転売対策はもちろん、並行輸入品への規制も見逃せないロレックスの動向です。
では、「並行差別」ってどのようなものなのでしょうか。
正式な用語ではありませんが、時計メーカーが自社の正規店以外で購入した―つまり並行輸入店で買われた製品に対してアフターサービスの面で差をつけたり、正規ルート以外に一切の新品を卸さないようにしたりして、並行市場に流通させないようにする戦略のことです。
そもそも並行輸入店で時計を買う最大の旨味は、「正規の定価より安い」ことにあります。
並行輸入の業者は国内外の価格差や為替相場を利用し、海外の卸業者や正規販売店から時計を割安で仕入れます。そのため、ほとんど値引きを行わない正規店で定価で製品を購入するよりも、並行輸入店で買った方が消費者にとっては「モノは同じ」でも「より安く」手に入れることができるのです。
ブランドによっては定価と並行輸入店での価格差が数十万円に及ぶこともあります。
これは、時計メーカー側にとってはあまり喜ばしいことではありません。
そのメーカーが考えている市場価格よりもえてして価値が下落してしまうため。また、並行輸入品は「本来仕入れるはずだった国・地域」への製品を、別の国・地域の業者が手に入れてしまう、というためです。メーカー側は世界展開を考えているのに、実際は一部地域でのみ流通・・・といった、メーカーの戦略を大きく損なうことに繋がります。
それを受けて、メーカー側は様々な並行輸入店対策―並行差別―を行います。
例えばブライトリングやタグホイヤー、ウブロなどはアフターサービス面で差別化を行い、正規店以外で購入された製品のメンテナンス(オーバーホールなど)を割高に設定しています。また、カルティエなどは正規ルート以外への新品販売を停止する、といった具合です。
一方で並行輸入市場に製品が多く流通すると言うことは、そのブランドの知名度がアップする、ということでもあります。
知名度が上がれば営業や流通の幅がさらに広がるとあって、そこまで問題視していないブランドもあります。
例えばオメガは並行差別を設けず、並行市場での新品の流通量は豊富です。一時期、「オメガ自身が並行市場に新品を流している」なんて言われたものです。また、先ほど挙げたカルティエも、確かに新品販売は規制していますがアフターサービス面で差別は設けていません。これはカルティエ属するリシュモングループ全体(IWCやジャガールクルトなど)に言えることです。
こういった、並行輸入品に寛容なメーカーも少なくありません。
そして、ロレックスもまたこの「寛容」なメーカーのうちの一つでした。アフターサービスに特に差別はなく、ほんの数年前までは並行輸入店には豊富に新品が並んでいました。
しかしながら、そのロレックスの並行差別が始まったのではないか。そんな疑念を抱かせる施策が始まります。
次項で詳しくご紹介いたします。