見出し画像

赤松敏弘Vibraphone Connection・談話室

The Look of Love

バート・バカラックの死は個人的にはかなりのショックだったようで、この週末はネット上で一番のお気に入りだった“The Look of Love”ばかり拾って聴いていた。この曲は中学の頃に深夜放送で聴いてから何か辛いことや悲しいことがあると頭の中に流れていた。
 
マイナーで簡単な曲なのに、実はバカラックの英知の結晶のような仕組みになっているのはコードの勉強を始めると共に気がついて驚いた。
今欲しかったのは個人的に聴いて泣ける曲。ただし、ここが肝心なのだけど、相変わらず歌詞を聞いていない。歌も一つの楽器として歌詞をアーティキュレーションのように聞いている(悪い癖だけど仕方がない)。これと同じ聞き方になるのがポルトガル語のボサノヴァだ。大半の日本語の歌詞は言葉が耳に突き刺さるのに、ボサノヴァやこのバカラックの曲などは耳に言葉として突き刺さらないでハーモニーやリズムと一緒に音として入ってくる。だからネット上にあるありとあらゆる“The Look of Love”を聴いた。
 
そこでまたいろんなことに気付かされた。
 
音楽は時代の映し鏡だと思っている。自分の曲でも、他人の曲でも、その時代のエッセンスが閉じ込められているのが音楽だと思っている。
 
いろんな“The Look of Love”を聴くうちに、泣ける“The Look of Love”と、泣けない“The Look of Love”にはっきりと分かれて行く。
 
この曲、実はバカラックの音楽の秘密が結構詰まっていて、それが自分の琴線に触れるのだと思う。
バカラックの音楽で最初に皆がハッとさせられるのが Maj7の音。それまでの音楽ではここまで明確に Maj7という音を鳴らしているポップスはボサノヴァを除いて少なかった。さらに マイナーコードの 9thという音も同じで、この音がコードに加わるだけで和音の暗いイメージがパッと明るくなる。バカラックの凄いところは、それらの音をメロディーに含まなくても聴こえてくるサウンドの魔術師。
 
“The Look of Love”も(ちょっと説明のために理論的に書くけど) 最初は Im7 で始まり、次に Vm7が来る。通常なら地味で陰気なサウンドになるところに、どちらのコードにも 9thが聴こえてくるように仕組んでいる。驚くことに最初はドリアン・モードで始まる曲だった。それが次の展開で bVIMaj7につながり本来のキーに向かうという。だからマイナーのメロディーにのせて聴こえてくるサウンドが希望のように明るく包み込む。たったこれだけの仕掛けで人の心に何かを感じさせてしまう。そのほかにもいろいろあるのだけど、ポップスで当時これだけ凝った作りのヒット曲は他になかった。
 
それが60年代後半から70年代にかけての世の中の空気と絶妙に一致していた。時代の映し鏡というのはそういうことなんです。実際に子供だったけどその時代の空気を吸っていたからハッとするんです。
 
さて、いろいろ聞いて、一番自分で落とし所(つまり聞いて泣けるツボ)として選んだのが、リンクしたバート・バカラックとヴィッキー・カーのテレビでの1シーンでした。
 
 
 
 
もちろんこの曲の出所となった映画『007 カジノロワイアル』で歌っているダスティ・スプリングフィールドのバージョンもいいし、それをリスペクトしたシルヴィ・リンの2007年のアルバム「Just A Little Lovin'」のバージョンもとてもシンプルでいい。
 
 
本当なら、この曲にぴったりのテンポと歌い方のダイアナ・クラールが一番なはずなのに、僕が一番グッとくる Vm7のところがリハモナイズされていてグッと来ない。せっかくクラウス・オガーマン風のオーケストラにのせていい感じで流れてくるのに・・・・・・2012年のホワイトハウスでのライブではちゃんとVm7が入っていたのでアレンジャーだな。バカラック本人の前での演奏だったから改めたか?(笑) それほどリハモナイズが幼稚なお遊びに聞こえる。過度なアレンジやリハモナイズは曲を殺してしまう。
 
 
いろいろ聴くとこの手の余計なアレンジが曲を台無しにしているケースが多い。
そう易々と踏み込めるほどバカラックの世界は甘くない。
全てがバランスしているものに何かを加えたいなら、死ぬほど吟味してからにしてほしいと思うくらい思い付きのリハモでは通用しない、バカラックは完璧だったんだなぁ、と改めて勉強させてもらいました。
 
さぁ、これで一頻り。
 
未来に向かって“The Look of Love”だ!
 
 
 
 
 
【期間限定公開/無料動画】
━━━━━━━━━━━━━━
最新の動画です。2022年11月に栃木県足利市のartspace&cafeで行われた彫刻家藤岡孝一氏の個展BLUEの中の「JAZZ in BLUE」での演奏からダイジェスト。
約27分間の動画です。
写真をクリックするとartspace&cafeのページに飛びます。最初にコマーシャルが入る場合がありますのでご注意ください。
➡︎
演奏:Toshihiro Akamatsu(vibraphone) Hakuei Kim(piano)
 
・Straight, No Chaser......Monk
・Violet Rays.....Toshihiro Akamatsu
・Synonym......Toshihiro Akamatsu
・White Forest......Hakuei Kim
・Beyond the Dream......Toshihiro Akamatsu
・Lake Sagami......Hakuei Kim
・The Gleaner......Toshihuro Akamatsu
enc
・Blue in Green......Miles
 
Nov/13/2022 artspace&cafe @ Ashikaga, Tochigi.
 
Coming Soon!
━━━━━━━━━━━━━━
2023年3月30日(木)湘南・茅ヶ崎「Storyville
18:30開場/19:00開演
ハクエイ・キム(p) 赤松敏弘(vib)
MC: 3.850円+od

〒253-0056 神奈川県茅ヶ崎市共恵1丁目8−19 中島ビル 1F
☎️0467-91-9604
━━━━━━━━━━━━━━
2023年4月4日(火)千葉・柏「Nardis
19:30開場/20:00開演
ハクエイ・キム(p)赤松敏弘(vib)


MC 3630円 + od
問い・予約 04-7164-9469

━━━━━━━━━━━━━━

【プロデュース情報】
 
2023年1月25日発売!
現在の東京のジャズシーンで既にライブでは人を振り向かせる存在となりつつある新人実力派ヴァイビスト・吉野智子。今回そんな彼女のデビュー作のプロデュースを担当しました。
スタンダードもオリジナルも一つ一つ吟味して揃えた瑞々しさに溢れた作品に仕上がっています。試聴された方からはとても新人とは思えない堂々としたプレイに驚きも寄せられています。
メンバーは現在の東京のジャズシーンの若手を代表する精鋭揃い。
是非是非応援宜しくお願い致します。
 
KALEIDOSCOPE / カレイドスコープ
Tomoko Yoshino / 吉野智子
3000円+税
2023年1月25日発売 (WISE RECORD/WR-202301)
 
全国のCDショップ及びネットショップからお手元に。
 
■演奏
Vibraphone : 吉野智子 Tomoko Yoshino
Piano : 雨宮彩葉 Ayaha Amamiya
Bass : 鉄井孝司 Koji Tetsui
Drums : 小田桐和寛 Kazuhiro Odagiri
 
他。
 
■吉野智子WEB
今回は新たな試みとしてCD発売と同時にサブスクでの配信もスタートしました。
 
詳しくはこちらのページから
■Tomoko Yoshino's subscription link
 
皆様、応援宜しくお願い致します!
 
━━━━━━━━━━━━━━

■赤松敏弘 official site VIBRAPHONE CONNECTION
発売中のCD、ライブ情報、電子書籍やインタビュー掲載誌等、ジャズ、ヴィブラフォン、演奏法、ジャズセオリーと、ジャズやビブラフォンの周りにある様々な疑問も解決するお役立ち情報も満載。
1997年開設以来のユーザーからの様々な質問や情報交換もアーカイブとして保存中。是非一度お立ち寄りください。
( http://www.vibstation.net )



■赤松敏弘 FaceBook ( https://www.facebook.com/akamatsu.toshihiro/ )




■赤松敏弘 Twitter




それでは今日も楽しい一日を!

 


【放送 / ラジオ、テレビ

今週のオンエア (2月10日~2月17日) 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【テレビ】
東京MX2 (地デジ9ch + ▲up)

番組名『ヒーリングタイム&ヘッドライン・ニュース』

癒しの映像+最新のニュース+最良の音楽。

━━━━━━━━━━━━━━
■平日(月〜金) 12:10〜12:29 ■金曜 25:35 都知事定例会見終了後 〜27:00
───────────────────
“路面電車のある風景 - 1”

『NEXT DOOR - NEW LIFE/赤松敏弘』(2020年作)


演奏:赤松敏弘(vib)ハクエイ・キム(p)市原ひかり(tp,flh)酒井麻生代(fl)須川崇志(b)小山太郎(ds)佐々木優樹(g)


━━━━━━━━━━━━━━
■土曜 17:30〜18:00 ■日曜 17:30〜17:38
───────────────────
“ねこの足跡”

21年6月、7月、8月、10月ヴィブラフォン部門【Amazon's Choice】選出作品『NEXT DOOR - birth of the swift jazz/赤松敏弘』(2000年作)


演奏:赤松敏弘(vib)ユキ・アリマサ(p)養父貴(g)新澤健一郎(kb)平石カツミ(b)斉藤純(ds)相内勝雪(mnp)他。

━━━━━━━━━━━━━━
■土曜 5:00〜6:00 ■日曜 5:00〜6:00
───────────────────
“東京点描 城南1”

『SPARKLING EYES/YUKARI』(2021年プロデュース作)


演奏:YUKARI(vib,mar)飯島瑠衣(p)中林董平(b)森永哲則(ds)guest:赤松敏弘(vib)

━━━━━━━━━━━━━━
■平日(月〜金) 27:00〜28:00 ■土曜 28:00〜29:00 / 18:00〜19:00 ■日曜 18:30〜19:00
───────────────────

散歩の風景 夏から秋NEW!

『KALEIDOSCOPE/吉野智子』(2023年プロデュース作)


演奏:吉野智子(vib)雨宮彩葉(p)鉄井孝司(b)小田桐和寛(ds)



首都圏以外の方はこちらの「エムキャス」で全国からスマホやパソコンでリアルタイムにお楽しみいただけます。
★エムキャス→https://mcas.jp/c/mx2.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

昨夏からこちらにブログお引越し。のんびりとやっております。


ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「日記」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事