からっぽのたからばこ・BLOG

私が日々に思う不思議な事、嬉しかった事、切なかった事、どうでもいい事(ぇ)が綴られています。

不作為の因果関係と不真正不作為犯(

2005年06月08日 00時43分10秒 | ゼミのレポート置き場
「事例3」 発表者:カジコ&ヤマダ(♂

Xは数年にわたってAと同棲してきたが、最近上司の娘との結婚話が出てきたため、Aを邪魔に思った居たところ、一緒に島巡りをした際に、Aが泥酔&船酔いで昏睡状態である陥ったので、到着した離島に置き去りにし、そのまま自分は帰った。
其の島から最寄の港は20分くらいしか離れておらず、近くには観光客用のテントが多数あったものの、Xはむしろ「全く泳げないAが波にさらわれて溺死すれば都合いい」と考え波打ち際に眠り続けるAを放置した。
しかし、其の直後、島を襲った台風によってAを含めた島の住人全員が死亡する事となった。


①登場人物
A女(X男と同棲中)
X男(A女と同棲中。しかし会社の上司の娘との結婚が迫り、Aを邪魔に思っている。

②ポイント
・XとAは同棲中
・Aは泥酔&船酔いで昏睡状態(おまけに泳げない)
・Xは「砂浜に置いておいたら、波にさらわれて死んでくれないかなぁ」→故意アリ!(未必の故意。
・その日、台風がやってきて、島の住民は全滅してしまった。(勿論Aも死んだ)天災!
・ちなみに、その島の最寄の港までは20Km。(近いとするか遠いとするか
・島には観光客がキャンプしてるテントがあった。(救助できたとするか否か


③論点
このような場合に、不作為の犯罪が形成されるか。
そもそも、不作為によって処罰できるのか。

④考え方
まずは、この事例で被害者の死と被告人の行為との間に因果関係はあったかどうか(省略
次に、故意が有ったかどうか→未必の故意(殺してやる!ではなく死ねばいいなぁという故意)がある

そして本題。

『真性不作為犯(しんせいふさくいはん)』
・法律上に明文の規定がある。
・「汝、~するなかれ」という規定である。
・「しなければならない事をしない事」によって処罰される。
・例)不退去罪(出て行けといわれているのに出て行かない

『不真正不作為犯』
・法律上に明文の規定ナシ
・本来「作為(さくい:行動をすること)」で処罰される罪を、「しない事によって実現した場合に考えられる。
・例)殺人罪(199条)を考えてみる。
ナイフで刺し殺す→刺すという行為あり。作為あり。
乳児に授乳しない→あげない、と言う行為が「死ぬ」という結果を導き出す。
☆法律上に定めがないのに、処罰根拠にできるのか?!

そもそも、不真正不作為犯をドコまで認めるべきか?
「やらない事」により犯罪を成立させるのだから、「やる事」によって成立する犯罪との同価値性・同視性が必要となる。

例)川で溺れる少年がいるとする。
(1)父親が助けに行かない→不真正不作為?
(2)泳げない父親が助けに行かない→これも?
(3)河原の周りに沢山の人が居たのに誰も助けなかった→ギャラリー全員が不作為??
もしコレが不真正不作為と認められると・・・
(ア)あまりに処罰範囲が広い(曖昧であり、不等である
(イ)自分の命を失ってでも助けに行かなければ殺人罪にされちゃうの?
(ウ)そもそも、助けに行かなきゃ行けないという理由はあるのか?!
という事になる。野次馬全員が殺人犯になったら、おかしくなってしまう

⑤学説
そこで、学説は法律上に明文規定の無い不真正不作為犯については、「何らかの制限を加え、不明確&不当な処罰範囲の広さをどうにかしよう」と考える。
それが「保証人的地位」である。
つまり「アンタがやらねばダレがやる?!」という人を確定するための根拠を何とかして探し出そう!というわけ。
その考え形式的に捉える学説と、実質的に捉える学説がある。

『形式的義務説』(形式的三分説)
3つの観点から考える
①法令
・法律上結果発生の回避のための義務のある存在。
・民法820条など(親子の関係)
②法律行為
・扶養・養育など、契約がアル場合に保護義務が発生する。
・治療を依頼された医師など
③条理・慣習(先行行為)
・常識や慣例で結果発生の防止の義務があるもの。
・例)誤って部屋に人が居るのに外から施錠してしまった人。あける義務を常識的に負う。

形式的義務説の利点
☆排他性を考える必要が無いので、処罰をしやすい。認定しやすい。
形式的義務説の問題点
★3個基準があるわけだけど、何個当てはまれば処罰していいのか?
1個は少ない?2個ならOK?3個無いとダメ?

『実質的義務説』
形式的義務説の難点を補うために考え出された学説。
①先行行為説
・先行行為をもってして法益侵害の因果の流れを作り出した場合には、その不作為は作為と同価値であるとする説。
★デメリット→「やらない」事が「救わない」と直結しているとはいえない。
ひき逃げは全て殺人になる。(ひく、という先行行為アリ
授乳しない人は先行行為が無い!殺人罪にならない!
じゃあ、手を出さなければいいのか、という事にはならない!
ダメ

②具体的依存説
・法益の保護が不作為の犯人に依存する時に作為義務を肯定する。
つまり、事実上の「引き受け行為」が重要になる。
★デメリット→ちょっとでも引き受け行為をしてしまったら、保護責任が生まれて処罰の対象にさせられてしまう!

③因果経過支配説
・2つの視点により、不作為の保護義務を考えていく。
(あ)排他的支配→事実上の排他的支配がある場合に、不作為者自らがそれを設定した事が大事。
(い)支配領域性→支配を望んでいなくとも、事実上其の地位に居た場合。
・・これらは2個無いとダメというのではなく、どちらか1方が当てはめればよい。

⑥事例当てはめ
私は「保護責任者遺棄致死」と考える。
因果経過支配説を支持する。
・同棲をしていたXには保護責任者としての義務が発生している。
・昏睡状態で眠る泳げないAを波打ち際に置き去りにする→社会通念上、そのままにしておけば死ぬというのは明確
・「波にさらわれて死ねばいいなぁ」という故意に基づく行為がある。
・しかし、死亡の直接の原因は台風。島の住民が全滅するような尋常でない規模の台風はXの行為とAの死亡の因果関係を絶つ
・Aは結果的に死亡しているが、作為による殺人(例えば首を絞め殺す)と今回の事例を比較して、置き去りにしただけであり、とても同価値とは言え無いと考え、殺人罪は不成立。
よって、保護責任者遺棄致死罪

ゼミの皆さんの統計結果。
殺人の既遂→5人。
殺人の未遂→1人。
保・遺・致→私含め2人
無罪!!!→1人

ちなみに。
現行の多数説は、この事例を殺人未遂と捉える。殺人をしようとして、行為をして、そして死んでいるから。唯一、信じられないような台風があって、島の住民を全滅させるという「因果関係の断裂」により、未遂であると判断し、「殺人未遂」

よって。
殺人既遂と判断する人々は「台風はその場で起きるものでは無いぞ!天気予報を見れば明確だぞ!だから因果関係は断裂しないぞ!」という考え方である。

また無罪になった理由としては(本人に詳しくは聞かなかったから解らんがw)
台風により因果関係ナシ!
置き去りにするXには保護義務ナシ!
という事で処罰適用ならず!とした物であると考えられる。

しかし、実務上は保護責任者遺棄致死罪の判決が多い!
なぜなら、検察側が「確実に判決を言い渡してもらうため」に遺棄致死で起訴しているからである。裁判は起訴された事実に基づき判断をするのであって、裁判官の職権によって起訴とは違う判決(例えば殺人)などは言い渡したりしない。

以上!


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