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アイデンティテイ

2016年06月28日 | word
identity:自我によって統合されたパーソナリティが、社会および文化とどのように相互に作用し合っているかを説明する概念。訳語としては、自己同一性 self identity、自我同一性 ego identity、主体性、自己確認、帰属意識などがある。哲学の分野で用いられることの多かったこのことばが社会学や心理学の分野でも広く使われるようになったのは、管理下の度合を高めていく1960年代、先進産業社会においてあらわれた反抗、とりわけ青年に見られた自己表出現象によってであった。科学技術の高度化と社会構造の複雑化は教育の高度化を要請し、個人の社会的成熟と心身的成熟がますます乖離し、自己探求のための長いモラトリアム期間が必要になってきた。その期間は特有の内面的な危機を伴う。またこの危機は、個人のパーソナリティだけの現象でなく、民族、国家等の集団的な現象についても起こりうる。
 アイデンティティの概念には、大まかにいって二つの使われ方が見られる。一つは個人の他者に対する社会的隔たりに関するものである。人びとは社会的な相互作用のなかで自己と他者との隔たり、すなわち、親密さの度合を操作し、状況を自己にとって有利なものへと導いていこうとする。たとえば、社会生活のなかで他人がむやみに接近し、自分の居場所に侵入してくることを避けるために、よそよそしい言葉づかいやふるまいにより、他者との間に一線を画することが行われる。もう一つの使われ方は、パーソナリティの核心、一貫性、本来性に関係するものである。それは個人においても、集団においても、過去から現在へ、そして未来へという時間的な継続性のもとにあらわれてくる。
 前者の使われ方は、われわれが生きる世界を舞台や劇場にたとえる、ギリシア時代以来長い歴史をもつ演劇論の中にみられ、ケネス・バーク(≪動機の文法≫1945)によって社会学や文化人類学に導入されてきたものである。演劇論は対人関係の葛藤のドラマを描き出しはするが、関係のもとに身を処する当の主体の内面的葛藤、その発達心理については、分析を十分に施していないきらいがある。一方、後者の使われ方は1960年代に広がりをみせた、青年の自己表出現象にひとつの思想的拠り所を与えたエリクソンの考え方が、その代表なものであろう。エリクソンは、アイデンティティを個人の心理的核心を意味するものと考える。個人は社会生活の内でさまざまな役割を課せられており、しかもこれら複数の自分をたえず統合して生きていく。この統合ができなくなる状態を<アイデンティティの危機>という。この危機は発達過程の途上でたえず個人を見舞う。発達過程とは、個人が慣れ親しんだ内と外の世界に変化が生じ、あるいは親しい環境に出会い、そこで葛藤に巻き込まれていくことである。フロイトの力動的な心と体の発達論を継承・発展させることにより、エリクソンは発達における葛藤が個人の社会的広がりの中での心身の成長の力を高める<生きた現実>の過程でもあることを強調する。
 漸次的発達を経る個人の生活史の各段階は社会制度とのかかわりで解決すべき特有の課題や危機を伴わざるをえない。他方、社会もおのおのが特有な制度を形成することにより、人びとの成熟の異なった局面に対処しようとする。こうして、個人のアイデンティティの堅固さと混乱の度合は、社会・文化と個人がどのようにかかわるかを映し出すものとなる。アイデンティティの概念は、社会関係の緊張と個人の内面的緊張を連関させつつ考察する手がかりを与えるものである。