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24/4/8㈪14:32マイクロソフト"心臓部"で見た「AI革命劇」の本質AVGO1313.75$ BLK790.98$ BX125.35$ MCHP85.9$

2024-04-08 14:31:45 | 米国株

マイクロソフト"心臓部"で見た「AI革命劇」の本質<森田 宗一郎 :様記事抜粋_ 東洋経済社 記者

マイクロソフトの本社風景
マイクロソフトの本社取材、現役社員らの証言を通して見えたのは、サティア・ナデラCEOが築き上げた本質的な強さだった(写真:マイクロソフト)

坂の多い港町を、カモメが優雅に飛び交う。断続的に降るミストシャワーのような霧雨に、地元民たちは傘1つ差そうとしない。これが、アメリカ西海岸に位置する閑静な都市、シアトルの日常なのだろう。自然豊かな環境で、海産物や農産物の産地としても知られるが、実は世界的企業の重要拠点が集積する地でもある。ECの巨人であるアマゾン・ドット・コムや、人気カフェチェーン・スターバックスの本社、任天堂のアメリカオフィス……。豪華な顔ぶれの中でも、ひときわ“アツい”企業の本社がこの街にある。マイクロソフトだ。この1年余り、テック界隈から投資家まで世界中を熱狂させたマイクロソフト。「生成AI電撃戦」を仕掛けて“革命児”の印象を植え付けた一方、それ以前から、7期連続で増収増益を達成してきた優等生でもある。2023年初頭には2兆ドルに満たなかった時価総額は、足元で3兆ドルを突破。アップルを抜いて世界首位に躍り出た。その「熱源」を探るべく、記者は3月初旬にシアトルの本社に足を踏み入れた。

シアトルのダウンタウンから、車で30分ほど北東に向かう。車窓から風光明媚な名山・マウントレーニアを眺めていると、いつの間にか、日本でもお馴染みの4色ロゴが掲げられた建物が建ち並ぶエリアに入っていた。「ここからマイクロソフト本社地区」と案内する標識や、柵のようなものはない。公道を挟んで、約1400万平方フィート(東京ドーム約30個分)に及ぶ広大な敷地に100以上の施設が集まっていることから、記者はてっきりまだ街の中にいるのだと錯覚していた。6万人以上のスタッフが拠点とし、研究棟から本格的なレストラン、広々としたグラウンドまでそろう。大企業の本社というより、名門大学のキャンパスを訪れたような感覚だ。実際、マイクロソフトもこの本社地区を「キャンパス」と呼んでいる。

朝から晩まで本社を歩き回り、やはり目立ったのは生成AIに関連する取り組みだ。その詳細に触れる前に、昨年来、マイクロソフトが展開してきた生成AIをめぐる怒濤の戦略をおさらいしておきたい。マイクロソフトは2023年1月、生成AIの火付け役となった「チャットGPT」を開発するオープンAIに、数十億ドルの追加出資を表明。その翌月には、オープンAIの大規模言語モデルを活用し、検索エンジン「Bing(ビング)」を刷新すると大々的に発表した。検索王のグーグルに対し、マイクロソフトが未知のテクノロジーを擁して挑戦状を叩きつけた――。そうした対立構造に、世界中の注目が集まった。しかしこれは、マイクロソフトがその後1年にわたって仕掛け続ける生成AI電撃戦の序章に過ぎなかった。この1年を経て、生成AIのマネタイズ方法として本命視されるようになったのが、同社が2023年1月から展開する「Azure OpenAI Service」。ITシステムの基盤やアプリケーションの開発プラットフォームを提供するクラウドインフラ「マイクロソフト アジュール」上において、オープンAIの大規模言語モデルを利用できるものだ。高いセキュリティ環境が世界中の大企業に支持され、アジュールの生成AI関連サービスは5.3万社以上で導入が進む。

生成AIを使った支援機能「コパイロット」も、ドル箱と期待するサービスの1つだ。2023年11月、「オフィス」やビデオ会議「チームズ」などを包含したクラウドサービス「マイクロソフト365」向けに月額30ドルで導入。ほかにもOSの「Windows」など、あらゆるプロダクトに横展開している。製造現場で生成AIを活用したデモ

シアトルの本社ではこのコパイロットを、従来マイクロソフトが注力してきた工場や設備管理などの現場向けのソリューションに活用するデモが行われていた。4輪バギーの製造現場を模したエリアで、技師役のマイクロソフト社員と記者がヘッドセットを装着すると、視界に仮想のタブレット端末のようなホログラムの画面が現れた。ほどなくして、ヘッドセットから「ハロー。私はコパイロットです。今日はどのようにお手伝いしましょうか?」という音声が流れる。技師役の社員が「ヘイ、コパイロット。エアダクトはどこにある?」「フレームをハイライトしてくれる?」などと問いかける。するとコパイロットは「もちろん」と返答し、ヘッドセットのレンズ越しに、バギー上にある各パーツの場所が映し出された。これならば、車種の初心者・ベテランを問わず、製造工程や整備などの現場作業を効率よく進められるわけだ。この「Copilot in Dynamics 365 Guides」は、一部のクライアント向けに内々のプレビューをしている段階だという。ほかにもコパイロット関連のサービス開発の現場やインキュベーション施設など、2日間にわたってマイクロソフトの内部をありとあらゆる側面から見て回り、何十人という社員たちと交流することができた。その中で引っ掛かったのが、本社に漂う雰囲気、そして社員たちのスタンスだった。

ここ1年のマイクロソフトは、GAFAMの中でも突出した存在感を発揮してきた。「世界の未来はシアトルにあり」とでも言うくらいの高揚感が見えても、おかしくないはず。現地に行くまではそう思っていた。しかし、実際のところは「いかに担当するプロダクトを、今より良いものにアップデートできるか」などと口にする、落ち着き払ったスタッフばかり。本社のどのエリアでも、想像していたような熱気は見受けられなかった。この違和感すら覚えるギャップの正体は何か。これまでの取材の蓄積とつなぎ合わせて答えを探していくと、2014年からCEO(最高経営責任者)を務めるサティア・ナデラ氏が築き上げたマイクロソフトの本質的な強さが浮かび上がる。

まず大きいのが、現在の生成AIブームは単なるラッキーパンチではなく、マイクロソフトの描いた戦略上にある、ということだ。マイクロソフトがオープンAIに初めて10億ドルを出資したのは2019年のこと。長年マイクロソフトに勤めてきた元社員は、「以前からナデラは『AIカンパニーになる』と言ってきた。壮大な計画があり、その方向性は社員にも浸透していた」と証言する。浮かれた様子がいっさい見えない背景には、社員の“口癖”から透けるカルチャーも大きく関係していると言えるだろう。「グロースマインドセット、かな」。アメリカ本社に10年以上勤めるという社員に、社内での頻出ワードを尋ねると、そう返ってきた。意味は、失敗を学びの機会ととらえ、進化や変化を恐れず学び、成長し続けること。定量目標だけでなく、さらに成長するための取り組みといった定性的な成果もみるようになった評価制度改革などを経て、ナデラCEOが浸透させた考え方だ。「ナデラになってから、ちゃんと意見を聞いてもらえるという心理的安全性も生まれた。ナデラ様様だね(笑)」(前出の社員)。「フィードバック」も、社員がたびたび口にしていた単語の1つだ。本社では、コパイロットからアジュール関連のスタッフまで、何かとフィードバックの重要性を説いていた。

オンプレミス時代におけるマイクロソフトのソフトウェアビジネスは、数年に一度新しいバージョンを投入し、それを売っておしまい、というモデルだった。しかし、ナデラCEOの旗振りによって本格化したクラウドビジネスはオンラインサービスであり、ユーザーの利用頻度などの反応がつねに可視化される。この市場で勝つためには、ユーザーからのフィードバックと向き合い、サービスをアップデートする、というサイクルを高速で回し続けることが必要だった。2023年10月にアメリカ本社のCMOに就任した沼本健氏も、以前から「フィードバックサイクル」の重要性を強調している1人だ。日々成長を求められる事業領域に身を置いて、つねにローンチしたサービスへのフィードバックを受け取り、改善・成長し続ける――。このカルチャーが浸透していれば、確かにここ1年の成果を噛みしめ、悦に浸るような暇はないのかもしれない。グロースマインドセットを標榜するマイクロソフトだけに、足元でも攻勢を緩める気配はない。

2023年11月、同社は独自開発の半導体を発表。大規模かつ複雑な生成AIのトレーニング・推論向けに最適化されたチップと、ソフトバンクグループ傘下の半導体設計大手・アームの技術を取り入れたチップをそろえ、自社のデータセンターへ実装する。同月に開催された技術イベントでナデラCEOは、「このシリコンの多様性により、世界で最もパワフルな基盤モデルやコパイロット、顧客独自のAIアプリケーションまで、(データ学習や推論など)すべてのAIワークロードをパワーアップすることができる」と胸を張った。生成AI界隈でも活発に動く。2月26日(現地時間)には、フランスの生成AIスタートアップであるミストラルAIと、大規模言語モデルの開発やアジュールの生成AI関連サービスへの組み込みなどで提携することを発表。3月19日には、オープンAIの競合にあたるインフレクションAIのCEOと主任研究員をマイクロソフトに迎え入れることも明らかにした。ここまでしても、まだナデラCEOは勝利を確信していないだろう。ビッグテックの宿命ともいえる、「社会からの追及」が本格化していないからだ。GAFAMはそのプラットフォームの巨大さゆえに、プライバシーや市場独占などの面で、つねに懸念を抱かれる存在だ。

欧州委員会は目下、グーグル親会社のアルファベットとアップル、メタ・プラットフォームズについて、アプリストアや各種サービスの独占を禁じたデジタル市場法違反に関連した調査を進めている。そしてアメリカ連邦取引委員会も1月、クラウド3強のマイクロソフトとアマゾン、アルファベットに加え、各社と提携する有力な生成AIスタートアップのオープンAIとアンソロピックに対し、競争の観点から調査に乗り出した。生成AIと倫理に関する議論も、今後さらに加熱することが見込まれる。

マイクロソフトは1990年代から2000年ごろにかけて、同社のパソコンOSとブラウザの同梱により他社製ブラウザを競争から排除したとみなされ、司法省と激しく争った過去がある。連邦地裁に会社の分割命令を下されるも、最終的には和解にこぎつけた。マイクロソフトにとって、PCの時代をビッグテックとしての「1周目」とするならば、生成AIの時代は「2周目」と言えるだろう。倫理面についても、ある程度議論が過熱することは、ナデラCEOにとって想定の範疇だろう。グーグルが席巻してきた検索エンジンなど、他社が近年提供するAI関連プロダクトをわざわざ「オートパイロット」とくくり、自社製品に「あくまでAIは人間の副操縦士」という心証を与える「コパイロット」ブランドを冠したことからも、生成AIへの心理的なハードルを下げようというしたたかさが透ける。イノベーションと社会との対話の両立において、これまでにない最適解を導き出せるか。ナデラCEOが率いるマイクロソフトの真の強さは、ここから試される。



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