近藤大介のアジア・スケッチ

アジア・ウォッチャーの近藤大介が、東アジアについて分析する。

馬英九主席会見

2006-07-11 16:38:07 | Weblog
 次期台湾総統「当確」とも言われる馬英九国民党主席(台北市長)が、FCCJでランチ講演を行った。
 ランチの前に、3つの分厚い英語の資料が配られた。①民進党の18のスキャンダル、②馬英九の支持率(2003年9月~2006年6月)、③陳水扁総統の不信任投票、に関する資料だった。これでもかというくらいに陳水扁・民進党を攻撃したいのだろうが、正直言って読むのもかったるく、台湾の民主化は随分進んだものだと感心だけする。
 彼の演説要旨は以下の通り。

・私は1950年香港生まれだが、生粋の台湾人である。
・北朝鮮のミサイル発射は北東アジアの平和と安定を損なうものであり、強く反対する。
・陳水扁・民進党も台湾海峡に波風を立ててこの地域の平和と安定を乱しているという点では同じであり、それを正すのが国民党である。
・2005年に両岸で930億ドルもの貿易があり、10万社、400万人の台湾人が大陸へ行った。こんな状態で対立するのは不合理だ。
・三通を実現すれば、台北-上海が1時間20分で繋がる(いまは5時間以上)。
・1992年に「一つの中国を基本とする」という歴史的合意がなされたのに、90年代後半以降、中国の平和的統一の機運を台湾側が踏みにじった。
・大陸に対する新しいアプローチが必要だ。それは「5つのノー」と「5つのドゥー」(平和、繁栄、民主・・)だ。
・4月に2度目の訪中をして胡錦濤主席と会談したが、彼もやはり「92年合意」に立ち返るべきだと考えている。そして両岸が対等な立場で再度テーブルにつこうと合意した。
・私が2年後に総統になったら、大陸との経済交流をもっともっと進める。両岸はゼロサムゲームではない。ダブルウィンだ。大陸の高校生を大勢台湾に呼んで台湾の大学に入れ、民主主義のよさを肌で感じてもらう。
・大陸との交渉は、「一つの中国」と「平和的統一」を共通のスローガンに掲げる。
・34年前に日本は台湾を見捨てたが、中台が一致団結するいまこそ、日本企業は台湾企業を利用して大陸に進出すべきだ。
・今後は、経済ばかりか安全保障の分野でも、台湾がキャスティングボードを握る時代になる。
・現在、台湾人の85%が民進党の独立路線に反対している。
・中国大陸が民主化したら、統一を受け入れてもよい。
・インターネットの影響は大きく、大陸は早晩必ず民主選挙を始める。
・日本は中台関係の改善に協力してほしい。
・大陸との交渉のために必要な適切な国防費は出すが、常に予算に見合ったもので、かつ国民のコンセンサスに左右されるものだ。

 以上である。次に質疑応答になり、私は次のように聞いた。
--中国は、香港式の一国二制度方式による台湾統一を目指している。あなたが総統になったら、これを受け入れるということなのか。
 これに対し、馬主席は私に向かって微笑みながら、次のように答えた。
「一国二制度による統一は、登小平が言い始めたものだ。だが、将来的に両岸に二つのシステムは必要ない。一つの良いシステムがあればよい。つまり、私が総統になったら、中国の政治的民主化を加速化させる。そして中国が民主化するのを待って統一を話し合えばよい。そして民主国家として統一を果たすのだ。だから香港式統一は拒否する」
 実に簡潔で分かりやすい回答だった。しかも、答える間中、私の目を見て微笑んでいる。
 馬主席は流暢な英語を駆使し、どんな質問にも笑顔で実に誠実に答える。若い頃のトニー・ブレア英首相のような人だと思った。コーヒーに目がないようで、何杯もうまそうに飲んでいた。市販のボールペンでまめにメモを取る姿も好印象を与える。若干女性的なところがあり、背も高くないが、アジアの新しい形の政治的ヒーローになりうると確信した。