ばりん3g

マイクラ補足 兼 心理学のつぶやき

やる気は継続的な学習を促し、成績を向上させる。

2022-05-28 | 旧記事群

基本的に、学業成績とやる気(意欲・関心・好奇心)には強固な関係があり、やる気の高さは学業成績の高さとしてあらわれる。

が、そのあらわれ方には少しクセがあり、少なくとも「できる、できる、君ならできる!」と鼓舞するだけではやる気も、やる気による向上も見込めない。

やる気は成績に対する即効かつ即応的な向上策ではなく、その育成と発現にはかなりの時間とコストを要する

 

なぜ時間とコストがかかるのか。

それは、やる気が成績向上に関与するまでの経路に理由がある。

逆引きで答えよう。

まず、成績向上のためには継続的な学習が必要となる。

次に、継続的な学習は無から発生するわけではなく、何かしらの理由、それも対象が納得するような理由が必要となる。

また、対象が納得する理由は外部から与えるよりも、対象自身が見つけ出したほうがはるかに速い。

なので、対象が納得する理由を対象自身が導き出すために、やる気を引き出す必要があるのだ。

 

やる気は基本的に、対象の『自律意志の尊重』『能力の妥当な評価と対策』『拒絶の回避と敬意の表明』が満たされた場合に発生する。

外部から与えられる理由(他者からの提言など)、つまり統制的動機は基本的にやる気の効果を阻害する。が、外部に存在する理由(成績評価など)を必要なものだとして自身に取り込む、いわゆる内在化はやる気を補強する。

そうして発生したやる気は対象なりの学習するための理由を導き出し、継続的な学習を促すようになる。

結果として、継続的な学習が成績向上に結び付くのだ。

 

やる気は継続的な学習を促し、成績を向上させる。

その効果量は対象元来の能力がもたらすそれに負けず劣らずである。

やる気がもたらすものを、甘く見ないほうがいい。

 

 

参考文献

Richard M.Ryan and Edward L.Deci (2020) Intrinsic and extrinsic motivation from a self-determination theory perspective:Definitions, theory, practices, and future directions.

Pedro J Teixeira, Eliana V Carraça et al. (2012) Exercise, physical activity, and self-determination theory A systematic review.

Geneviève Taylor,Tomas Jungert et al. (2014) A self-determination theory approach to predicting school achievement over time the unique role of intrinsic motivation.

Sophie von Stumm(2011) The Hungry Mind Intellectual Curiosity Is the Third Pillar of Academic Performance.


子供の宿題へのやる気を沸かせる、確実な方法と論理。

2022-05-20 | 旧記事群

グループディスカッションや論理的かつ丁寧な受け答えなどの、生徒の自律性を尊重する形式の授業は生徒の授業外の勉強のやる気を上げるという。

この効果は生徒の授業・学業に対する態度や生徒が知覚する自身の能力の高さを介したものであり、平たく言えば勉強に対する考え方が変わったことで授業外の勉強が促されたという。

また、上記の生徒の自律性を尊重する形式の授業は、学問に対する考え方が洗練された教員に多く採用されているという。ここでいう学問に対する洗練された考えとは「知識は絶対的なものではない」「知識は何度も学ばなければ理解できない」などを指す(=洗練された認識論的信念)

 

これに近しい論調として、子供の宿題に対するやる気は、その親がもつ宿題への考え方・態度とそこから現れる学習支援の質にも委ねられるというものがある。

基本的に、学問に対する洗練された考えを持っていること、子供の宿題に積極的にかかわろうとする姿勢が子供のやる気に好影響なのだという。

また、親の最終学歴の高さと子供の宿題の出来には比例した関係性があるが、親の最終学歴の高さと子供の宿題に積極的にかかわろうとする姿勢には特にこれといった関係性はないという。

ちなみに、こういった要因をすっとばして「ただ親に学習支援させる」条件では、すっ飛ばされた要因が原因となり思い通りの結果にならないそうだ。

 

参考文献に限り、親や教員の学問に対する態度は子供に影響を及ぼす。

教員の真摯な受け答えと、親が積極的に宿題にかかわろうとする姿勢が、享受する子供の学問に対する考えを洗練されたものにする。

そして、洗練された考えは勉強持続にこれ以上ない貢献を与え、結果的により良い成績を作るのだ。

……逆に言えば、親や教員の学問に対する態度がお粗末なものであれば、親や教員がどれだけ頑張っても子供のやる気は起こりづらい。まして、ただ「やりなさい」と𠮟りつけるだけなら尚更である。

 

P.S 『勉強の持続』と『学業成績』は、その論点が多少違うことを留意してほしい。

 

 

参考文献

Geneviève Taylor,Tomas Jungert et al. (2014) A self-determination theory approach to predicting school achievement over time the unique role of intrinsic motivation.

Idit Katz,Avi Kaplan et al. (2011) The role of parents' motivation in students' autonomous motivation for doing homework.

Maher Z. Hashweh. (1996) Effects of science teachers' epistemological beliefs in teaching.

Martin S.H,Sarwat,S et al. (2014) Perceived autonomy support and autonomous motivation toward mathematics activities in educational and out-of-school contexts is related to mathematics homework behavior and attainment.

Sandra J. Balli,John F. Wedman et al. (2010) Family Involvement With Middle-Grades Homework Effects of Differential Prompting.


教員の勤務年数は、生徒の出来と関係がない。

2022-05-14 | 旧記事群

生徒の成績に対する影響を基準にした場合、教員の勤務年数は無視していいパラメータとなる(取り上げるまでもない、小さな効力ということ)

教員の知能・認知能力・学歴・学位・免許のグレード・学習時間・給与も同上である。

教員が生徒の成績にもたらす影響において、上記の理由は説明にならないという。

 

逆に、教員教育の内容は無視できないパラメータである

これは、一律の教員教育を受けた教員間の成績差分が主に教師自身や生徒による小さなもの(例えば Thomas J.Kane et al 2006)なのに対し、異なる教員教育を受けた教員間の成績差分が教師自身や生徒によるものでは説明できないほどに大きい(Linda Darling-Hammond 2000)ことから考察されたものである。

具体的には、日本でいう教養学部で必修となるような科目を履修している教員とそうでない教員を比べた場合、圧倒的に前者のほうがより良い指導と成績をもたらすことができるという。

上記にて「学位は無視できるパラメータ」と紹介したが、例外として教育学の単位とその履修は有意に働くことも確認されている。

 

わかりやすいものたとえは『道路』だろうか。

白線が擦れたアスファルトの道と、何車線も通っている国道。

見た目や政治経済的な立ち位置は違えど、どちらも道路としての役割は果たしているため問題なく使用できる。

だが、舗装もされていない林道や人の足でも困難な酷道は道路としての役割を果たせるかどうかが怪しく、事故や通行不可もありうるだろう。

生徒の成績に対する教員の効果も似たことがいえる。

「教育とは何たるか」を最低限でも学んだ教員は学歴や知能の違いはあれど教員としての役目を果たせるため、大きな違いが現れない。

だが、「教育とは何たるか」を学ばなかった教員はその責務を果たせるかどうかが曖昧であり、結果生徒の成績を大きく揺さぶることになる。

 

生徒の成績を基準にした場合、

学歴や勤務年数で教員は語れない。

「教育とは何たるか」を語れるかどうかだ。

 

 

参考文献

Douglas N.Harris and Tim R.Sass (2008) Teacher training, teacher quality and student achievement.

Eric A. Hanushek, John F. Kain et al. (2005) The Market for Teacher Quality.

Linda Darling-Hammond (2000) Teacher Quality and Student Achievement.

Linda J.Graham,Sonia L.J.White et al. (2020) Do teachers’ years of experience make a difference in the quality of teaching?

Thomas J.Kane,Jonah E.Rockoff et al. (2006) What does certification tell us about teacher effectiveness Evidence from New York City.


『やればできる!』は万能ではない。

2022-05-07 | 旧記事群

『やればできる!』という考えは、つね一定数の指示を得てきた。

「やれば成功するんじゃなくて、やれば成長できる。ベストを尽くすことができるんだ」

挑戦に対する前向きな姿勢と成長を第一とする不屈の精神は、普遍的に効果があるものだと信じられてきた。

『やればできる!』という考えが、結果的に成功につながるとも考えられ、焚きつけの言葉として多用された。

 

同じような概念は心理学にも存在し、これを成長マインドセットと呼称する。

成功は才能ありきであり成長などありえないとする固定マインドセットより好ましく、こちらも学業成績に大きな効果をもたらしていると言われてきた。

なんでも、成長を第一とすることで失敗という結果に囚われることなく、むしろ失敗を糧にして学習することができ、結果的に成績につながるのだという

 

こうした理論構築もあり、最近では成長マインドセットの概念を取り入れた教育も広がりつつあるという。フィンランドの教育方針がその筆頭だ。

成績などの結果ではなく、成績を作った過程を評価するという方針は、万人にとっていいものをもたらすだろうと、そう期待され組まれたのだ。

 

だが、事実は一枚岩ではない。

2018年に行われたメタアナリシスによれば、成長マインドセットがもたらす効果は予想されたものよりも限定的で、かつ小さいものだったと主張している。

具体的には、成長マインドセットやそれを促す方針は不登校・引きこもり・社会経済的地位が低いといった脱落も考えられる子に対しては有効であり、その効果量は学業成績の場合『勉強すること』よりもはるかに小さかったという。

また、成長マインドセットは思春期において最も効力が強くなる大学生の成績とは主だった関連性はない、などの研究結果から

成長マインドセットとそれを促す方針は、挫折寸前の子にのみ有効であると筆者は推測する。

 

そもそも、成長マインドセットは挫折に対する考え方であり、学業成績を上げるための策でもなければ、成長を促進させる道具でもない。

同じく、『やればできる!』が論じているのはあくまでも前向きな姿勢と不屈の精神であり、成功の是非には触れられていない。

成功や成績を収めたいのであれば、『やればできる!』と焚きつけるよりも素直に勉強したほうが早いのだ。

 

 

参考文献

Inkeri Rissanen,Elina Kuusisto et al. (2018) In search of a growth mindset pedagogy A case study of one teacher's classroom practices in a Finnish elementary school.

Sisk, Burgoyne et al. (2018) - To What Extent and Under Which Circumstances Are Growth Mind-Sets Important to Academic Achievement Two Meta-Analyses.

Štěpán Bahník and Marek A.Vranka. (2017) Growth mindset is not associated with scholastic aptitude in a large sample of university applicants.

Yeager, D. S., & Dweck, C. S. (2020). What can be learned from growth mindset controversies.


社会心理学は、競馬・競輪から始まった。

2022-05-01 | 旧記事群

集団による個人への影響を考察・実験する社会心理学(心理学的社会心理学)

その始まりはTriplettが1898年に行った実験であるとされているが、

このTriplettの実験は、競馬や競輪におけるひとつの疑問が発端となっている。

 

疑問を簡潔に言うと「競争の有無によるパフォーマンスの差分の原因とは」となる。

スポーツ的な競争を前提としたとき、他人と競い合った時のほうが張り切る人、逆に一人黙々と精進できる人、どちらをとってもあまり変化しない人という、あからさまな違いが発生する。

当時の競馬や競輪でも同じことがいえるらしく、ひとりでタイムアタックに臨むよりも、他人と競い合ったほうが明らかにいい記録が出せる選手がいたという。

「なぜ競馬や競輪において、相手がいるいないでタイムが変わってくるのか」

速さを求める業界において、こういった疑問が呈されるのはそう不思議ではないだろう。

 

この疑問に対して、様々な仮説が立てられた。

中には「相手の車が発した真空によって加速が生じる」とか「回転する車輪と緊張が催眠効果を発生させる」といった、今では考えられないような説も真面目に議論された。

議論のさなか、Triplettは「先に旗がある紐をリールで巻き付け、先にゴールにたどり着いたほうが勝ち」とする競争において、二人で競争させたほうがタイムが縮まりやすいという結果を得た。

この結果から、他者の存在が個人のパフォーマンスに影響を与えると推測され、これがのちに社会的促進と呼ばれる議題となる。

 

社会心理学は、競馬・競輪から始まった。

……過言な気はするが。

 

 

参考文献

Norman Triplett (1898) The Dynamogenic Factors in Pacemaking and Competition.