーレス
な音楽。
主な作曲者がマーカスなので、私は『これはマイルス独自の音楽だ』と断言
するのは、非常に抵抗を感じるのだけれど、反面、天才プロデューサーである
マーカス・ミラーが作り上げた、時代の最先端のマイルス・デイヴィス像
(とその音楽)である、という解釈なら理解できる。
マイルス・デイヴィスには他にも名盤、重要盤がたくさん有るため、
このアルバムが『最高傑作だ!!』とは言い切れないものの、上位に来る作品で
ある事は間違いない。
特に、耳の肥えた音楽ファンなら、実に凝りまくったバックトラックの細かな
アレンジの面白さに気がつくだろうし、マイルスの、良く練り込まれたであろう
丁寧なメロディーラインの無駄のない凄さに、シビレルことだろう。
聴けばきくほど、何やら深い音の中に入って行くような不思議な作品である。
まぁ、とにかく、スゲエわ・・・
世界的な名カメラマンのアービング・ペン撮影によるジャケット。
端正なモノクロの世界。