握りこぶしでファイト!

認知症の母との生活を中心に、日々のよしなし事を書きます。

世界大学ランキング

2021-10-12 21:08:00 | 日記
今年のノーベル物理学賞に、眞鍋淑郎氏(米国プリンストン大学上席研究員・米国籍)受賞のニュースが発表された。
地球温暖化を予測する「気候変動モデル」を世界に先駆けて開発した功績によるもの。

この受賞は、気候危機への取り組みが国際的な課題となっている現在、脱炭素社会をめざす世界を後押しするタイムリーなメッセージとなるに違いない。

今回の受賞について、新聞各社は岸田首相のコメントを次のとおり紹介。
日本における研究活動の積み重ねをもとに、海外で活躍されている研究者の独創的な発想による真理の発見が、人類社会の持続的な発展や国際社会に大きく貢献し、世界から認められたことを、日本国民として誇りに思います」

この岸田コメントは事実と異なっていて、多くの人達から批判がなされている。

真鍋氏は、1958年に東大大学院を出た際に論文が米国の研究者に注目され、プロジェクトに招かれてアメリカに渡っている。
ご本人も記者からのインタビューで、米国に行って自由な環境で研究ができたことが良かったと語られている。

少し古い(12年前)が、名古屋大学の広報誌で眞鍋さんのアメリカでの研究生活についての対談記事がある。
“名古屋大学大学院環境学研究科広報誌「環」Vol.17(2009)p.6-9”に掲載されており、ネット上で閲覧可能。
https://www.env.nagoya-u.ac.jp/kwan/pdf/kwan017.pdf

***

グローバル化が進展する中、「科学技術立国」を謳う我が国であるが、学術研究分野における諸外国との格差は拡がる一方である。
学術研究の推進に中心的な役割を果たすのは大学である。
その実態を、「世界大学ランキング」に着目して見てみたい。

学校のランキングというと、一般には「頭の良い」学生・生徒が集まっている有名校が上位に来るような「偏差値」のランキングのイメージがあるのだが、ここで取り上げる「世界大学ランキング」は、大学の設置目的である教育・研究活動の質とアクティビティを指標化し、順位付けしたものである。

「世界大学ランキング」にはいくつかあるが、9月に新聞各紙に取り上げられ話題となったイギリスの高等教育専門誌「Times Higher Education(THE)」が発表する「THE世界大学ランキング」が世界的に知られている。

最新版の順位はー

出典:高校生新聞(9/2配信)

ちなみに、眞鍋氏在籍の「プリンストン大学」は世界で7位。


では、このランキングは何を指標に順位付けをしているのだろうか?
表中にも記載されているが、次の5つを評価項目として数値化している。

「教育」「研究」「被引用論文」「国際性」「産業界からの収入」。
教育、研究、被引用論文数に各々30パーセント、国際性に7.5パーセント、産業界からの収入に2.5パーセントを配分し、重み付けを行っている。

ここで、重要な要素となっているのが、「被引用論文」である。

普段耳にしない「被引用論文」とは?
研究者が研究の成果(業績)として発表した論文が、他の研究者の論文にどれだけ引用されたかを示す数値で、研究の影響力(研究力)を測る指標として使われるものである。

世界では日々膨大な数の研究論文が学術雑誌(ジャーナル)に発表されていて、それらの論文には、研究を行う中で参考(引用)とした研究論文(著者、論文名、ジャーナル名、掲載号、ページなど)を必ず明示しておくこととなっている。

「ネイチャー誌」など権威のある学術雑誌(ジャーナル)や、各分野の専門誌に掲載される質の高い、先駆的な論文が参考(引用)にされることが多くなることから、被引用数が多い論文ほど評価が高いということになる。

権威ある学術雑誌に掲載された論文はデータベース化されていて、すでに先行して発表された論文からそれを引用している論文へと辿ることが出来る。
これによって、各大学に所属する研究者の成果を数値化することが可能となったのである。
被引用数の多い論文を発表している著者は一流の研究者とされ、ノーベル賞の選考の際に候補者として名前が挙げられることも。


一方で、以下のような課題・問題点が指摘されている。

・研究分野によって、データベースに収録されるジャーナルに偏りがあり、論文の引用状況が反映されない。
いわゆる自然科学分野(医・歯・薬など)では、ほとんどの論文が収録されているが、人文社会科学分野については、2割弱しか収録されていない。

・英語圏以外の論文が収録されていない。
このため、欧米の大学が上位を占める結果になっている。
日本でも、自然科学系の研究者は、専門家(ネイティブ)の援助も受けたりしながら英語論文を書くケースも多い。
一方、人文社会科学の研究の場合、それぞれの国の文化や社会をフィールドに研究し、「それぞれの言語」で研究成果を発表することに意味があるという側面があって、単純に英語で論文を書けば良いというものでもない。

つまり、日本の人文社会科学分野の論文(業績)は世界からは見えていないことになり、ランキングで評価されないということになってしまう。


さて、改めて、日本の上位大学ランキング(画像を見てみると、
上位は東大などの大規模国立大学が占めている。
これは予算規模や研究者数などからして当然のことで、もっと世界のランキングを上げてほしい。

しかし、そこに比較的小規模な「医科大学」が名前を連ねている。
いずれも、「被引用論文」の評価点が順位を上げていることが分かる。

以上、「被引用論文」の項目に焦点を当てて見てきた。この項目が、「教育」「研究」と同じく30パーセントの比率を占めていることは、「世界大学ランキング」が研究のパフォーマンスを重視した順位付けをしていることが分かる。


我が国の学術研究をめぐって、先に「稼げる大学??」と題した投稿をしたが、「科学技術立国」としてはあまりにも貧弱な大学の研究環境を整備し、底上げを図ることこそ政府が取り組むべきことではないだろうか。

“学術会議の人事にも介入する”ようなことがこれからも続いていたら、眞鍋さんのような研究者は育たないし、頭脳流出は止まらず、海外からの優秀な留学生も集まらないであろう。

※標題写真は、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学キャンパス。