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おもちゃ病院さど Doctor_Rの治療カルテです。

”おはなししよ♪ ドラえもん きょろきょろ めざましどけい” が来院しました。

【申告要望内容】

 ①落としたら、時計が動かなくなりました。

 ②ドラえもんも動くのですが、動きません。

【初診】

 小学館の学習雑誌『小学一年生』2022年4月号の付録です。

 申告とおり時計の音は、聞こえてきません。

 ドラえもんも動く様子はありません。

 内部を開き検査です。 

   スイッチ1:目覚ましセット

   スイッチ2:おしゃべり

   スイッチ3:『小学一年生』5,6月号に付属する”まほうのカギ”を挿すと秘密のメッセージを聞くことができるようです。

 

 検査をしていると突然ドラえもんがおしゃべりを始めたり、黙りになったりします。おしゃべりをしている時は、時計も動いています。あれこれ触っているとGND配線の半田付け部が外れてきました。どうやら時計が動かなかった理由は、この配線の接触不良に有ったようです。半田付けをして時計の処置は終了です。

 

 次にドラえもんの動きについてです。

内部接続図です。

 駆動系の様子です。モータ回転軸のギヤ1からドラえもんのギヤ4までつながっています。ここでギヤ3とギヤ4に歯の欠けや変形が見られます。これでは、ドラえもんは動けません。

 ギヤ3は調達はできそうですが、ギヤ4はドラえもんとの勘合部もあり購入はできそうにありません。

 他方、なぜここまで歯欠け、変形が起きたのかを考えると、モータの回転に対して負荷になるドラえもんの過負荷時のトルクリミッタ(*1がないのです。ですから、ドラえもんが動いている時に動かないようにおさえてしまったり、動いていないときに動かそうとしまうとモータとの力比べになり、最も弱い部分にその力がかかり今回のギヤ破壊につながったと思えます。

 そこで、再び破損する可能性がありますが元の状態に戻すか、うまくいくかどうかはわからないけれど、トルクリミッタを作り込んでみるかの意向を確認して、挑戦することになりました。

 構想は、次のように考えました。

 初めは、ギヤ4も既存の2段ギヤにプラリペアを接着してクラッチ構造を削り出そうとしましたが、素材と大きさの兼ね合いからプラリペアでは剥離するため、あきらめました。

 次に、3Dプリターでクラッチギヤを作る事を考えました。24歯モジュール0.5のギヤを作れるかは未知数でしたが、3D CADで早速設計です。Fusion360(*2は、ギヤを簡単に設計できますのでクラッチ部の付加ですみます。

 造形時の糸引きと中心穴径の調整で、無事に市販品のギヤ3とスムーズに回転することができました。

 ドラえもんの頭とつながるギヤ4の軸を切断して、クラッチギヤをΦ0.35のピアノ線を通して接合しました。

 ギヤ2とギヤ4の回転方向は同一ですが、回転速度は異なるため2つのギヤは擦れ合って回転しています。少しでも回転中の摩擦を減らすためt=0.5のスペーサを挿入して接触面積を小さくしました。

 これで、ギヤ4をクラッチ構造になります。

 ここまで、そこそこ進めることはできましたがここから苦労しました。

当初からポイントになりそうな点としては、クラッチを押しつけるバネ定数とのバランスです。強すぎると、ギヤ4は破損しますし、弱いとドラえもんは動いてくれません。

 詳しく動作仕様はわかりませんが、ドラえもんの頭は左右90度まで回転しているようです。その仕組みが次の写真にあるように頭につながっている円板の刻みと制御基板上にあるスイッチにより実現されています。

 組み立てて頭の回転具合を確認しましたが、思うように左右90度の範囲内で動かずクラッチが滑るだけでした。バネを変えたり長さを変えたりカット&トライです。どうにか頭が回るバネを選択しました。

 

【治療後記】

 この時計は、小学校1年生が使います。説明書にドラえもんを回すと破損する可能性があることを記載されているかわかりませんが、頭を回してはいけないと言われて、言うとおりにする子どもは何人いるでしょう? おそらく日本中に頭が動かなくなったドラえもんがいっぱいいることと推測します。コストがぎりぎりだったのでしょうか? 動きを止めると壊れてしまうおもちゃも珍しいです。何とか壊れないドラえもんにして欲しかったです。

 トルクリミッタを付けることで頭を手で回しても壊れることはなくなったので、退院です。うしろを向いたら、正面に治してあげて下さい。

【追記】

 説明書に以下の様なお願い書きがあるようです。

 

【補足説明】

*1:トルクリミッタ

 トルクリミッタは、機械的な構造にかかる過負荷に対する安全機構のことを指します。何らかの原因によって設計値以上の過大な力がかかったとき、このトルクの伝達を遮断することによって機構部品、電気部品の破損を防ぎます。今回の場合、バネでクラッチギヤを押しつけており、回転トルクが限度を超える状態になるとクラッチが滑ってギヤの破損を防止します。

 バネが強すぎると、クラッチが滑る前にギヤが破損し、弱いとわずかな負荷でもクラッチが滑りドラえもんが動かなくなりますので、適切なバネの選択が必要です。本来は設計時にバネ定数を決めるのですが、今回はカット&トライです。

*2:Fusion360

 とりあえず、おもちゃ治療に使用する部品のモデリングする3次元CADソフトを初めとする製品設計・製造向けのクラウドベースのプラットフォームです。多くの機能の内、すみっこの機能を使っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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