この季節、まだ蚊がいない。一年に一度だけ、猫の額ほどの庭で半ズボン姿で、缶ビールを飲む。仕事も遊びも半人前。包丁一つ研げない男。何をやっても盆暗。それでも、しかし、5月の風のこの爽やかさ、新緑の季節の素晴らしさ。名も知らぬ小さな野花を見ているだけで日が暮れて、何もやり遂げぬうちに夜になったとしてもかまわない。