備忘録

学習備忘録

労働法試験対策 Unit10~15

2009-07-25 19:46:48 | 労働法
Unit10 賃金
判例1 賃金請求権の法的根拠―三晃社事件―
<事案>
三晃社は、同業他社に転職した時は自己都合退職の2分の1の乗率で退職金が支給されるとされ、また本件退職金受領時には、今後同業他社に就職した場合には、同額を返還する旨約していた。退職後に同業他社に就職したXに対して、同額の不当利得返還請求を求めて提訴。
<判旨>
本件退職金が賃金に当たるとしても、労基法の定める差別的取り扱いの禁止(3条)、違約金の定めの禁止(16条)、全額払いの原則(24条)に違反するものではない。
なぜなら、本件退職金は賃金後払い的性格に加えて功労報償的な性格を有するところ、制限違反の就職をしたことにより功労に対する評価が減殺され、退職金の権利そのものが半額の限度でしか発生しなかったと考えることができるからである。

☆☆退職金は、通常賃金後払い的性格と功労報償的性格を含む

退職金減額が許されるか否かの判断順序
1.就業規則上、減額の規定があるか
2.退職金制度の性格は上記二つの性格のどちらに重点があるか
3.止め方の態様が背信的かどうか、背信性がどの程度あるか

Q労基法26条(使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合は、6割以上の賃金をもらえる)と、民法536条2項(債権者の責めに帰すべき事由がある場合には、反対債権を失わない)との関係をどうとらえるか?
→労基法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」は、民法536条2項よりも広く、「使用者側に起因する経営、管理上の障害」も含む(判例)

判例2 賃金全額払原則と賃金債権の合意による相殺―日新製鋼事件―
<事案>
Zが会社から借金をしたが、借財を重ねた結果破産に追い込まれたことから、Y社に対し、退職金で返済してくれるよう依頼し、Y社が返済手続きを行うことに異存がない旨の委任状を提出し、清算処理が行われた。破産管財人Xは、当該相殺処理が労基法24条1項本文の全額払い原則に反するとして提訴。
<判旨>
労基法24条1項本文の趣旨は、賃金を確実に受領させ、労働者の経済生活を保護することであるから、相殺を禁止する趣旨を含む
↓しかし
「労働者がその自由な意思に基づき相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、相殺は24条1項本文に違反するものではない。」
ただし、認定判断は慎重かつ厳格に行う必要がある
↓あてはめ
・返済手続きは自発的な依頼に基づく
・強要にわたる事情はない
・抵当権もつけていない
→合理的な理由が客観的に存在していたといえる

ポイント
☆労基法13条の定める強行法規制に反する、24条1項但書の労働協約を結べば足りるのだから個別的な例外を認める必要はない、との批判はありうる
☆同様の枠組みは、賃金債権の放棄という場面でも使う。ただし、認定の厳格度は違う。(シンガー・ソーイング・メシーン事件、北海道国際航空事件)

※北海道国際航空事件の処理手順
(賃金債権のうち20%相当額を放棄する意思表示)
1.個別の合意が許容されるか→就業規則に達していない個別合意は無効
2.自由な意思に基づく賃金債権放棄といえるか→いえない

Q調整的相殺が許されるか(福島県教祖事件)
→過払のあった時期と賃金の生産調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合には許される
∵賃金支払い事務における実情

Q全額払原則と賃金債権の債権譲渡の関係
→債権の譲渡を禁止するわけではないが、直接払い原則があるので第三者に払ったとしても、いまだ労働者は賃金を請求できるとする(よくわからない判例)

Unit11 労働時間
判例1 労働時間の概念―三菱重工業事件―
<事案>
三菱重工造船所で就労していたXらは、割増賃金を求めて提訴。
<判旨>
労働基準法32条の「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、これに該当するか否かは客観的に定まる。
そして、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当する

ポイント
☆労働時間性について判例は「指揮命令下」の要件しかいわないが、職務関連性(「労動」関連性)もいれるべき(水町同旨)

参考判例:大星ビル管理事件
不活動仮眠時間であっても、労働からの解放が保証されていない場合、労基法上の労働時間にあたる
↓しかし
だからといって、労働契約所定の賃金請求権が発生するものではなく、当該労働契約において仮眠時間に対していかなる賃金を支払うものと合意されているかによって定まる。もっとも、労働と賃金の対価関係は労働契約の本質的部分を構成しているから、通常は労働契約上の賃金支払いの対象となる時間としている。
↓あてはめ
本件は、泊まり勤務手当の支給があった、賃金が月給制である、労働密度が高くない事情があることからすれば、労働契約においては、不活動仮眠時間に対しては泊まり勤務手当以外には賃金を請求しないものとされていたと解釈するのが相当である。
↓としても
Y社は、労基法13条、37条に基づいて時間外割増賃金、深夜割増賃金を支払うべき義務がある


判例2 時間外労働義務の要件―日立製作所事件―
<事案>
日立製作所に勤務するXは、残業を命じられたがこれを拒否したため、就業規則記載の懲戒事由に該当するとしてXを懲戒解雇。解雇無効を主張して提訴。
<判旨>
三六協定が締結されてこれが届出され、一定の事由があれば三六協定の範囲内で労働時間を延長することができる旨の就業規則がある場合には、内容が合理的である限り、労働契約に定める労働時間を超えて労働する義務を負う∵就業規則が具体的労働契約の内容をなすから

※三六協定で労働時間制限解除→労働時間延長理由を規定する就業規則で契約内容確定
※三六協定には本質的には免罰的効果しかないから、結局は就業規則で労働義務を根拠づけることになる

ポイント
・三六協定の効力発生は、行政官庁への届け出もその要件である。

Unit14 人事

判例1 配転―東亜ペイント事件―

!!暗記!!

<事案>
Xは東亜ペイント神戸営業所の主任であったが、名古屋への転勤命令を拒否したため、懲戒解雇された。なお、71歳の母、28歳の妻、4歳の子供と同居中。懲戒解雇の無効を主張して提訴。
<判旨>
Y社は個別的同意なしに、Xに転勤を命じる権限がある
∵労働協約・就業規則に「業務上の都合により転勤を命ずることができる」旨の定めがある
現に転勤は頻繁に行われている
勤務地限定合意はない
↓としても
権限の濫用は許されない
濫用に当たる場合
→①転勤につき業務上の必要性がない
②必要性があっても、目的が不当であるか、通常甘受すべき程度を超える不利益を負わせるものである時等、特段の事情がある
↓そして
「必要性」は、企業の合理的運営に寄与すると認められれば足りる(余人をもっては代えがたいほどの必要性は不要)

ポイント
☆配転命令権の根拠
・就業規則→労契法7条で就業規則の内容が労働契約の内容になる(合理的である必要はある)
・労働協約→労働組合法16条の規範的効力
・個別的同意(契約)

判例2 出向・転籍―新日本製鉄(日鐵運輸第2)事件―
<事案>
Xは新日鉄の構内鉄道輸送業務に従事していたが、新日鉄は、鉄道輸送部門を子会社である日鉄運輸に委託し、そのうえでXら輸送業務従事者を出向させた。出向命令無効確認を求めて提訴。
<判旨>
就業規則、労働協約に社外勤務条項があり、労働者の利益に配慮した詳細な規定がある以上、個別的同意なしに出向命令を発令する権限を有する
↓としても
権利濫用に当たるか→当たらない
∵必要性あり
・人選も不当でない
・業務内容、勤務場所に変わりがない
・手続も不相当とは言えない

※判例は一般的な理屈、枠組みは示していない

ポイント
☆原則論
原則論としては、民法625条1項は使用者の権利を労働者の承諾を得ずに譲り渡すことを規制しているから、この「承諾」をいかなる事情で認めるかが問題となる
→就業規則・労働協約で包括的な同意の存在を認めることができる

判例3 昇進・昇格―アーク証券事件―
<事案>
アーク証券に勤務するX1らは、職能資格の等級を引き下げられ、賃金を減額されたため、減額分について賃金仮払いを申し立てた
<判旨>

Unit15 懲戒
判例1 懲戒権の根拠―関西電力事件―
<判旨>
使用者は、広く企業秩序を維持するために懲戒を課することができる。

企業秩序は、通常労働者の職場内又は職務遂行に関係のある行為を規制することにより維持しうる
↓しかし
職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業秩序に関係のあるものもあるから、これを規制の対象としてこれを理由として労働者に懲戒を課することも許される
↓あてはめ
本件行為は、労働者の会社に対する不信感を醸成するもの
→就業時間外・職場外と言えども、企業秩序を乱す行為
↓したがって
使用者は懲戒権を有し、その裁量権を超えるものではない以上、Xの請求は棄却される

Q懲戒権の法的根拠は何に求められるか
→固有権説と契約説

参考判例:フジ興産事件
<判旨>
使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由をさだめておくことを要する
そして、就業規則が法的規範としての性質を有するためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する

☆濫用か否かの判断基準
労契法15条は、懲戒権があるとして「労働者の行為の性質多¥予備態様その他の事情」を考慮して、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないといえるか否かを判断する。
その際には
①比例原則、相当性(該当事由の重大性と処分との釣り合い)
②平等原則違反(過去の事例に照らし合わせて)
を考慮すべき。

判例2 私生活上の非行と懲戒処分―横浜ゴム事件―
<事案>
Xは飲酒した状態で他人の居宅に侵入し、住居侵入罪として罰金2500円に処せられたが、この事実が工場近辺の住民および従業員に広まった。横浜ゴムは、Xを懲戒解雇したため、雇用契約上の地位確認を求めて提訴。
<判旨>
Xの行為は、会社の組織、業務等に関係のない私生活の範囲内で行われたものであること、罰金2500円程度にとどまったこと、職務上の地位も指導的な者でないという事情を艱難すれば、懲戒事由(「会社の体面を著しく汚した)にはあたらない


☆兼業が禁止されるのはいかなる場合か
→企業秩序を乱す場合