岐阜多治見テニス練習会 Ⅱ

脚力を試す

一昔前と比べて、自分の脚力がどれだけ衰えたか。それを調査(体験)するために、僕はきょうザックを背負って家を出た。

昔と同じように自宅から多治見駅まで歩いた。昔と同じように「失われた時を求めて」をザックの中に忍ばせていたが、昔と同じようには取り出して読むことはしなかった。中央線下りの風景は、上りの通勤電車の窓から眺める見慣れた風景とは違っていたから。ついでに言えば、方向こそ違え僕はいつもの通勤時間帯の電車に乗った。通勤通学の乗客が多かったに違いない。電車内の混雑度は、やはり下り線の方が低かった。その点の違いが影響しているのだろうか、上り線の通勤通学の乗客の顔の表情と比べると、下り線の通勤通学の乗客の顔の表情には、何か角々しさが少ないように感じられた。

   山奥に
   向かう電車は
   バラ色さ。

2013年5月10日午前8時6分中津川駅到着。例により、和菓子店「すや」に向かい、栗饅頭を購入。「すや」を8時27分に出発。用心して、30分に一度は小休憩を取る心積もりで歩き出した。落合宿、十曲峠、順調。「なんじゃもんじゃの杜」で、そのヒトツバタゴの高木を見上げたが、白い花はまだ一つも咲いていなかった。馬籠宿に11時到着。すぐにソフトクリームを買い求め、舐めた。旅装は短パン、半袖シャツだった。昼までは日差しもあり暑かった。

馬籠宿を出た途端、右足付け根が少し痛くなった。すぐに休憩。ストレッチをする。

右足の疲れを癒す時間を取るためにも、馬籠宿の外れにある喫茶店Jで昼飯(山菜の天麩羅とざる蕎麦)を食べることにした。食事中、問われるままに店主や常連客とほんの少々言葉を交わした。客の一人は農婦なのか、農作業中なのか、泥の付着した白い長靴を履いていた。勘定を払って店を出る時、店主は無論のこと、地元客のおばさんからも「気を付けて」と挨拶を受けた。

満腹。喫茶店Jを12時半出発。馬籠峠(標高801m)を越えると、一気に妻籠宿まで歩いた。途中、一石栃番所跡(立場茶屋)の前で、その番人のおじさんから「お茶を飲んでいきませんか」と声を掛けられた。周りの枝垂れ桜は花盛りだ。以前ここで杖を買ったことがあるので、茶代は無料ということも分かっていたが、空模様が気になっていたので、断って先を急いだ。妻籠宿に1時54分到着。無料休憩所で靴を脱ぎ、足を休めた。足の付け根の痛みは強くはならずに済んだ。

馬籠でも妻籠でも、数年前は中国系の観光客が多数を占めていたが、今年はゼロだった。擦れ違った観光客の10人中9人は欧米系の外国人だった。日本人で目に着いたのは観光バスで移動する団体客だった。

南木曽駅に3時7分無事到着。駅近くのスーパーで地酒を買った後、3時54分発の特急しなの大阪行きに乗った。車内放送が言った。次の多治見駅到着予定時刻は4時5分。たった9分で中津川駅に着くということか。僕は驚いた。行きは、二本の足で山道を7時間かけて歩いた。帰りは、特急電車で9分。車内では地酒の封を切って飲みたい気も起ったが、我慢してプルーストを広げた。

一昔前は、中津川と南木曽の間22キロを、あんパンを齧りながらノンストップで歩いたこともあった。きょうは、もうそんな脚力は自分にはないし、その復活も見込めないということが分かった。前を向いて項垂れずに歩くこと、きょう自分が山中で時々自分に言い聞かせたのは、それだけだった。

馬籠宿手前で、見上げると、恵那山はやや霞んでいた。足元の田植え前の水田に映る逆さの恵那山は、なぜか霞んでいなかった。


 

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