ネット証券、手数料ゼロでも増益 楽天など信用取引貢献_日経様記事抜粋<
・4社で純利益が合計620億円
・前の期比で2.4倍に増加
・投資家維持にシステム投資不可欠
主要ネット証券5社の2024年3月期決算が10日、出そろう。9日までに発表した4社では純利益が合計620億円となり、前の期比2.4倍に増えた。大手2社が手数料を無料にしたことで売買手数料収入には下押し圧力がかかるが、信用取引の手数料増加や外為証拠金取引(FX)などでの増収が業績を押し上げた。
9日までに決算を終えたネット証券のうち、楽天証券、マネックスグループ、松井証券が増収増益だった。auカブコム証券は責任準備金の繰り入れを特別損失に計上し、減益となった。10日に決算を発表するSBI証券を除く4社ベースの純利益は、現在の大手体制になった05年3月期以降で最高となった。
楽天証券とSBI証券は23年秋に日本株の手数料を無料にし、少額投資非課税制度(NISA)取引ではネット大手全社が無料にしている。日経平均株価が2月に34年ぶりに最高値を更新した前後で取引量が大幅に増加したが、過去のような増収にはつながらない。取引増加の局面で、個人投資家が少ない元手でもリスクを取って積極的に売買できる信用取引を増やしたことがネット証券の収益を支えた。
楽天証券の信用取引残高は24年3月末までの1年間で33%増え、信用取引の1日あたりの平均売買代金も約2倍に増えた。松井証券の1日あたりの信用取引売買代金も1年間で約32%増加した。
個人顧客を取り込むための手数料下げ競争は収益率の低下につながる。23年10〜12月期の純利益は同7〜9月期と比べてSBI証券が16%、楽天証券が83%減少した。
ただ24年1〜3月期の純利益は楽天証券が48億円と、前四半期に比べて4.9倍の大幅増益だった。手数料ゼロにした後も純利益が前年同期と比較し26%伸びている
1月に始まった新しいNISAで個人投資家の裾野が拡大しており、各社は収益基盤の多様化を図っている。
松井証券では24年3月期の主にFX取引の収益を示すトレーディング損益が前の期と比べて約3割増加し、マネックスグループは暗号資産交換業のコインチェックなどの「クリプトアセット事業」の業績が19億円と黒字転換した(前の期は5億円の赤字)。
銀行やクレジットカード会社との提携も利益増に奏功した。マネックス証券は24年1月に業務提携を開始したイオン銀行からの新規口座開設が増えている。楽天証券やSBI証券、auカブコム証券ではクレジットカードを利用した投資信託の積み立て購入の設定額が増加した。
1〜3月期は株高の恩恵を受けたが、足元で日経平均株価は足踏みしている。個人投資家の動きが鈍くなったり、信用取引で損失を出したりすれば、手数料無料の影響が浮き彫りになる可能性が高い。
手数料競争は経営体力勝負の側面がある。SBI証券は3月、三井住友カードを使った積み立て投資のポイント還元率を引き下げると発表した。SNSなどでは、利用者が不満を漏らす投稿が出ていた。
若年層の投資初心者を「上客」に育てるには息の長い戦略が必要だ。楽天証券はみずほ証券との共同出資会社を通じ、みずほの対面相談ノウハウを活用した相談サービスを4月に始めた。松井証券の和里田聡社長も「今後は顧客の数より質が大事になる」と話す。
増え続ける個人投資家を維持するには、継続的なシステム投資も不可欠だ。SBI証券は国内株式取引システムの一部を米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のクラウド型に切り替えた。安定的な稼働に加えて、取引の所要時間を短縮する目的がある。
(森川美咲様)
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