つらつら日暮らし

「第一官律名義弁」其十八(釈雲照律師『緇門正儀』を学ぶ・18)

ということで、もう10回以上、釈雲照律師『緇門正儀』の「第一官律名義弁」の内容を見ている。なお、これは【1回目の記事】でも採り上げたように、「今略して、僧に位官を賜ひし和漢の官名、職名及び初例を挙示せん」とあって、職名の意味というよりは、任命された最初の事例を挙げることを目的としているようである。よって、この連載では、本書の内容を見つつ、各役職の意義については、当方で調べて、学びとしたい。現在は日本の役職となっている。

一 従五位下
聖武皇帝、天平元年八月癸亥、唐僧道栄、身、本郷に生まれ、心、皇化に向かふ、遠く滄海を渉て、我が法師と作る。加以、子虫を訓導して大瑞を献ぜしむ、宜しく従五位下階を擬す。
    『緇門正儀』9丁裏、訓読は原典を参照しつつ拙僧


いわゆる「位階」ということになるが、それを僧侶に授与したのである。なお、正一位から従八位までが数字で示される位階で、従五位以上を貴族としたというから、ここで名前が出ている「唐僧道栄」は日本の貴族になったことを意味しているのだろう。聖武天皇の時代の記事であるから、典拠は『続日本紀』であると思い、調べたところ同書巻10に該当する記述があった。

それで、『緇門正儀』には他の位階についての記載もあるのだが、ちょっと気になった一節があった。

一 正五位上
高野天皇天平神護二年九月壬申、修行進守大禅師基真に正五位上を授く〈類史〉。
一 正四位上
同十月壬寅、基真に授く〈類史〉。
    『緇門正儀』10丁表、訓読は原典を参照しつつ拙僧


これは、高野天皇(孝謙天皇のことだが、重祚した称徳天皇の時代)の天平神護2年(766)の9月及び10月に大禅師の基真に対し、正五位上、正四位上と立て続けに位階が授けられたのだが、流石にこんなことある?と思い、更には孝謙天皇との関係を思うと、まさか弓削道鏡関係か?と考え、調べたところ、完全にそれ。というか、横田健一先生『道鏡』(吉川弘文館人物叢書)は読んだはずなのに、完全に失念していた。

ということで、「類史」とあるが、時代的に『続日本紀』のことなので、そちらを確認した。すると、後者の「正四位上」に昇進した理由は、以下の通りであった。

○壬寅 隅寺毘沙門像に現ずる所の舍利、法華寺に於いて奉請す。
    『続日本紀』巻27、訓読は拙僧


これは、天平神護2年のことらしいが、隅寺(平城京の北東隅に所在した海龍王寺の別名)の毘沙門像に、舎利(仏舎利)が出現したため、その奇瑞を祝って昇進したという。ところで、この話には更なる「後日談」がある。それは、『緇門正儀』に以下の記述があることからも理解出来よう。

一 姓
同時に基真に物部の浄の朝臣を授く〈類史〉。
    『緇門正儀』10丁表、訓読は原典を参照しつつ拙僧


要するに、基真に「物部浄朝臣」という姓を賜ったというのだが、正直、仏教者って自分の氏姓を捨てるのが本義だから、この辺大丈夫か?とは思うのだが、この人もそこまでの人であった。先の「仏舎利出現」の話は、以下のように帰結した。

○十二月甲辰 先の是れ山階寺の僧・基真、心性無常にして、左道を好学し、詐りて其の童子を呪縛し、人の陰事を教説す。至りて乃ち、毘沙門天像を作り、密かに数粒の珠子を、其の前に置き、称えて仏舎利の現ずると為す。道鏡、仍りて時の人を眩耀せんと欲して、以て己れの瑞と為し、乃ち天皇に諷して、天下を赦し、人に爵を賜う。基真、物部浄志朝臣の姓を賜う。法参議を拝し、随身の兵八人なり。基真の怒りを作す所の者、卿大夫なりと雖も、皇法を顧みず、道路、之を畏るること、避けて虎から逃げるが如し。是に至りて、其の師主、法臣・円興と凌突し、飛騨国に擯せらる。
    『続日本紀』巻27、訓読は拙僧


これは、まだ称徳天皇の時代、神護景雲2年(768)12月のことだが、基真が道鏡の法臣だった円興と衝突してしまい、飛騨国に流された話を伝えている。要するに、先の「仏舎利出現」は、基真が自ら仕組んだことだったようだが、それを道鏡が利用する形で、恩赦や昇進を行ったようである。ところが、それで増長した基真が、円興と衝突し、結果上記の通りとなったわけである。いや、「姓」を貰ったのは、こういう先を示すのだと理解しなくてはならないな。それから、僧侶が権力・権威を持つとろくなことが無い。

【参考資料】
釈雲照律師『緇門正儀』森江佐七・明治13年

仏教 - ブログ村ハッシュタグ
#仏教
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「仏教・禅宗・曹洞宗」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事