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タローさんの、トコトコ♪エッセイ

アーティスト・きしもとタローの、旅の話や、夢日記、想い出話など…

その11『ズなんだか、ルなんだか…』

2006-07-21 13:15:48 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
その11『ズなんだか、ルなんだか…』

これまでのお話で、何だか私が面白いものや変なものばかりに惹かれて、日々を送っていたかのように思われた方も多いかも知れませんが、一応!音楽をやる者として南米を訪れているわけで、基本的には、やはりお祭りだとか楽器屋だとか、音楽演奏が聴ける場所なんかに心惹かれるのです。ご存知の方も多いとは思うのですが、ボリビアのラパスの街にも音楽が聴ける店(居酒屋?)「ペーニャ」が幾つかあり、その中でも「ペーニャ・ナイラ」は昔からアンデス系の音楽ファンには有名で、一般の観光客の方々にも良く知られている所です。私もボリビアに着いてさっそく、このペーニャを訪れました。

この店では様々なグループが出演し、演奏を繰り広げるのですが、私が訪れた時は店の中を見渡すと比較的観光客が多い客層で、この店がコースの中に含まれたツアーでも組まれてるのかな~と言った感じでした。学校の教室のような感じの机とイスが並べてあり、ここで本当に演奏が始まるのか…?と一瞬不安になるような店の中身です。いざ始まってみると、いわゆる日本でフォルクローレと呼ばれているスタイルの音楽が次々に演奏され、なかなか賑やかで雰囲気はたっぷりです。

ただ、私が完全な観光客なら、どれも目新しく楽しめたのかもしれませんが、なまじ自分も演奏するものですから、基本的には楽しみながらも、やはり「特別にうまい演奏家」や、「古いスタイルの音楽」にしか、自分が大きく反応しなくなってるんですね。「せっかく南米にまで来ているのだから、日本では聴けなかったような音楽が聴きたい、ここまで来ないとこれには出会えなかったな、というような音楽に接したい」、そんなふうな想いが強かったんでしょう…お酒も飲みながら手拍子して盛り上がってる客の中で、何だか一人だけ冷めて聴いてるみたいで、ちょっと肩身が狭い…。

もちろん、どのグループの演奏もいい感じで、好感が持てることは確かなのですが、中でも、結構ご年配の方が中心になって孫とかと組んでるグループ、特にそのご年配のリーダーのオッチャンが(名前忘れた!)なかなかいい味を出して演奏するので、そのオッチャンの一挙一動、リズムの取り方や体の動きには思わず見入ってしまいました。やはり、音楽が気に入ると、その人の身体の使い方や話したりする時の感じに興味がいきます。歩き方が違うと、リズムの取り方も違いますからね。

そして最後に出演したのが、ノルテ・ポトシという有名な北ポトシの音楽を演奏するグループでした。この辺りの音楽ではあまり笛は使いませんが、私はポトシの音楽や、このグループの音楽が結構好きで、目の前で演奏を聴くのを楽しみにしていたのです。カランペアードと言われるチャランゴの独特の弾き方…特に右手の使い方には思わず見入ってしまいます。ギターも味があるし、歌は…とにかく魅力的です。何か日本の、リズミカルな民謡を聴いているような感覚にもなるのですが、ポトシの音楽はメロディーもシンプルで、人懐っこいと言うか…明るくて親しみが持てるものが多いように感じます。どこか「屈託のない田舎っぽさ」のようなものが漂うので、好きなのかも知れません。

ラパスは、部族名や言語で言うとアイマラ族…アイマラ語を使う人達が多数派の街だそうですが、ポトシの出身の人達はケチュア語を使う人達で、彼らの音楽には、アイマラ語を使う人達の音楽とは少し異なった趣があります。私が訪れていた時は、丁度彼らの「プトゥクゥ、プトゥクゥ」という曲がラパスで大ヒットしてて、どこを歩いてても街頭でかかっていた為、頭の中をいつもそのメロディーがグルグルとまわっていました。

そして、彼らの演奏は…その夜の演奏者の中ではダントツに良かった!(というか、単に私が気に入ったのですが)お客さんが酔っ払って無茶苦茶な手拍子の応酬で客席をリズムのカオスにしていたのにも関らず、一糸乱れぬノリで演奏し続け、とにかく元気一杯の舞台を見せてくれました。で、演奏が終わってから色々彼らに尋ねたいこともあったので、お客さんがほとんど出払うのを待って、楽屋の方に行ってみました。

入り口の近くに、ボーッと立る男がいたので、「ちょっと、すみません。ノルテ・ポトシのリーダーのルベンに会いたいんだけど」と話しかけました。すると、男はキョトンとして「ル…誰??」と怪訝な顔つきをするので、もしかしたら聞こえにくかったのかな、と思い私はもう一度「ノルテ・ポトシの、ルベンに会いたいんだけど」と繰り返しました。「ルベン…?ルベン…。誰、それ??」「え?ノルテ・ポトシの…」「んん??そんなヤツ、いないけど」…いない?いないって、どういうことよ。私はポケットから紙を取り出し、彼に見せました。リーダーの名前を知人に書いてもらったメモがあったのです。確かにそこには「Ruben」と書いてあります。「ほら、この人。」
すると、男は紙を見るなり、のけぞって「オオオオ~ゥ!!ズベンじゃないかぁ~!」と大声で叫び、「チョッと待ってて、呼んでくるヨ~」と笑顔で楽屋に入っていきました。ズベン?ズ…ベン??何でこれがズベンになるの?確かに、紙にはハッキリとRubenと書いてあるが…どういうこっちゃ。

全く訳がわからなくて首を傾げてると、楽屋から彼が出てきました。なんか身体も大きくて顔も大きい…。「おおおおお、日本から来たのか!○×とか、△☆とか、知ってるかぁ?」と、私の知人の名前を列挙しながら、力士みたいなデカイ手を差し出してきてブンブンと握手するので、「知ってる、知ってる」と揺れながら答えると、「ボリビアにようこそ~!俺がズベンだ」と自己紹介するではありませんか。「ズベン?」「そう、ズベン!」
おかしい。紙には確かにRubenという字が。「これ、Ruben(ルベン)って書いてあるんだけど。」私が紙を見せると、んんん?と覗き込んで「そうそう!ズベン。俺の名前ね!」と誇らしげに言うではありませんか。「あの、ルベン…だよね?」私が怪訝な顔で確認しようとすると、「んん?ズ・べ・ンだ、ズ・べ・ン!」と更に強調します。「じゃ、この字は…間違い?」「いやいや!!合ってる合ってる!これでいいんだ!」…?わからん!?スペイン語には、私の知らない読み方もあったのか?それとも、こっちの人のもとの言語的にはRはZ発音か何かなのか??

また日を改めて再び会うことを「ズベン」と約束し、その日はホテルに帰ったのですが、どうも腑に落ちない。なんで「Ru」が「ズ」になるんだろう…。そんな調子で次の日も朝から悶々としながら散歩してると、気が付いたらえらく遠くまで歩いていってしまいました。午後のお茶の時間に知人に会う約束をしていたので、それまでは時間があります。そうだ、日本に葉書を送ろう、と思いついて、郵便局までタクシーに乗ることにしました。この辺りでは「乗り合いタクシー」なので、タクシーをとめたら行き先を告げて、それがそのタクシーに既に乗っている人の行き先と方向が違ったりしたら、乗車は断られたりしてしまいます。ちなみに、この辺りでは技術的熟練者…に対しては、マエストロと言う言葉を比較的軽く使うので、タクシーの運転手に対してもマエストロ、と話しかけます。運転技術の熟練者って感じでしょうか。マエストロって、日本人が思っている程、ここラパスでは特別な呼びかけ単語じゃないんですね。

「マエストロ、郵便局(correo…コレオ)まで行きたいんだけど」タクシーの窓を開けた運転手に行き先を告げると「んん??どこ??」と、これまた怪訝な顔つきをされるではありませんか。またもや、発音が悪かったんだろうか。郵便局と言う言葉は「correo」と、rが二つ並ぶので、巻き舌系の強い発音なんですよね。もっと「ちゃんと」言った方がいいのかな、と思って大げさにrを強く発音しながら「コレオ、コ・レ!オ」と言ってみました。ところが、マエストロは「なんだ~??どこだ、それは??わからん!」そう言うと、早々にアクセルを吹かして立ち去ってしまいました。う~む、悲しい。

再び悶々としながら次のタクシーが通りかかるのを待ち、気を取り直して次のタクシーがとまったところへ「コ・レ!オ、コレオに行きたいんだけど」と大きな声で、窓から顔だけ出したマエストロに主張しました。すると「あ~ん?それは、どこのこと??」と、またもや怪訝な顔つきのマエストロ。思わず葉書をとり出して「これ!これの所に行きたいの!」と葉書を指差しながら言うと、「あ~!コゼオかね!?乗りな!」と後部座席を指差しました。なななな、何?コゼオ??

よくわからないまま郵便局に着き、葉書を出して、それから知人宅を訪れました。そして、この「ルなんだかズなんだか、レなんだかゼなんだか」の話をその知人にすると、ボリビア人の知人は大笑い!小さな娘さんを呼んで、隣に座らせて、その訳を説明してくれました。「この娘もねぇ、最初はRはちゃんと発音できなかったのよ~コレオは、コジェオかコゼオって感じで。ルベンも、ジュベンとかズベンになっちゃうのね。あれは、Rの…赤ちゃん発音みたいなものと考えたらいいかなぁ。最初にスペイン語がこの国に入った時に皆が発音し切れなくてそうなっちゃって、それが定着したのかなぁ。」
…なななな何と、そしたらあれは、オッチャンらも、大人がそろって皆で赤ちゃん発音してるみたいなもんかいな!?自分の名前も、そのままで!?そんな可愛い街なんでしゅか、ここは~!!大阪の町で普通に大の男が「おはようごだいま~す」とか「ポンポン、た~い(お腹、痛い)」とか「~でちゅ!」とか、強面のタクシーのオッチャンが「毎度でしゅ。」とか言ってるようなもんか!?ボリビアの首都ラパス…深いでちゅ~!!!

『ワニ神社の狛犬…いや、ワニ犬?』

2006-06-09 19:06:35 | 狛犬 こ♪ま♪い♪ぬ


皆さんはワニ神社という神社をご存知でしょうか?佐賀県の吉野ヶ里遺跡の左上辺りにある小さな神社です。「ワニ」…というのは看板で「鮫神社」と書いてあることもあり、何だか海にいるコワいヤツのようですが、実は日本に漢字と儒教を持ち込んだという伝説の人「ワニ博士(王仁とか和邇吉師って書いてある人)」の事らしいです。

伝説…っていうことは、実際にいた人かどうかわからない…ということなんですが、僕は歴史家ではないのでその辺りのしっかりした検証は出来ません。当時の記述は政治的要請の元に書かれた物が多いし、基本的に記した人々の都合や思惑が反映された上で書かれていたものが多いですから、検証も実際難しいのかもしれません。

ともあれ、ワニさんは古事記や日本書紀や続日本紀とかに登場するだけで、百済から来た漢人系の人らしいのですが、大陸の方の文献にはそれらしき該当者が記されていない…という不思議な人なのです。4世紀後半の人で、論語10巻と一面漢字熟語の千字文を天皇に献上したとされているのですが、千字文はもうちょっと後の時代に完成したものだし、文脈的につじつまが合わない点が多いそうです。確かに、もっと昔から漢字文化はチョコチョコ入ってきてる訳だし、人も渡来してるから…「彼が最初に日本に漢字を伝えた」って話には無理がありそうです。大阪の枚方にある「ワニ(王仁)さんの墓」とされる所も、地元の人が「オニさん」と呼んで拝んでいた石を、江戸時代のある学者が古文書をもとに「これが王仁の墓に違いない」と言い切って、そうなっちゃった所らしいのですが、本当のところはよくわかりません。

そうやって当時、色んな文物を大陸から日本にもたらした人々を、一緒くたにしてシンボリックに「ひとりの賢人」として伝えたのではないか、とも言われてるそうで、そうなってくると、そういう偉人達の集合体のような存在として考えたらいいのかも知れませんね。ワニさん物語は、そういう意味では「神話の部類」に近いと思います。本当か嘘か…という問題よりも、そこから何を読み取るかの方が重要、ということですね。

で、このワニ神社…看板には鮫神社とも書いてあるのですが、確かに古くは鮫(サメ)をワニと呼びもしたようですね。考えてみたら、ワニ(鰐)は航海の守護神である金毘羅さんのサンスクリット語源クンビーラでもありますから、渡来人にまつわる神社にこの航海の守護神の名前がついているのも何となく意味がありそうです。神社の周りには花がワンサカと植えられていて、何だか小さくて綺麗な所でした。

さて、ここの狛犬…狛犬というか石像…神社を守護しているわけではなく、奥の方の祠の脇に対で置かれているのですが、コイツラが何ともいい顔!一瞬、カエルかと見紛うような、前頭葉のない頭にどこか情けない口!思わず…ナデナデしたくなります(実際したけど)。コイツラは一体何者なんだろう??一般的な神社の狛犬&獅子に見られるような「阿と吽のペア」ではなく、二匹とも同じようにしまりのない半開きの口…いや、これは一応閉じているのか?

渡来人や海にまつわる祠には、その昔、舟の重石として載せられていた航海の安全を守る守護獣の石像が、そのまま陸に上がって狛犬のようにして神社や祠に置かれている場合がある、と聞いた事があるのですが、その話を彷彿とさせる風貌です。もしかしたらサルかもしれないな…神使のサル。いや、口がそれこそワニっぽいから、これはもしかしたら航海の守護神獣・クンビーラかもしれない!ワニにしては可愛すぎるけど…足はサリーちゃんみたいだし。
ともあれ、船に乗せるのなら、こういうヤツがいいな。(下の愛くるしい写真参照)


 





『ラブ!狛犬(こまいぬ)』

2006-06-02 19:55:27 | 狛犬 こ♪ま♪い♪ぬ
実は、僕は狛犬(こまいぬ)が結構好きで…神社を巡ると思わず狛犬の写真を撮ってしまうのです。特に「これは何の動物じゃ!?」という謎の生き物バージョンや(考えてみたら、狛犬自体が霊獣とか想像上の動物って言われてたっけ)「おっさん、力づくで無理やり彫りよったな~!」という農村神社の強引作品、「どうした~、何があった!?」と思わず不安になる憂い顔の狛犬、「お前は…絶対、雑種犬やな!」と決め付けたくなるような愛すべきアホ顔の狛犬などは、心惹かれて何枚も撮ってしまいます。
守護獣的な役割として置かれてるはずなのに、あんまし仕事しなさそうなヤツとか獅子なんてのには見えないようなヤツに、何故か心惹かれてしまうんですよね。(下写真は、妙見山のペチャ顔ペア。結構かわいい…攻撃力低そうで。日向ぼっことかしか、してなさそう。)

 


ご存知の方も多いとは思いますが、狛犬起源には諸説あります。巷でよく見られるものは、口開けた「阿」と、口閉じて頭から角生えた「吽」がペアになってるヤツですね。前者が獅子で後者が狛犬…つまり大体は「獅子&狛犬」のセットになってる訳ですが、阿吽のセットにはなってるけど二匹とも角なし…ってのも結構あるみたいですね。それでも「獅子&獅子」とは呼ばずに、やっぱりまとめて狛犬って呼んでしまう。どうも日本人は獅子よりも犬の方がイメージ的に親しみがあるんでしょうか。番犬感覚があるから、門の近くにいるやつは反射的に犬と呼んじゃうとか…。近代の獅子&狛犬はもうすっかり獅子デザインが主流のように思えるのですが、ネコ科とイヌ科(?)で同じようなデザインにするのも何だか力づくですね…文化の同居が習わしになってきた日本の歴史的土壌を考えると、それもアリなんでしょう。ともあれ、一緒に置かれてるから姿形は似て来てるけど、獅子は獅子、狛犬は犬、と呼ぶからにはそれぞれ異なるルーツがありそうですね。


『ネコ科かイヌ科か??』

獅子自体は、古代オリエント世界…中近東辺りの発祥で、インドや中国を経て入ってきたライオンの漢化バージョン(唐獅子)が元になってると一般的に言われてますが、ネコは古代エジプトでも神聖な獣だったし、ライオンとなると百獣の王ってことで万国共通?そのままで王位や権力の象徴になるから、羽とかトッピングされたりあれこれデコレーションされたヤツも含めて、王位のシンボルとして、又その守護として世界のあちこちで使われていますね。日本で見られる獅子でも、近代のものや大陸系のものは大体揃って威嚇したようなイカツい顔つきだし、確かにネコ科のスペシャル・バージョンって感じがします。それぞれに味わいはあるのですが、力や権威の象徴っぽい雰囲気がもろに出てるのも多いから、そういうのは個人的にはちょっと苦手かも…特に大陸系のイカツいのがそのまんまで同じ顔つきで二体置いてあったりしたら(大体そのパターンだけど)、否応無しに王宮臭や政治的威圧感が高まります。この「獅子=王位の守護」的発想は、もともとは八百万の神の神社発想ではないような気もします…。(下写真は山口の錦帯橋とこの神社の獅子…結構上の方からこちらを見下ろしてて、はっきり言ってコワイ。魔界の使者みたい~ 神社に入られんやないか、そんなとこで睨みきかしてたら…)



一方、ちょっと昔の獅子っぽくない狛犬達…特に農村神社の狛犬達。こいつらはどうもイヌ科の雑種の匂いがする!狛犬はもともと宮中にあった木製?の守護獣像みたいのが、同じ守護系の仁王像セットを真似て阿吽の対になって、日本で阿吽ペアが定番になったそうです。もしかしたらこの時代に犬と獅子がセットになってお互いに似てきたのかもしれないけど…この連中がそろって宮中から出てきたのは、それからずっと後の時代になってからだそうで、もとは宮中の雅な方の守護というか…お傍に仕えた聖獣像だったんでしょう。
で、そのモデルなんですが、犬だけど普通の犬じゃないような…以前、「チベットから中国に持ち込まれた狆の祖先犬じゃないか」とか「シーズーの元になった原種のチベット・ワンコじゃないか」という見解の文章を書いておられる方がおられましたが、僕はこれに大賛成です!個人的には素晴らしい説だと思いました。あの目と鼻と耳はどう見てもそうでしょう。ワンコも鼻がペチャになって、毛が長くなったら、ネコにしてはデカい…ちょっと神がかって見えるネコ科の新しい動物…みたくなります。(この辺りから妄想のほうが走っておりますので、お許し下さい)

コマ・イヌという場合のコマが高麗だったら高麗犬になっちゃいますが、これはもうちょっと後からの当て字臭いし、朝鮮の意味の高麗ではないですよね。狛犬の狛は漢字としてはもともと中国の辺境を指す言葉らしいですが…そうならば、胡人と呼ばれた人々が弾いていたとされる胡弓とかと言葉の由来パターンは同じです。漢人が自分たちの住んでる所から見て辺境にあった場所の珍しくて変わった犬を「狛の犬」と呼び、そんな風に紹介された日本人がそのまま「狛犬」と呼んだとすると、すごく自然…。狆の原種なら目もクリクリで可愛かったでしょうねぇ。他のイヌと違って、鼻が出てないわ、毛はあちこち長いわで、初めて見た人にとっては、ただ単に可愛いだけじゃなくて、どこかこの世のものじゃないような、不思議な感じがしたでしょう。で、可愛くて不思議な犬でも、大概は動物の方が飼い主より先に死んじゃうから、きっと宮中でそばを駆けずり回ってたラブリーな犬がポックリ死んだ時は、雅な方々も大ショックだったと思う…そして、死んだ後にその姿をかたどって作られたヤツとかが「死して尚、主人に仕える」「あの世から神獣となって生ける人々を守る」…てな感じでポコポコと宮中のあちらこちらに置かれていたかも知れません…いや、僕なら置きます!

神社で元・宮中人が神格化された神像を祀り始めてから、神社の中に狛犬も置かれるようになったのだろう…って読んだことがあるんですが、これも信憑性がある話です。雅な方が亡くなって、いわゆる人間神みたいな感じで人形(ひとかた)の神像として神社で祭られるようになると、傍に仕えていた神獣像も、それにくっついて宮中から出てきて神社の神像の横に置かれるようになった…そういう流れは非常に自然です…。でも、神社は敷地全域がいわば聖域だから、そのうち石製のものが増えて神社の入り口に置かれるようになった、というのも日本的宗教観から言うと自然かもしれません。犬なら番犬ぽく門に置かれるかも知れんし。いや、せっかくの暢気面たちを、気持ちのいい外に連れ出して日向ぼっこさせてやろうと思ったとか…。う~ん、勝手な妄想が走る。連中も暢気面ばかりじゃなかろうに。

そんな訳で、狛犬の方の起源の「宮中にあった守護獣像」は、もともと獅子とは全く関りなく、もしかしたらマジでそのまま「犬」だったのかも知れません。だって、連中は犬の匂いがプンプンします(感情論?)。王位の象徴って感じがするのは近代のものがほとんどだし、獅子の方が結構後からじゃないのかなぁ(勝手な想像)。ネコ科イヌ科の二体が並べられて同化していくのにも、どっちに寄ってゆくか…みたいなパターンがあったかも知れません。祀られる対象に対して昔ながらの八百万の神々・感覚みたいのが強いと、隣の獅子もワンコの方に似てきて、祀られる対象に対して大陸的な権威っぽいイメージが強くなってくると、今度はワンコも獅子化してきた、とか…。う~む、強引??

ともあれ狛犬の方に関しては、犬って呼ぶからには、宮中で発祥した際に、何かしら実在した犬のモデル…たとえば死んだら神格化されそうな風貌のワンコがそのまんま、いたんじゃないか、と思えませんか?(というか僕がそう思いたいだけなのですが)
もちろん、日本じゃ獅子も…モデルとなってるライオンなんてのも、ほとんどの人が実物見たことないから、無理やり想像で獅子作ろうとして、身近な動物思い浮かべながら作ったら、いつの間にかやたら犬っぽくなった…てのもアリだとは思いますが。そんなことだったとしても、それはそれで憎めなくて面白い。時々地方の神社を訪ね歩くと…明らかに資料なしで無理やり妄想膨らませて作った謎獅子とか、いつの間にか身近な別の動物に似ちゃった「やってしもた狛犬」がありますもんね!まぁ…そんな風にいろんな妄想が膨らむところも狛犬のいいとこです。(下写真…大宰府の最近作られた新しい狛犬ども。こいつら、獅子の振りしてるけど絶対狆かシーズーの仲間!この無邪気さは両方ワンコやろ!…と思いたい。)


  









その10『アイ、セラミカ♪』

2006-05-26 03:30:58 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
『アイ、セラミカ♪』

その日、昼を過ぎるとすっかり人だかりも消え、街は普段通りの姿に戻っていました。あの大騒ぎ(デモ)は一体なんだったんだろう…嵐が去った後のような呆然とした感覚で、教会の近くの坂を歩いていると、道の途中で三葉虫の化石が売られていました。山のほうへ行けばポロポロと採れる所があるそうなんですが、そういう所で化石を沢山採って来ては、観光客向けに売りに来ている人がラ・パスには結構いました。地べたで布だけ広げて売ってる人も入れると、その数はかなりのものです。日本で買うよりも値段はずっと安いので、昔から化石や考古学に興味のあった私は、嬉々としてそんな街頭の化石屋さんをまわり、いい感じのヤツを探して買っていたのです。通常は採取する際、石ころを割って開くと中に三葉虫の化石があるのですが、その開いて出てきた化石部分に、再び、割ってはずした石のかけらをもう一度カパッと上から合わせて、割る前の状態の石ころ状態…つまり採取時の状態で売ってるものが結構置いてあるんですね。そのタイプは、開けた時の喜びが大きいので、特にお気に入りでした。

そんな三葉虫の化石の中に、実は偽物がある…という噂を聞いた私は、並べられた化石を見ながら、「偽物ないかなぁ~」と、偽物にも目を光らせていました。「偽物」…この魅力的な響き!昔から、なんとなくそういうのにも惹かれちゃうんですよね!学生時代、先輩がPUMA(ピューマ)の新しいカバンを買って自慢していた時、皆で見たら「PUNA(ピューナ)」だった時…また、大学生の頃、友人がアメリカ帰りの人からもらったという「マイケル・ジャクソン」のTシャツを得意げに見せていた所、よく見たら顔が少し不自然なので、字を改めて読んでみたら「マイティ・ジェイソン」だった時…何だか独特の「得した気分」になったのは私だけだったのでしょうか。「似せた物」をセコセコ作って騙しにかかる連中の、中途半端な職人芸と、謎の熱き想いに惹かれて、思わず大笑いするような強引な海賊版や、「一字違い」のバッタモンを探してしまう妙な癖が、私にはあったのです。

で、その日、ホテルの近くの路地を何気なく入ってテクテク歩いていると…何か怪しい爺ちゃんが、ヒョコヒョコと不審な動きで、通りを何度も横切っています。私に気付くと、これまた妖怪のようにジワ~っと近寄ってきて、手でコイコイ、と招くのです。何かな、と思って爺ちゃんの顔を覗き込むと、爺ちゃんはニヤ~っと笑って黒い包みを取り出し、布をハラリと開けると、そこには丸くて黒い石らしきものが…そして爺ちゃんが両手でその黒石を持ち、カパッと開けると、そこには三葉虫の化石のようなものが…満面の笑顔の爺ちゃん!しかしその石…上と下で微妙に大きさ違うし、よく見たらちょっとズレとるやないかぁ~!?爺ちゃん、焼き加減でしくじりよったなっ。しかも石の表面には、どう見ても練り練りして作った際に付いた、爺ちゃんの指紋らしきものが!こんなあからさまな偽物、あっていいのか…?衝撃で言葉を失っていると、「くくく…セラミカ♪買う?」とニコヤカにのたまう爺ちゃん。

…あの~、確か化石は「フォシル」で、「セラミカ」は陶器のことだったと思うんですけど…こんなあからさまに偽物告白していいのか??それとも一瞬で、私の偽物数寄を見破ったのか??満面の笑顔の爺ちゃんに「あの…これ、本物?」と、思わず問いかける私。しかし爺ちゃんはカクン!カクン!と人形のように頷くだけです。どうやらスペイン語片言の私以上に、スペイン語わかってないような感じです。爺ちゃん、まさか化石のスペイン語が「セラミカ」やと思っとるんじゃあるまいな…誰かが嘘のスペイン語教えたか…そのまま見て真実を言ってしまったとか?で、その時誰かが言った「焼き物じゃん!」というスペイン語を、化石という言葉と思い込んで聞いて覚えてしまったとか??

祈るような気持ちでもう一度問いかける私。「化石って…フォシルだよね??…ね??」嘘でもいいから、売りたいんやったら「フォシル」と言ってくれ~!爺ちゃんの目をグッと見つめ訴えかける私に、爺ちゃんはにっこり笑うと、「くくくくく…セラミカ♪いっぱいある…買え!」あかん~!!!いきなり命令形か~!!唐突な展開に身もよじれます。「わかった、わかった!セラミカね!くく~」「…買う?」「くくくっ…買う買う!もちろん!」満面の笑顔の爺ちゃんと固い握手をかわし、こうして私は念願の「偽物三葉虫」を手に入れたのです。それからも、路地の近くを歩くと時折あの爺ちゃんが通りの向こうに立っていて、笑顔で「アイ、セラミカ♪(セラミカ、あるよ)」と私にコイコイするのでした。一個で充分じゃぁ!

…あの爺ちゃん、まだ生きているのかなぁ。なんとなく、もう一度会ってみたいな、と思う今日この頃です。

その9『デモとブリーフ』

2006-05-18 10:53:04 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
『デモとブリーフ』

ラ・パスの街は、あちらこちらに屋台が出ていて、まるで毎日が縁日のようです。朝起きるとブラッと通りに出て、教会前の広場のお目当ての屋台で買い食いをしてオバちゃんの屋台でグレープフルーツを一杯飲んで散歩を続けるのが、私の毎朝の日課になっていました。

そんなある日、教会の前に行くと、とんでもない人だかりが出来ていて、プラカードを持った人々が口々に何かを叫び、街頭で箱の上に乗って演説をしている男もいます。どうやら祭りでもないし…デモか何かでしょうか?通りは農民系の格好のオバちゃんチョリータ達で埋め尽くされており、ずっと向こうの通りまで人で一杯で、どこまでこの列は続くのかなぁ~と思ってブラブラ歩きながら眺めていると、向こうの方からものものしい軍人の群れが手にデカい催涙弾か何かを持ってワラワラとやって来るではありませんか!これって、もしかしてヤバイ状況??群集を少し離れたところからグルッと取り囲むように隊列を組み、並ぶ軍人達。その顔は…う~ん、当然かも知れないが全然笑ってない!いや、いむしろ何か怒ったような顔しとるやないの!半ばビビッて様子を伺っていると、軍人達を見て俄然やる気出して口々に何か叫び、軍人達を挑発するオッサン達!おいおい、大丈夫なのか??何か投げるようなそぶりまで見せて挑発する無謀親父もいるし…やめてくれー!何の集会か知らんが、あんまし武器持っとる連中をその場の勢いで刺激すんなぁ~!そんな、一触即発にも見える雰囲気の中を、人だかりをかき分けて白いカゲがヒョコヒョコとやって来ます。良く見たら、アイスクリーム売りです。すかさず、オバちゃん達がワラワラと群がって買ってるので、思わずつられて一個買って食べてみると…これがうまい!?いや、のん気にアイスなんか味わってる場合なのか??アイスを食べ終わったら今度は突如、ノリのいい太鼓と笛の爆音が響き渡り、振り向くとタルケアーダ(木製の笛の大合奏)の群れが登場!…なんか、脈絡わかんないけど格好いいぞ!?これは一体何のイベントなんでしょ?(いや、デモですよね)

見渡してみると、心なしかいつもより屋台も沢山出てるみたいだし、アイス売りは普段と変わらず営業に励んでいるし、軍人達は手に嫌なもの持って突っ立ってるけど…これはもうちょっと奥の方まで行って見る価値がありそうだな…そう思った私は、オバちゃんチョリータ達の間をズンズン進んで行きました。通りは本当に真っ直ぐ歩けないほどの人です。近くに大学(だったかな)があってその前まで行くと、やたら大きな人だかりが出来ていて、オッサン達が口々に何か叫んでいます。何か面白そうなので野次馬根性で近づいてみると、上のほうを見上げて泣いたり叫んだりしとるオッサンもいるし、なにやら想像以上の大騒ぎです。何があるんだろう、と思って一緒に見上げてみると…なななな、何と!!建物の一番上にデカい十字架が立ってて、ブリーフ一丁の親父が貼り付けられてるではありませんか!!??何をやっとるんだ、あの親父は!?どっからどう見てもアブナイ奴だが…いや、待てよ?確かあの姿には見覚えがある…。そうだ!昔「俺たち!ひょうきん族」に出てた、グレート義太夫やないか~っ!(注:別人)しかも、良く見たら同じようなのがもう一人おる。足元からは何かをアピールする内容が書かれた垂れ幕が下がっており、どうやら身を挺して何かを訴えているようです。私の言語知識では何が書いてあるのかわからなかったのですが…。

振り返ってみると、次から次へと人々が押し寄せ、どうやらこの大騒ぎの中心で、私は全く身動きが取れない状態になっていました。えらいとこにまぎれ込んでしまった!そして、そんなグレート義太夫(ツイン)を指差し、泣いたり叫んだり、こぶしを振り上げて怒りの言葉をぶちまける群集!それにしても、何でブリーフ一丁で…私は腰が砕けそうになりながら、周りを見渡しました。すると…私一人、浮いてる!この状況にはまれない人間が一人…!マズい…!かと言って、あの東西南北どっから見てもアブナイ親父を指差して一緒に嘆き悲しむ事も出来んし。するとその時、あからさまに悪そうな顔つきのオッサンが人だかりをかき分けて中心に躍り出て、なにやらデカい声で演説を始めました。政治家か何かでしょうか?罵声を飛ばしながら迫り来る人の群れ、手に嫌なものを持った軍人達と押し合いへし合いが続きます。そんな群衆の間でもみくちゃになりながら、一体どうなることか、と思ってふと気付くと、屋上の十字架に、さっきのグレート義太夫ズ(ツイン)がいません。いつの間に…と辺りを見回すと、人だかりが「うわあああっ!」と開けて、一際大きな歓声があがりました。そこには、あのブリーフ一丁のグレート義太夫(ラテン・バージョン)が!身ぐるみ剥がされて一昼夜さまよった後のオッサンのように、足元おぼつかなくフラフラと歩いてきます。しかも、ヨレヨレのブリーフは心なしか脱げかけです。義太夫がかすれた声で、しかし力強く何かを話すと、群衆の中からどよめきが起こり、次の瞬間、なんと!さっきの悪顔の政治家と義太夫がガッシリと抱き合い、二人の頬には熱い涙が!?湧き上がる大歓声と拍手、泣いたり叫んだり、口々に大声をあげる大観衆!至近距離(約2m)で繰り広げられる謎の感動シーン!全く状況にはまれない日本人が約一名…俺、最前列やん!?なんでここにいる??

今更逃げる事も出来ず、オッサン二人が涙で抱き合う感動シーンを眼前に、呆然と立ち尽くしながら「オッサンのブリーフ、脱げかけやし、誰かあげてやってくれ!」と、心の中で群集に叫び続ける私でした。