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物語にもならない

へたくそな物語を書く主の部屋

神様の課題  第一章 冥土の土産

2018-10-21 19:53:20 | 物語
 いやはや、地上の動物たちは次々と引退してしまった。
どの動物として輪廻を拒んだため、その分人間の兄弟を増やして地球の均整を保った。
そしてとうとう今現在65億人という膨大な人数になってしまいとうとう神様の目が全ての人間に行き届かなくなってしまったのだ。

ある日、神様はモニターが必要だと考えた。そこで神が自ら雲粘土でこしらえた”空(から)の人”を地上に送り込むことにした。

”空(から)の人”は外見やあらゆる能力については、その国その国の人間の平均値を全てかき集めて作られたので、どこも変なところはないし、また秀でた所があるわけでもない。体系も顔もスタイルも髪の色も目の色も肌の色も頭の良し悪しもその国の平均値で創り上げられた。
一方で人間とまるで異なったところは、心が空っぽなところである。
何も感じないという意味ではないし、空しいという意味でもない。むしろその逆で自我のある人間より敏感に単純に物事を心に取り込んで行くのだ。
人間であるならば何度も地上に輪廻して生まれている為か最初から自我が備わっている。好き嫌いとか、自分がいちばん可愛いとか、思い違いから生まれる嫉妬とか、意にそぐわない者への底意地の悪さとか、他人の考え方は自分と同じだという思い込みとか、勘違いである。色眼鏡も最初からかけて生まれてくるし、考え方に偏りもある。

だが彼ら”空の人”にはそれらが全くないのだ。初めて人間の形をもって地上に生まれる。真っ新な心を持ち地上に降り立つ。その真っ新な心は白紙と同じでなんのゆがみも色もなくどんな偏見も持っていない。
さて、この真っ新な心を持った”空の人”に人間はどのような体験をさせ、どのような気持ちにさせ、そしてどのような仕打ちをしてゆくのだろうか・・・・・・?

遣いA「神様!空の人1012番が帰ってまいりました!」
神「どれ、状態を見せなさい。」
遣いA「こ、こちらです。」
空の人1012の心の中を開けてみると、ドロドロのヘドロが詰まっていました。
神「これはなんだ?」
遣いA「はい。あらゆる人間の悪意が空の人の心をも腐らせたと考えられます。」
神「これが人間の悪意とな・・・・・」

遣いB「神様!空の人3356番も帰ってまいりました」
神「なんと、3356番はまだ送ったばかりじゃないか。人間で言うと15歳くらいじゃぞ?」
遣いB「はい。それが・・・自死のようなのです。」
神「自死??よし原因を探ってみよう」
心を開けてみると、冷たく凍り付いた大きなサボテンがごろりと出てきました。
神「これはなんじゃ?」
遣いB「はい。これは人間の心の棘が空の人の心に突き刺さった結果、自らがサボテンの心を持ったのでしょう。しかしそのサボテンは心の中で成長し、やがて自分を追い詰めたのだと思われます。その上、どういうわけか暖かい人間の心に触れたことがなく凍り付いてしまったのでしょう。彼はどれだけ孤独だったことでしょう?彼は遺書に自分と同じような人を探しているがみつからない寂しい。みんな冷たい。なぜ自分だけこのような人生なのかと嘆いておりました。」
神「なんと。15年間生きてきて一度も人間の温かみに触れなかったというのか・・・」

遣いC「神様!大変です空の人が帰ってまいりましたが、心がなくなっています!」
神「なんだって!?空の心を失くして帰ってくるとは、これいかに?」
遣いC「会う人会う人に嘘をつかれ、それを信じて生きているうちに、いっそのこと、心を失くした方が楽になると思ったのでしょう。」

あくる日もあくる日も、汚いヘドロやネズミの死骸や凍り付いたナイフや粉々に割れた心が帰ってくるばかりでした。
真っ新な何も入っていない心を持たせて地上に送り込むと、このようになってしまうものかと神はショックを覚えました。
結局、2000人ほど帰ってきても、”空の人”たちの心の中には、幸せに生きた形跡が残っていたものはほとんどありませんでした。
徐々に神様は、心に自我がない”空の人”は人間にとってはただのゴミ箱か掛け口かうっぷん晴らしの道具にしかならないのではないかと悟りはじめた。

そこで神は、あるごく普通の人間に夢の中で聞いて回ってみることにしました。

神「おいそこの君、ちょっと聞きたいことがあるんじゃが」
少女A「なあに?だれ?なんでそんな神様みたいな恰好してるの?もうハロウィンだったっけ?」
神「分かりやすい恰好をしてみたんじゃ。それより、ちょっと聞きたいことがある。」
少女A「何?早く聞いてよ。」
神「あなたなら、心が真っ新な人を友達にしたいか?それともいじめたいか?」
少女A「さぁ、そんな人に会ったことないからわかんない。」
神「いや、あなたは会っている。ワシが作った”空の人”名前はそうそう確かカノンと言ったかな。」
少女A「あぁ、この間転校してきた子ね。あの子ちょっとおかしいわよね」
神「何がおかしいんじゃ?」
少女A「何もかもが普通なのに、何も知らないの。自分の意見をあまり言わないし人の悪口を一緒に言ってくれない。だからつまんない。いつも自分だけいい子ぶってイライラするわ。」
神「イライラする?つまらない?なぜ?」
少女A「だってそうじゃない。一緒に誰かの悪口言ってくれないんだもの。一緒にいたずらもしてくれないし、つまらないわ。」
神「はぁ、そんなもんかのう。」
少女A「ねぇ、あなた本当の神様じゃないよね?」
神「本当の神様じゃがなにか?」
少女A「あの子のこといじめたら、私地獄行く?」
神「いや、行かない。」
少女A「な~んだ(笑)」
話が終わったあと、地獄へ行くと言えばよかったのかもと少し後悔した。

続いて空の人3356番と同級生だった一人の少年の夢に出現した。
神「やぁ。君は3356番のことをどう思っていた?」
少年B「どうって?死んだ人の悪口は言えないよ。」
神「これは夢だなにを言っても罰は当たらないよ。」
少年B「・・・・そうだな、少し暗い奴だったよ。でもまさか死ぬなんて」
神「いじめられていたのかな?」
少年B「正直そうだね。」
神「なぜ?いじめる理由は?」
少年B「弱かったから」
神「弱かったから?蟻んこも弱いぞ?」
少年B「はぁ?そりゃそうだけどさ(笑)」
神「なぜ人間は人をいじめるんだい?」
少年B「だって見てるとイライラするんだもん(笑)」
話が終わったあと神は、やはり地獄も創った方がいいのかもと考え始めました。
しかしこれは、愛するべき我が子のただの勘違いであり、輪廻による証でもあるのだからと心を落ち着かせるのだった。

つづく

時間の番人 ~詩にならなかった物語~

2018-04-01 15:33:49 | 物語
 時間の番人は、ただじっと見つめている。
まるで誰かを待っているかのように時間が過ぎるのを待つ。
時間が来るとまた次の時間を待つ。
彼は人の生きる空間を外から見ている。それが彼に与えられた使命だ。

人の存在する空間は、ガラスの箱のようなもので出来ており、時間の糸をたどって通り過ぎてゆく。それはちょうどロープウェイのような姿だ。
1つの箱には一人の人間が入っている。箱の中の人は時間と同時に動くので、番人が手で箱を止めると中の人の動作も止まる。手を放し再び動き始めると中の人間はつづきの動作をする。番人は、けしてその空間の中に手を入れることはできない。
箱の中の人間から彼を見ることはできない。なぜなら、番人の世界は人間たちの世界よりずっと大きいからだ。それはちょうど人間が普段地球の上にいることを忘れるのと同じこと。海が広すぎてその形を見ることができないのと同じこと。大きすぎるものは小さすぎるものと同じく、全体像を見ることはできないのだ。
人同士が出会ったときは糸が交じり合い、空間が合体し、同時に進む。普段みな別々の速度で進んでいる時間の糸を、コンサート等ではかなりの空間と糸が交じり合い同時に進むのだ。終わるとキレイに離れて元の位置に戻ってゆく。

レールとなる糸は下から見ると円を描いている。もしも真っ直ぐだったらどれだけ長くしなければならないことか。
しかし、かといって実は同じ円上をくるくる回っているのではない。横から見ると、螺旋階段のように上へ上へと少しずつ登ってゆくのが分かる。
螺旋状の糸のはじまりと終わりはどこか分からないし、あるのかさえ知らない。あくまでも彼に与えられた仕事はこの場所で人間の空間を観察し、レポートを書くことだ。

人間は皆、人生の大きな分岐点で大きな選択をしながら生きている。その時に糸の円軌道はズレる。
言い換えれば、螺旋状の糸に枝が生えてガラスのゴンドラはそちらに移動してゆく。移動した後いらなくなった方の糸の枝は、分岐点から少しだけ伸びるとそこで終わる。
実は必ずしも大きな分岐点ばかりが未来を変えるのではない。日常のなんでもない行動でも、ちょっとした瞬時の未来は変わっているのだ。
例えば、靴を左右どちらから履くかとか、腕時計をしてゆくかしてゆかないかそんなことで、ちょっとした瞬時の未来が変わることもある。そんな時には、糸1本分もズレないので、小さな糸のほつれ程度の枝を残す。
時間の番人はそれらの現象をチェックしている。
番人たちは毎月一回集まって、観察してきたものや糸がどちがの方向へ行ったかを報告し合うのだ。
彼らの最終目的は、その時間の糸の行方を計算式にすることである。時にはある人間がもしも別な行動をとったらどうなっていたかのシミレーションをすることもあった。
時間の糸の行方は運命であり、運命は木の枝分かれに似ている。木の枝分かれは細胞の単位で決められているのかもしれないし、DNA単位で決められているのかもしれない。そこに環境や負荷が加わって決まる。時間の糸もまるで生き物のように枝分かれし、思いもかけない方向へ伸びてゆくので、それを計算式にすることは至難の業だった。

 あるとき、一人の女がどこまで時間の糸を進んでも動かなかった。お経を読むでもなく、眠るでもなくただ座っている。その人間は止まったままで、まるで死んでいるように見えるが死んではいない。もしも死んでいたなら彼女を包むガラスの空間は一瞬にして消えるはずだからだ。
その姿はまるで、自分が何もしなかったらどうなるかを実験しているように見えた。その人間を何日も見ているうちに番人は思った。「この人間はもしかして、動かないことでこちらに何かを訴えかけているのではなかろうか?」と。
時間の番人はその人の夢と現実のはざまに入り込んで話を聞いてみることにした。
「やぁ、こんにちは。私が見えるか?君は何をしているの?なんで動かないの?」
「あ、こんにちは。やっと会えましたね。嬉しいです。」
「存在を感じてた?」
「はい。日々感じていました。」
「何か訴えかけたいことがあるのかい?」
「ええ。あのぉ、私にできることがあったら教えてほしいのです。」
「できること?例えば?」
「はい。私は家族とこの地球を愛しています。私の身の回りの人々の未来をより良くするためには、私はどう動けばいいですか?」
「それは難しい質問だね。貴方は、僕がなんでも知っていると思っている?」
「はい。違うんですか?」
「違うね。僕はただ時間を見守っているだけ。どうすればどうなるかっていうのは、僕たちにも分からないんだ。すごく緻密な計算が必要だからね。」
「計算?」
「そう、例えば、人間は細胞で生きているよね?細胞の全てを計算しないと将来どんな病気になるかわからない。だけどそれを計算するには多大な時間が必要だ。君にできるかい?」
「いえ。私には無理です。」女は残念そうにうつむいた。
彼女の落胆ぶりを見て彼は続けてこう言った。「でも、何とかすることはできるかもしれない。例えば、君に僕たちが作ったシミレーションを見る力を与えたなら、君はその未来を拒否したり受け入れたりすることができるだろう。その力なら上げられるよ。」
「本当ですか!?くださいぜひください!」女は目を輝かせて言った。
「分かった。じゃあ明日の晩からこんな風に夢と現実のはざまで見られるようにしてあげようか。そうだなぁ、見させてあげるのは翌日の出来事でいいかい?」
「はい。十分ですありがとうございます。」
女ははっと我に返った。眠っていたわけではなかったのだが不思議な夢を見たと思った。
その日から女は動き始めた。どうやら時間の番人との会話を信じてみることにしたらしい。まずは働きに出た。久しく仕事をしていなかった為、職場の雰囲気に溶け込むのにとても神経を使って疲れ果て、その夜はベッドに入るなりすぐに夢と現実のはざまに入った。
そして時間の番人が用意しておいてくれたシミレーションを見た。職場の上司が出先で車に轢かれ足を骨折するという場面だ。それはまるでTVの画面を見ているように色が鮮明でその時の自分の気持ちすら手に取るように分かる。自分もそこにいて画面はそれを見ている自分の視線だ。
女はそれを見ながら、自分は明日この上司と外出するんだと感じた。そしてそれを止めるにはどうしたらいいか考えた。自分は入ったばかりの新米だから上司の外出を止めることはできないし、休むわけにもいかない。シミレーションが終わってからしばらく考えた。
ふと場面の中で自分が着ていた服の色を思い出した。(そうだ自分がその色の服を着てゆかなければ、上司は事故にあわないかもしれない)と女は考えた。場面は一瞬しかなかったが、その不幸を避けるための要素はみつかったのかもしれなかった。

翌朝、女は夢で着ていた服とは違う色の服を着て職場へ行った。
今日は外回りの仕事だから外出するぞと上司が言った。女は、はいと言って、言われる通りに必要なものを持ち一緒に外出した。これからあの場面が繰り広げられるんだとドキドキした。二人は徒歩5分の最寄りの駅まで歩く。ふと行き交う車の色や人々、背景が夢と現実のはざまで見たあの場面と一致した。次の瞬間、青になった信号を渡ろうとすると右からものすごい速さで黒い車が走ってきた。その車は前を歩いていた上司の目と鼻の先を走り抜けて行ってしまった。
女は突然の出来事にドキッとしたが、次の瞬間に上司も自分も助かったことに喜びを感じた。そして自分の判断は間違っていなかったと実感した。上司は、助かったことをいいことに車に向かって悪態をついていた。
それを見ていた時間の番人は「お、いいぞ。なかなかいい勘してる。」と笑みをこぼしてひとりごとを言った。
しかしこのことが、他の人間にしわ寄せが行くことになるとは考えていなかった。糸のほつれ程度で終わる出来事だと思っていたのだが違っていた。

 異変が起きたのはその数時間後のことだ。ある人の糸をあの女の糸が邪魔して絡まった。そしてひとつの空間を消滅させた。会うはずのない人間同士の糸が絡まると、どちらかが消滅してしまうのだ。中の人間は神隠しのように現実の世の中から消えた。あの女の枝別れの犠牲になったとでも言おうか。
その余波で、枝分かれしないはずだった他の糸が軌道を変え、他の糸へまた他との糸へとドミノ倒しのように影響しあった。
いつのまにか消滅していたり、あり得ないことに他人の糸に無理やり移って現在を行く本物のの空間よりちょっとだけの過去を進むゴンドラすら現れた。ちょっとだけというのは『あ』という間くらいの過去だ。
過去を生きる人間は、デジャブが起きてしまい違和感を感じながらも日々を送ることになる。
「大問題が起きてしまった。今まで秩序よく整然と稼働していたガラスのゴンドラが、めちゃくちゃになってきたのだ。」
時間の番人は、その夜から女に未来のシミレーションを見せることをやめることにした。余波は少々続いたものの、異変は止まった。
それから他人の時間の糸の過去を辿っている人の空間を、空いている糸に移してあげた。消滅してしまった空間は戻らなかったが、せめて生き残った空間を救うためだ。新しい糸に移った人間は急になんとなく変わってしまった時間の流れの雰囲気に戸惑いながらも今までと同じように生きようと努力していた。番人は彼らが馴れるまで見守った。

時間の番人は二度と過ちを犯さぬよう人間の願いを聞くのをやめた。
そして一人の人間にシミレーションを見せて未来を変えようとすると、他の無関係な誰かに響いてしまうことを発見した。その影響も詳細にレポートに書いた。書き終える寸前ふとペンを止めた。そして「もしかしたら、今回自分がやったことはその上の次元の世界では計算されていた時間の動きだったかもしれない」と思った。
そう、あの女が番人の存在をどこかで感じてたのと同じように、番人もどこかで感じはじめているのだ。現に時間の番人は、時間の糸のはじまりとおわりを知らない。彼の空間がどこまで広がっているのかも知らない。もしかすると、螺旋の糸はさらに螺旋状になっており、より大きすぎて見えない存在が、より大きすぎる空間の中で彼を載せたガラスのゴンドラを見守っているのかもしれなかった。


   おわり

もうひとつ

2018-03-27 12:24:49 | 物語
 裏地球の人々の主な意思疎通は音楽でした。全ての大人が作曲家であり何らかの楽器を弾くことができました。
子供の頃はまだ楽器が弾けない人が多いので、声をメロディにして表します。それと同時に小さい頃から楽器の練習をします。ですから上達した人ほど流暢に意思疎通ができる社会でした。なんらかの原因で楽器を弾くことが難しい人は、声で音楽を奏でました。
ある子供はバイオリン、ある子どもは鍵盤楽器、ある子どもはマラカス、ある子どもはトランペット、ある子どもは声、という具合で一生懸命練習しましたので、表の地球から見たらこの惑星の大人は唄か楽器のプロということになるのですが、そこではそれが普通のことでした。
そして、自分のできない楽器を奏でる人を尊敬しその音色を尊重しました。ここでは、楽器の音色は”個性”であり即興で作られた曲は”表現”なのです。

人々は、陽が沈むと起きて朝日が昇るころ家に帰り太陽が頂点に到達するころ眠りにつきました。ですから、目もそのように発達していて暗闇でも見ることができました。太陽の光は眠りのサインであり、西日が照る頃にはみな深く深く眠っていました。
鳥のさえずりを聞きながら眠りにつきます。動物たちの鳴き声は人の言葉と同じようなものだったので動物との意思疎通もよくできていました。

 表地球と裏地球、両方の日本という国に少女エリカがいます。二人のエリカは同じ顔、同じ性格、同じ脳の構造を持っています。要するにDNAも生まれた日も両親も同じです。同じ人ですが別の惑星に住む別人なのです。
そして、裏地球にはエリカだけでなく表地球にいる人たち全員の別人が存在していました。ただしこの惑星では、だいたいの人が表地球とは逆の人生を作り出し生きることが多いようです。
表地球も裏地球も性別は同じですが、表地球でお金持ちな人が貧乏だったり、表地球でモテる人はモテなかったり、表地球で幸せな時間を過ごしている人は不幸な時間を過ごしすということはよくあることでした。
表地球で素直な人といえば人の言う事をすぐに飲み込める人ですが、裏地球では、自分の気持ちに正直な人が真に素直な人なのです。言ってみれば、裏地球は表地球の鏡のような惑星なのでした。

 表地球のエリカは、いじめられていつも一人ぼっちでした。吹奏楽部に入ってホルンを吹いていますが、全然うまくなりません。元々音楽は好きでしたが、なんとなく自分にホルンは合ってない気がして練習をさぼり勝ちになりました。
そして教室では、エリカが自己主張をしない性格なのをいいことに、皆に無視されたり知らないうちに教科書に落書きされたり、体育着を隠されたりSNSの書き込みで”死ねばいいのに(笑)”と書かれたりして見えないいやがらせを沢山されてきました。
エリカは疲れてきました。「私が何を悪い事をしたというのだろう?それに自分はいったいなんのために生まれてきたのだろう?いじめられるため?それとも、神様は私を自死に追い込みたいのだろうか?」そんな疑問まで生まれてくるくらい、辛く苦しい日々を過ごしていました。
家に帰っても、フルタイムで働いている母親にいじめられていることは言えませんでしたので本当に孤独な心を持っていました。

一方、裏地球のエリカは学校でいじめられていませんでした。
エリカの楽器はギターでしたが、この惑星ではほとんどの人がギターを弾こうと思わなかったので、一目置かれたのです。
そしていつも一人でいられるエリカを皆は尊敬していました。大抵、中学生くらいになると誰かとセッションを組みたがるのですが、エリカだけはギター1本でドラムの音や、ピアノの音や、ハープの音や、動物の鳴き声や、海の波の様な音や、ベースの音を作り出し、別の楽器と一緒でなくてもりっぱに1曲を奏でることができたので、皆は尊敬のまなざしで彼女を見ました。
エリカはいつも手持ちのギターで沢山の曲を作って自分の世界を表現し人々を圧倒させました。
感動と共感の拍手で皆の尊敬の念が伝わってくるので、一人ぼっちでも全然寂しくありませんでした。むしろ一人でそれだけの音が出せることを誇りに思ったのです。

 ある国に、表の地球で戦争に巻き込まれている少年ギッチがいました。彼の家は農家でしたが砲撃でなくなり、家族もどこかへバラバラになっていました。戦争を起こした人を憎み、自分もいつか兵士になって敵国に復讐をしてやろうと考えました。それに生きてゆくには、子供兵士になって大人から食べ物をもらうしかなかったのです。
一方裏地球のギッチは、農作物を作る中流家庭の普通の少年でした。彼はあまり楽器がうまくなかったけれど、働いているうちに農機具で音を奏でることを覚えたのでした。
休憩タイムになると皆に”農楽器”を披露しました。そして母親が作ってくれたお弁当を食べました。太陽が昇ると、父の作ってくれた家に帰って暖かいベッドに入り、いつか親孝行ができる日を夢見て眠りにつきました。

表地球では戦争が絶えませんでしたが、裏地球には戦争がありませんでした。ハッキリとした理由はわかりませんが、討論も喧嘩も音楽だったからかもしれません。
感情を表現するために新しく作り出されたすごいフレーズが奏でられると、皆感動してしまうせいかもしれません。それに、人を殴る人もほとんどいません。それは多分、手に持っている大切な楽器が壊れてしまったり、身体を負傷して奏でることができなくなったら困るからでしょう。
武器を作るくらいなら楽器を作る方が儲かりました。武器工場はあっても動物の狩りに使う為のライフルを作るくらいだったので、あまり稼働することはありませんでした。
その代わりそこら中に楽器職人がいましたので、表地球で武器を作っている人が裏地球では楽器職人の弟子だったり楽器工場で働いていることが多くありました。耳を澄まして微妙な音を調節するので、耳は大事なものとなり大きな音のする大砲や機関銃を嫌いました。

裏地球の人々にとって音は言葉です。音楽は特別なものではなく自己主張であり、社交礼儀であり、気持ちの表現であり、愛を伝える道具でした。試しに音楽を録音して売っても売れません。楽譜は大切な人への手紙であり、けして後世に残すための物や世の中に広めるためのものでもありませんでした。
誰かがオリジナルで奏でた音楽が遠く離れた他の誰かのオリジナルかもしれないから、わざわざ残すという野暮なことはしなかったのです。表地球で日常会話を録音したり書きだしたりしないのと同じことです。
その代わり裏地球では、言葉の組み合わせでできた詩は高く売れました。情緒を言葉で表現したものは珍しかったからです。
教科書はもちろん文字で書かれていますし新聞もありましたが、言葉(文字)はあくまでも事実を語るものであって、感情を表すものではなかったのです。しかし国が変わると意味が分からなくなったのが言葉の難点でした。

表地球で武器工場の社長をしている人は、裏地球ではホームレスでした。なぜかというと、破壊することばかり考えており、自分でモノづくりをする心がなかったし楽器をうまく弾ける人を妬んでいたからです。特に優しい音楽が嫌いで、楽器を壊すような大きな音や行動を好み人々から煙たがられたため、結婚も仕事もうまくいかなかったのです。
大統領は詩を載せた音楽で演説しましたが、時々後になって自ら作った詩と曲でないと判明した時は大問題になりました。自分の真実を語らない大統領は許されず、容赦なく国民から首にされました。

星や月の美しさを音楽にしたり、風や雷を音で表現したり、色を音で表現したり、裏地球では毎日毎日、音楽は香りのようにどこからともなく聞こえてきては消えてゆきました。人々が言葉を簡単にしゃべらない世界は、いじめはあっても戦争のない世界でした。自分に正直な音の世界は、正直でない人が生きづらい世界だったのです。
耳障りの良い心地よい曲は暫くもてはやされましたが、それが誰かの真実から奏でられた音楽でなかったと気づき始めると消滅してゆきました。
日々の中で、不変で永遠なる音楽を作り出す者もありましたが、それは香りか煙のように一瞬にして消えてゆくのでした。それが裏地球の日常です。
裏地球はすごく近くにありますが、望遠鏡でも見えない場所にあります。同じ軌道を行き、同じ動きをして同じ回転をしていますがみつかりません。太陽という偉大なる恵みのまぶしく輝く存在は、それを見つけることを永遠に遮り、表地球と裏地球は互いの存在を知ることはないのです。


    おわり


坊主頭の散髪屋

2018-03-24 13:49:15 | 物語
ある時 おしゃれ好きな散髪屋がいました。
その散髪屋は街でたったひとつの散髪屋なので、正月以外休みはありませんでした。
散髪屋はみんなの髪型をとてもカッコよくまたは美しくしてくれました。
散髪屋はずっとずっと仕事をしているうちに、客が心の中に描いている理想の髪型を読み取ることができるようになりました。
エレガントになりたいけど私には無理よねと思っている自信なさげなご婦人の髪型を見事エレガントにしてあげたり、カッコよくしてほしいけど忙しくて手入れができない中年の男性には手入れいらずのカッコイイ髪型にしてあげました。
そんなある日、珍しく客が途絶えて鏡にふと目をやり映った自分を久しぶりに見ると、なんとも汚いぼさぼさ頭と長い髭が生えていることに気づきました。
「これは大変だ。散髪屋のオレがこれじゃあ面目ない」

翌日、自分の髪を切るために1日だけ店をお休みにしました。
しかし自分で自分の髪を切ろうとするとなかなかうまくいきません。
後ろが見えなくて変な形になったり、右サイドと左サイドと同じ角度で切れなくてちぐはぐになったりして四苦八苦していました。
そこへ友人の魚屋さんが通りかかりました。
「こんにちは」珍しく店が休みになってるので体調でも崩したのかと心配になって覗いてみたのです。
「おぉ いいところに来てくれた。悪いけど僕の髪を切ってくれないか?」散髪屋は友人にいいました。
「え?俺が?髪を切るのは君の専門だろ?俺にはできないよ」
「でもお願いだやってくれ。自分じゃ全然うまく切れないんだよ。代金はちゃんと払うから」
「そういわれてもね」魚屋は困って断りましたが、どうしてもという彼のお願いにそれ以上断りきれず髪を切ってあげることにしました。
魚屋は散髪屋が言葉でいうとおりに一生懸命切りました。しかしやはり上手くいきません。結果、散髪屋の髪型はガタガタのちんちくりんな髪型になってしまいました。
魚屋が髪を切り終わると、散髪屋はやってもらったお礼を言いました。そして友人の魚屋さんに散髪代を支払おうとしまたが魚屋はそれを断り、うちの魚を買いに来てくれればいいよと言って帰りました。
散髪屋はこの髪型じゃあカッコ悪いとも思いましたが、切りなおすことは友人に悪いと思ってそのままにしました。

翌日から散髪屋を再開しました。
しかし、客は店に入ってくるもののに散髪屋の姿を見たとたんにそそくさと帰ってしまうのです。何人も何人もそのように帰ってしまうので、散髪屋は困ってしまいました。

客の心はこうでした。
『いつもの散髪屋さんがいなくなった。それになんだかへんちくりんな髪型した人が立っている。あの人に切ってもらったらあんな髪型になるんじゃないか?』

友人の魚屋にせっかく無理を言って切ってもらったのですが、客足が遠のいては生活ができなくなります。散髪屋は、意を決してバリカンを手に取り坊主頭にしました。それでも客足が戻らなかったので店から離れて客を探しに行くことにしました。
すると、徐々に「あの坊主頭の散髪屋は上手だ」「あの坊主頭の散髪屋は、まるで手に取るようにこちらの理想の髪型をわかってくれる」とい噂さが広まりました。
髪を切り終わると自分の店の名刺を差し出し宣伝しましたので、徐々にまた店に来る客が増え始めました。
そして、店が繁盛し始めると同時に彼の髪が伸び始めてきました。髪が伸びると、今度は「あの坊主頭の散髪屋はどこ行ったの?君で大丈夫?」などと言う客が増えてきましたので、散髪屋は再び坊主頭にしました。本当は自分の好きな髪型にしたかったのですが、ずっとずっとできませんでした。
散髪屋はいつのまにか”坊主頭の散髪屋”として有名になってしまいました。
ある客は言いました。
「君は髪の毛が生えないの?」
「いいえそんなことはありません。髪は生えてきますよ。」
「散髪屋さんならもうちょっとおしゃれにした方がいいんじゃないの?」
「確かにそうなんですけど、私の髪を切ってくれる人がいないんです。」
「あ、なるほどね!」
別の客でもそんなやりとりがよくありました。
客から言わせると、散髪屋なのだからおしゃれな髪型にしているのが普通だと言うのでしょうが、散髪屋から言わせると、この町で自分だけが散髪屋だからおしゃれな髪型ができないんだよということになります。
散髪屋のしたい髪型を誰も読み取ってはくれないし、上手く切れる人もいないのです。そんなこんなで、散髪屋はおしゃれができないまま一生坊主頭で過ごしましたとさ。

 おわり



2018-03-20 18:01:17 | 物語
目を開けて初めて 今まで目を閉じていたんだと気づく
日の当たる場所に出て初めて 日陰にいたんだと気づく

「なぜ心を閉ざすの?」と聞かれても わからない
「閉ざしているつもりはない」と言っても君にはわからないだろう?
「笑ってごらん」と言われれば笑うことも出来るよ 
でも一人になったとき その分を泣いて過ごすより
一緒にいて 笑わないで しゃべらないでもいい時間がほしい

窓の外はいつも騒がしい 
孤独が好きなわけじゃないけれど そこに溶け込める気がしないんだ
いつも晴れていてめったに雨は降らない
木々も道も人も鳥も街もみんな輝いている まぶしいくらい輝いている

「人は人だよ」って誰かが言う
「これは私の意見なんだけど」と誰かが言う

そんなの知ってるよ 知らないのはそれを言ってる君の方じゃないの?

僕が心を閉ざしてるって?そんなことはないよ
ちゃんと言えるし喜怒哀楽もある
ただひとつ 自分の自然を守るために必要以上に開かないだけ
理解してくれるであろう人がみつかるまでね

それまで僕は待つだろう 石のように土のように
全てのものが通り過ぎても 風が吹いても水が流れても
僕はずっと待つだろう なぜならそれしかできないから
僕はそれまでずっと この未完成な世界を保たなければならない