つらつら日暮らし

仏教界に見える滑稽さ

先日、或る文章を読んでいたら、或る「滑稽さ」について指摘していたので、参照してみたい。

「平家にあらずんば人にあらず」と言ったのは平忠盛とされるが、この意味は"平家じゃなければ人じゃない"。すなわち平家以外の人間たちへの見下し(あるいは平家のみが正義という思い込み)であるが、もうひとつ極めて偏った価値観とそれを信じきる人間のおかしみが含まれているように感じる。今に置き換えて、どれ程の名家があったとしても"その家以外の人は人じゃない"というのは排他的を超えて、滑稽ですらある。
    中江有里氏「広大な荒野の前に立つ―石母田正『平家物語』」、岩波書店『図書』2014年9月号、12頁


この滑稽さは極端で且つ、理由の分からない排他性から生み出されたものである。もう、その当事者以外には分からない排他性、それが滑稽なのである。しかし、当方は今の仏教界には、この意味での排他性が渦巻いているように思う。しかも、その排他性を保持している連中は、自分たちが、排他的であると気付いてはおるまい。また、極端に偏った価値観を抱いているとも自覚してはおるまい。だからこそ、滑稽なのだ。

当方つらつら鑑みるに、この滑稽さは、不寛容から生み出されるものである。不寛容が何故、滑稽に至るのか?それは、不寛容の多くが、その理由を万人が納得する形で導き出すことが出来ないにも関わらず、強圧的にそれを行うためである。現代における不寛容は、その理由の源泉が「神の側」に置かれている場合がある。いわゆる、宗教的不寛容である。また、「世俗の側」に置かれている場合がある。いわゆる、差別的不寛容である。

前者については、「神の側」にその理由が置かれており、しかも、それを利用する人間にとって都合の良いことに、神の論理は、我々人間には理解できないことになっている場合が多い。結果、万人が納得できない。でも、不寛容だけが行われ続けていく。後者については、「世俗の側」にその理由があっても、当事者にはどうすることも出来ない場合が多い。既にそれをそれとして行うことに慣れてしまっていて、批判の意思を導けないためである。

いわば、両者とも、何かしらの「正義」には依拠して、不寛容を行っている。だけれども、その「正義」は既に、我々に扱うことが出来ないものである。「正義」を行っているように見える者は、その人本人は気持ちいいかもしれない。何故ならば、「正義」は間違うことが無く、自分の正しさは、自己肯定感へと繋がり、万能感すら得るためである。しかし、結局は説明すら出来ない、根拠も無い、そんな「正義」に依拠しているだけだ。当方は、そういう者を「愚者」と呼ぶことに躊躇しない。或いは、釈迦牟尼仏が説いた「無明」とは、ここまで射程に入れているのではないか?

だからこそ、仏教には「増上慢」への否定がある。当方は、数多ある仏教の教義で、これほど素晴らしいものはなかなか無いと評価している。「自分は既に正しく法を得ている」という正義への陶酔、それが「増上慢」である。大乗仏教にはこんな文脈がある。

比丘比丘尼の 増上慢を懐くことある
優婆塞の我慢なる 優婆夷の不信なる
是の如き四衆等 其の数五千あり
自ら其の過を見ず 戒に於て欠漏有って
其の瑕疵を護り惜む 是の小智は已に出でぬ
衆中の糟糠なり 仏の威徳の故に去りぬ
斯の人は福徳尠なくして 是の法を受くるに堪えず
    『妙法蓮華経』「方便品第二」


これは、「退くも、亦、佳し(矣)」という一節を受けて示された内容であり、『法華経』を説いた世尊は、増上慢には自らの法席から退席することを認め、しかも、何故彼らがそういう態度を採るに至ったかを、舎利弗相手に説示したのである。なお、ここで挙げられている理由は、「戒に欠漏があり、自らの瑕疵を護ってしまうため」であるという。更に、福徳が少なくてそうなったともいう。我々は、こういう残念な様子を避けるにも、必ず善行を積んでおく必要があるが、常にそれは自らに対して行う必要がある。そして、増上慢を、正義への陶酔を避ける必要がある。

それが出来なければ、不寛容を招き、ただ滑稽さを増大させるだけなのである。なお、当方は、仏教界に於ける最大の不寛容は、現代の日本仏教叩きそのものであると思う。一度で良いから、正義に依拠しないで日本仏教を批判できる人に会ってみたいものだ。

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