誰にも記憶されず、生きてきた証を残さずに。

管理人meiyuの創作小説を連載しています。

ラスト・ラン(26)

2009-05-27 | ラスト・ラン(完結)
雨だった。


京浜急行の線路にこびり付いた血痕を洗い流すような、


雨だった。





―――――ガタァン!!!!





雷雨が、火葬場の天窓を穿つ。


光は射し込まなかった。


俺は床に倒れ込んだ。





「てめぇがもっとちゃんと診てやってりゃあいつは死ななかった!!!!」


「やめろ玲二!!」


俺の襟首に掴み掛かった玲二を、古瀬さんが必死に止めた。


「てめぇの所為だ!!!!人殺し!!!!」


「玲二!!聖先生の所為じゃ無い!!誰の所為でも無いんだよッ…!!」





玲二は狂ったように泣き崩れた。





俺への憎悪を剥き出しにした玲二の両眼は、怒りに血走っていた。


…治った筈の心臓発作が再発するんじゃないかと、
俺は虫の沸いた頭で、皆目見当外れな心配をしていた。


殴られた頬は痛まなかった。


感覚を拒絶するかのように、麻痺して。





「畜生!!厭だ!!直ちゃん!!!!!」





雨の…水の匂いと、





「うわあああああああああッッッ!!!!!!」





玲二の悲鳴と、





ほんの僅か残ったナオの骨の、白さ。





あの日覚えているのは、それだけだ。


それだけなんだ。


………それ以外は、


どうしても思い出せないんだ、ナオ。

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