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メディア化するポータルが瀕死の雑誌を飲み込もうとしている

2008年10月12日 18時44分14秒 | 電子書籍
大手ポータルが雑誌との連携に積極的だ。ヤフーはタグボードと組んで「XBrand」というサイトで主要10雑誌と提携して各雑誌の内容を紹介している。マイクロソフトはマガジンハウスと組んで「MSNマガジンサーチ」を開始し、「Hanako」、「Tarzan」、「クロワッサン」などのバックナンバーを閲覧できるようにした。

 手法は違うがそれぞれ人気雑誌のコンテンツをポータルに取り込もうとしている。出版社が各社のホームページで雑誌の立ち読みやバックナンバーの閲覧ができるようにしている場合もあるが、やはり大手ポータルのように人の集まる場所に出版社の垣根を越えて一覧できる方がユーザーにとって圧倒的な利便性がある。

 雑誌を発行する出版社は、崩壊しつつあるビジネスモデルの再生を電子媒体に求め、ポータルはより多くの集客を雑誌コンテンツに求める。ポータルはこれまでもニュースや天気予報などの一般的な情報コンテンツを新聞社などとの提携で集めていたが、ここにきてよりリッチなコンテンツを自らのサイトに導入しようとしている。

 問題山積みの出版界の中で雑誌がいち早く動き始めているのには理由がある。販売部数は減り、広告が取れなくなってきている雑誌は出版の中でも生き残り戦略の緊急性が高い。

 2007年、インターネット広告費が雑誌広告費を超えたが、それは単なる象徴としての出来事でしかなく、事態はより深刻である。つまり販売部数が激減し広告が取れなくなったということは、マス媒体としての雑誌の存在が問われているということだ。

 元々雑誌はマス媒体とミニ媒体の中間を漂っているような存在であった。テレビや新聞のようなマス媒体としての性格と対象に深く切り込むミニ媒体またはターゲットメディアとしての性格を合わせ持っていた。

 それがインターネットの台頭により、そのどちらにもなりきれずに漂流を始めたといえる。多くの雑誌が今年も消えていこうとしている。それも歴史のあるユニークな視点を持った雑誌が廃刊されていく。

 結論としては紙媒体の雑誌の多くは何らかの形で電子媒体に移行せざるをえず、同時にその電子雑誌は広告モデルに重心をおいた無料化へ大きく舵を切ることになるだろう。

 インプレスは毎年「電子書籍ビジネス調査報告書」の中で電子出版市場の規模を計っているが、2008年3月度での市場規模は355億円で前年比2 倍近くの伸びを示している。その中で特に伸びているのは携帯電話向けコンテンツだ。携帯電話向けコンテンツ市場は前年比2.5倍の伸びで283億円である。つまりPC向けの電子出版市場はほぼ横ばいの72億円である。

 7月に行われたデジタルパブリッシングフェアでも携帯電話向けコンテンツ制作ツールやサービスは大きなスペースを占めていた。特に今年はフェアの期間中にソフトバンクがiPhone 3Gの発売を開始したため、ショーの中でもいくつかのブースで実際にiPhone にコンテンツを配信するデモを行い、多くの人を集めていた。

 だがPC上での電子雑誌のビジネスはまだ始まったばかりで、そのリッチなコンテンツの表現を考えると実際には携帯電話以上のビジネスチャンスが考えられる。ただその場合、ビジネスの主戦場は単に紙媒体上のコンテンツを電子紙芝居にしたものだけではない。
最近の主な電子雑誌の動き

 ポータルとの連携以外でも雑誌社は各社とも電子メディアでのビジネス展開を積極的に始めている。主婦の友社の「ef」は電子媒体専門の雑誌だ。

 マガジンハウスは自社のサイトで最新雑誌の一部を見本誌という形で公開している。小学館は「Sook」というサイトで電子雑誌を公開している。「Fujisan.co.jp」は従来からの雑誌の定期購読売りと同時に電子雑誌の配信も始めている。

 10月からはスクエア・エニックスが「ガンガンONLINE」というサイトで電子雑誌を始める。これは彼らの持っているゲームのユーザーとコンテンツをベースにしたビジネスだ。もともとのコンテンツがPC上でのサービスを前提にしていることから、電子雑誌に移行した場合でもその誘導は非常にスムーズである。

雑誌の生き残り戦略の基本となるのは電子媒体でのビジネス展開である。従来、紙媒体での販売減少を恐れて電子媒体への取り組みが遅れがちであったが、最近は各出版社とも積極的に電子媒体での配信に意欲を見せている。

 現在見ることのできる電子雑誌のほとんどは既存の紙媒体の編集やデザインをそのまま電子的な紙芝居にしたものだ。Fujisan.co.jpは米国Zinio社のシステムを使っていたが、現在は他の電子雑誌と同様に紙媒体のページ情報を画像にしたものをFlash形式で配信している。

 電子雑誌のビューアーには各社いろいろ工夫を凝らしている。閲覧のためのボタンや3Dアニメーションを使ったページめくりなど、これまでになかったユーザーエクスペリエンスを実現している。ユーザーのモニターのサイズに依存するが、15インチ以上でSVGA以上の解像度があれば、閲覧するのにそんなに苦労はしない。ビュアーによって、拡大縮小機能や検索機能などに差があるがおおむね同等といえる。
著作権管理(DRM)はどうなっているのか?

 一部の例を除いて現在のところ電子雑誌にはDRM(Digital Rights Management)は施されておらず、出版社にとって懸案事項となっているようだ。

 今のところ、見本誌として一部分のみを電子化したり、バックナンバーのみを公開したりしているのも、まだ紙媒体の販売を第一に考えているからであろう。efなどの電子媒体のみの場合は紙媒体の販売を気にすることはないのだが、完全無料ではなく有料モデルになっている場合はDRMを考慮しなくてはならない。

 DRMが必要になるのは有料コンテンツの流通のコントロールと同時に、コンテンツの著作権や肖像権の保護のためである。通常、著作権者との契約が紙媒体だけの場合、電子媒体で配布することができない。電子媒体を契約に含めようとすると契約金額が上がるか契約ができないこともある。出版社でコントロールできる編集ページの場合はまだいいが、広告ページの場合はその権利関係の処理が問題になる。

 以前、R25がFujisan.co.jpで紙紙面のまま配信された時も、広告ページだけは空白でなんとも間の抜けたコンテンツであった。R25はその後すぐに紙面のままの配信を止めて、今はウェブサイトとしての展開をしている。

 朝日新聞出版のAERAが今、同じようにFujisan.co.jpで配信しているが、R25同様に広告ページが空白になっている。AERAはもともと有料のコンテンツだが、R25の場合フリーペーパーということで広告抜きの配信というのがどういった意味を持つのか疑問だった。

 このように紙媒体の紙面そのままで電子化する場合にはいくつかの壁があるのだが、企画、編集の段階から電子配布を前提として著者やカメラマン、または広告代理店との契約を処理すれば問題ない。

 現状ではそこまで本腰を入れて電子媒体を真剣に考えている雑誌は少ないために、どうしても曖昧な電子化ということになってしまう。紙媒体と電子媒体を総合的に考えたビジネスモデルが存在せず、取材や編集にかけるコスト、載せる広告の適正な価格などが未開拓だというのが現実だ。

 実際、どの雑誌もまだ本格的にビジネスモデルを変革するところまで達していない。ただし、これまでと大きく違うのは各出版社の危機感が感じられることだ。ここにきて歴史のある著名な雑誌が次々と休刊になっている。「主婦の友」、「広告批評」などだ。

 これらの雑誌はそれぞれユニークな視点と取材ノウハウを持った雑誌だが、落ち込む販売部数と広告費減少の前にはどうすることもできなかったのだろう。

 現在のところまだ電子雑誌としての成功例を語るには早すぎる。出版社、広告代理店、インターネットポータルなどの各社が新しいビジネスモデルの構築を目指して試行錯誤している段階だ。

 電子雑誌はともするとビューアーの機能に眼が行ってしまいがちだが、ビジネスモデルの根幹はコンテンツの内容と広告モデル、そしてコンテンツの内容に基づく他のビジネスへの広がりをどのように築くことができるかがポイントになるだろう。

 雑誌で紹介された物品をすぐに購入できるサービスやコンテンツの内容にマッチした広告、それもダイナミックに変更挿入される広告などが考えられる。そして広告の効果測定の技術が組み込まれることにより紙媒体とは決定的に違う、広告主にとってより理想的な媒体に成長する可能性がある。

 DRM技術もこれらのビジネスの変化に対応することが要求されている。単にコンテンツの複製を抑制し不正利用を防ぐだけの技術ではなく、より魅力的な電子コンテンツビジネスが生まれるような基盤を提供するものになる必要がある。DRMそのものについての議論は様々に行われているが、それらについても少しずつ触れていきたい。


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